第4話

「そうかい。そっちが本音かい。」

 泣き出した事を問い詰められて、僕はヤモリに全部話した。就活に失敗した事、じいちゃんの手伝いを傘に逃げて来たこと、でもじいちゃんは多分気づいている事。

「そうは言うけどね、昭三は嬉しかったと思うよ、あんたが来てくれて。」

「そうかな。」

「あんた、今ひとりぼっちみたいで辛いだろ。同じだよ。昭三も。」

「……そっか。ばあちゃんもいないし。」

「独りの時ほど、どういうわけか、寂しいって言えないんだよねえ。」

「ヤモリも、寂しいときある?」

「あんたが来るまでがそうだったよ。あんなだだっ広い家に、だーれもいないんだから。ブラウニーがいくらいたって駄目。人間のいない家はすぐ廃れる。」

 ブラウニー達、結構賑やかだと思うんだけどな。でも、それこそ妖精は人間ありきの存在、という事なんだろう。

「でも、おじいちゃんもブラウニーの事、嫌いじゃないよ。でなきゃ僕に『ぶらうんがいるから大丈夫』なんて言わないよ。」

「は。だったらたまには素直にアタシらを見て欲しいもんだねえ。」

 そんな事を喋りながら家に入ると、かまどからアオダイショウが出てきた。

「お、累おかえり。手に持ってるのは―」

「キャベツだよ。あと菜の花。」

「小屋を修理してたら大城の坊ンからもらったのサ。」

「へえ!んじゃ、ロールキャベツでも作るか?絹江の得意料理だった。」

「あ!食べたい!」

 僕はいそいそとエプロンを取りに行く。アオダイショウからはかまどの使い方と料理を教わっている。レシピは全て、ばあちゃんのものらしい。懐かしい味を自分の手で作れるのは、とても嬉しい。

「じゃあ、その前にまず米を―」

「あ、累君!良かった帰って来てる!」

「わー!?イモリ!?」

 洗い場のポンプからイモリが水と一緒に噴き出してきた。僕のエプロンずぶ濡れ。

「大変なの!誘拐犯がこっちに来る!」

「誘拐犯!?」

 僕、ヤモリ、アオダイショウの声が揃った。

「ワタシ、用水路の崩れたとこを見に行ってたの。そしたら、昨日雨だったじゃない?だから下まで流されちゃって。」

「おいおい何やってんだ。」アオダイショウが呆れて言う。

「でも!麓の、いつも昭三が行くスーパーの近くで、男が2人、女の子を誘拐してるのを見たの!そいつ、こっちに向かってる!多分、うちに誰もいないと思って隠れるつもりじゃない?」

「くそったれが!」アオダイショウが舌打ちした。「『よーつーばー』の次は犯罪者かよ!人んちを何だと思ってんだ!」

「全員集合!今からやってくる不届き者を懲らしめるよ!」

 ヤモリの声に、ブラウニー達が一斉に集まる。皆でぺちゃくちゃ喋った後、一斉に持ち場へ戻った。

「累、あんたは―」

「何手伝おうか?」僕は先に言った。「ブラウニーはお手伝い、メインは人でしょ?」

「―ふっふ!一人前いっちょまえなこと言ってからに!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る