#16 修学旅行、或いはひと夏のアバンチュール③

*注意

アリサ「『未成年がウイスキーボンボンを食べることは問題ないけど、よいこのみんなは時と場合をよく考えようね』……これでいいんでしょうか出海様」

出海「皆さんはこのバカみたいにはならないようにね」

________________________



「出海ちゃん、遊びに来たよ?」

「いらっしゃいユキ。お、その浴衣……」

「へ、変かな……?」


温泉を出て一度自分の部屋に戻ったユキが、寝間着として用意されていた浴衣に着替えて私とアリサの部屋に遊びに来てくれた。

藍色の浴衣に身を包んだ彼女の姿があまりの美しくて思わず言葉を忘れて固まってしまう。


「ああいや、よく似合っているよ。むしろユキのために用意されたんじゃないかってくらいだよ」

「そ、そんなに褒められても……ありがとう出海ちゃん」


浴衣の袖で顔を隠すユキがなんともいじらしい。

これから毎日浴衣を着てもらおうかなと真剣に検討したくなる。


「あれ?南は一緒じゃないんだ」

「南ちゃんは部活の友達の部屋に行くって。邪魔したら悪いからって言ってたけど、もしかして気を遣われちゃったのかな?」

「別に邪魔なんかじゃないのにね。まあ、気を遣ってくれたなら後でお礼を言わなきゃだね」

「そ、そうだね(出来れば麻水さんも……なんて思っちゃいけないよね!?)」

「今貴船さん、私もどこか行けばいいのにって思ってたでしょ?」


布団に寝転がってスマホをいじっていたアリサが顔を上げてユキを睨む。


「そ、そんなこと全然思ってないよ!?」

「そうだよ、アリサ。ユキがアリサと一緒にいたくないなんて思うわけないじゃない」

「(いや、私といたくないんじゃなくて、出海と2人きりになりたいって意味だと……)」

「アリサ、何か言った?」

「いんや、なんでもないですよーだ」


呆れ気味にそう言ったアリサはおもむろに立ち上がって、なんといきなりパジャマを脱ぎだした。


「アリサ!?なんで急に脱ぎだすのよ!」

「出海がエロい目で貴船さんのこと見てるから私も浴衣に着替えようかなぁって」

「べ、別にそんな風になんか……!」

「そんな風になんか何なのさ」


論理が破綻してるし、純粋にユキが綺麗だと思っただけだから、すぐに否定の言葉が出てくるはず。

だけど、言い淀んでしまった。

座って彼女が歩く姿を見上げていると、浴衣の裾の間から姿をのぞかせる白い太ももに目が行ってしまったから。


「……出海ちゃん?」

「だから、ユキはそんなんじゃ……ないわ」

「これでよしっと。どうかな出海、私の浴衣姿は?」


声がした方を振り返ると、セミロングの金髪をお団子にした浴衣姿のアリサが目に飛び込んできた。


「「きれい……!」」


私とユキの声が重なる。

質素な藍色の浴衣が彼女の華やかな容姿をより一層際立たせていて、むかつくくらいに似合っていた。

それに……


「どこを見てるのかなぁ出海ちゃ~ん?」

「……出海ちゃん?」


浴衣の襟から垣間見える健康的な色をした谷間……に目を奪われていたところ、2人からお咎めをいただいてしまった。


「出海、やっぱりえっちじゃん」

「出海ちゃん、ダメだよ?」

「ちょっとユキ!?」


言われて尚、胸元を手で隠したアリサを呆然と眺めていたら、ムッとした声を出したユキの手で目を覆われてしまった。


「手を離してよユキ」

「正直に言ってくれるまでダメです!」


そんなに目くじらを立てなくても……と言いかけたが、私の地雷レーダーがそれをとどめてくれた。

でも、最近のユキを鑑みるとなぁ……


「別に見てないもん」

「「出海(ちゃん)のうそつき」」


視界を奪われて2人から責められるこの状況にもなんだか高揚感を覚えてしまう。

私ってこんなに変態だったかなぁ。


* * *


「皆さん準備が整ったことだし、私からエッチな出海に特別サービス!」


湯冷めの心配もなくなった頃になって、アリサがカバンを漁る物音が聞こえてきた。

とても心外な言葉だけど、今の私に反論するすべはない。


「じゃじゃーん☆出海、これが何だかわかる?」

「ユキさん、そろそろその手を離していただいても?」

「ダメです!私が手を離したら、出海ちゃんまた麻水さんのことエッチな目で見るでしょ?」


アリサが取り出したものを見たくても、あれからずっとユキに目を隠されていて何も見えない。


「見ません。もう見ません!」

「もうってことはやっぱり見てたんだ?」


アリサからの鋭い指摘が突き刺さる。もはや、ここまでか。


「ごめんなさい。見てしまいました」

「(もう本当にダメ、だからね?)」


ユキが耳元で囁いてきて、私の背中に思い切り胸を当ててきた。

目が見えないから、彼女のドロッとした声と柔らかな胸の感触がより強烈に伝わってくる。


「貴船さん、出海も白状したことだしそろそろ外してあげてもいいんじゃないかな?」

「そうだね」

「気を取り直して、これはなんでしょう?」


ユキの手が外れて、アリサの手にある木箱が見えるようになった。


「えっと……ウイスキーボンボン?」

「正解!3つあるチョコのうち、1つが本物のウイスキーボンボンで、他の2つは見た目が同じのただのチョコレートなの」


アリサが中身を指さしながら声高に説明してくれた。

なんてものを持ち込んでいるんだ……


「麻水さん、それはダメなんじゃ……その私たち未成年だし」

「ウイスキーボンボンは別に未成年が食べても無問題モーマンタイだよ。ささ、2人とも1つずつ選んで」

「どうする、出海ちゃん?」


どうするか決めかねているユキと顔を見合わせる。

私は食べたことがないから、どんな味がするのか正直少し興味がある。


「じゃあ、私はこれにしようかな」と言って、ウイスキーボトルの印刷がされた個包装を1つ取り出す。

「出海ちゃんが食べるなら私も……」と私に続いてユキも1つ選んだ。


「それじゃあ、余ったこれが私のだね。早速食べてみようか!いただきます」


一切のためらいなく口にチョコを放り込んだアリサにつられて、私たちもチョコを口に運んだ。


「これは……普通のチョコかな?」


よく味わってみたが、どう考えても普通のおいしいチョコだった。


「んー私もだ~。出海も違うということはもしかして……」


アリサもただのチョコだったらしく、自然とユキに視線が集まる。

静かにチョコを咀嚼していたユキの動きが完全に止まる。


「ユキ、大丈夫?」

「……」


私が呼び掛けても反応しない。少し様子を見ていると、彼女の顔が少し火照ってきた。


「ふ、ふにゃ〜」

「ユ、ユキ!?」


どうしてこう、私たちは普通に修学旅行を楽しめないのかなぁ……

_______________


長くなってしまったので前後半で分けさせていただきます

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