第22話 ベルトなら……いいよね?

 ……目の前でムスッと寝転ぶのは魔穂斗。

 分かりやすく怒りを表してくれているのか、毛布の下では腕を組んでいる。


「ねぇ……。ほんとごめんって……」


 肩を揺すりながら謝ってみるけれど、当たり前のように目を合わせてくれない魔穂斗は尖らせた唇で言う。


「俺、扉の前に貼ってたよな?『お風呂使用中』って紙。というかご飯食べ終わった後に言ったよな?『風呂入ってくる』って」

「……書いてありましたし、言ってました……」

「なのに入ってきたのか?バカなのか?いやアホなのか?」

「……ごめん」


 窓の外を眺めながら暴言を並べる魔穂斗に、私はただ頭を下げることしかできなかった。


 念の為にも、私達はユニットバスの扉に『お風呂使用中』の紙を貼ることを義務付けた。

 ほとんどないけど、バラバラに帰ってきたときに知らせないといけないから。


 もちろん、それを提案したのは私であり、ずっと『入ってくるな!』と言ってたのも私であり……今回の件で全面的に悪いのは私であり……。


 ズシッと体が重くなるのを感じながらも、魔穂斗を揺する手は止めない。


「ほんとごめんなさい……。次からは気をつけます……」

「次から気をつけるのは当たり前だ。というか、俺が怒ってるのはそこじゃない」

「え?」


 間抜けな声とともに、揺すっていた手を止めてしまった。


「朱使葉も考えことしてたんだろ?頭がいっぱいいっぱいで入ってしまったのかもしれない。それに俺もたまにトイレ行ってるし」

「……え?そうなの……?」

「朱使葉のシャワーは長いからな。髪が長いから仕方ないけど、流石にトイレ我慢できん」

「え、あ……うん」


 ふいっと顔を逸らしてしまうのは、紛れもなく私。


 確かに、私の髪は長いから他の人よりもシャワーの時間は長い。

 ……けど、本当はもっと早くに終わってる。


 私がお風呂に滞在する6割の理由は……なんというか、子どもを生む練習というか……なんというか――


「顔赤くね?大丈夫か?」

「え!?あ、うん!大丈夫!」

「明らかに動揺しまくってるけど……まぁいいわ」


 せっかく合わせてくれた目があっという間に逸らされるけど、今の私にはそれが好都合。


(ここ最近の相手が、魔穂斗なんて絶対に言えないから……)


 熱くなる頬を隠しながらも、肩の揺すりを再開させた私は口を開く。


「そ、それで?魔穂斗が怒ってるのはなにに対してなの……?」


 私がユニットバスに入ったことじゃないとすれば、他に心当たりになるものはない。

 相変わらずに熱い顔を傾げていれば、途端に魔穂斗の頬も赤くなった。


「…………ちっさって言ったの撤回しろ」

「はぇ?」


 腑抜けた声が漏れ出るのは必然だと思う。

 だって……え?ちっさいって言ったことに怒ってるの?


 いやまぁ確かに小さかったよ?私の小指よりも小さかったと思うよ?


(え、そこ気にするんだ?)


 素朴な疑問がグルグルと脳内を回るのを感じながらも、毛布に隠れた下半身に目を向ける。


「えーっと……え?な、え?撤回すれば……いいの?」

「…………そうだ」

「え、あ、わ、わかった。魔穂斗のアソコは……お、大きい……です……?」


(え?乙女になに言わせてるの?)


 そんな愚痴が零れそうになるけど、グッと堪えて熱い顔をそっぽに向けた。

 そうすれば、同じようにさらに赤みを増した魔穂斗の顔もそっぽを向かれる。


「……ども」

「え、う、うん……」


 グルグルと目が回る中、おもむろに毛布を持ち上げた。


「……朱使葉?」


 疑問に満ちた声が耳に届くけど、お構いなしに毛布に足を捩じ込んだ。


「え……っと、きょ、今日はもう……寝るね?」


 そうして目の前にくる魔穂斗の顔に引き攣った笑みを見せ、電気を消した。


 正直なことを言えば、今の私はこの上なく欲情している。

 それこそ最近魔穂斗であれをあれしてあれしてたから、色々と妄想が捗って……なんか体が熱くなって……。


 そんな悶々とした気持ちを鎮めるためにも、大きく腕を開いた私は、ギュッと魔穂斗に抱きつく。


「……朱使葉?」


 ポツリと呟かれる言葉だけど、当たり前のように疑問に満ち溢れている。


 身長が同じだからか、今一番触りたい箇所に当たる……固いなにか。

 寝る時にベルトを履いてるのかは分からないけど、今だけはホントやめてほしい。


(……けどまぁ、ベルトなら……いいよね?)


 魔穂斗の腰に足を回した私は、その固いものにお股を押し付けた。

 もちろん、ハグはやめずに。さすがに魔穂斗の前で変な声を出さないためにも、それ以上の動きは見せずに。


 ただ、自分の欲望を抑え込むためだけに。

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