お誘い
〜教室〜
セピア「……で、魔女ミトナルは魔法を使えない人たちを殺して回ったワケ。困ったことに、邪魔する者は魔法使いでも殺された」
「それだけじゃない。魔法使いを魔物に変えてしまう恐ろしい術を使っていたんだ。おかげで私たちは魔物の種ってことになった」
「私らにとっても迷惑この上ないよね。まあ……魔法使いが意味無くこの場所にいるワケじゃないってことだけ知っといてね」
《教壇で話しているのは、歴史教師のセピア》
スピカ(や、やっぱり、『悪魔の晩餐』って本当にあったんだ……)
《言い伝えの絵本で見た景色が、知識として頭の中に入ってくる。同時に自らの境遇への理解も深まっていく》
セピア「そしたら
《セピアは髪を解き、教材をまとめる。学院生たちも席を立ち始める》
スピカ「ふぅ……」
《一息ついて、スピカも荷物をまとめる》
???「ねえ、あなたがスピカ?」
スピカ「へ!?」
《突然声をかけられ、驚きで振り向く。ゴツッという音と共に》
スピカ「ひぎゃ……」
《勢い余って机の裏にぶつけた膝をさする》
???「あ、あら……ごめんなさいね」
スピカ「だいじょうぶ……あなたは」
《茶色い三つ編みの少女。瞳は深い森の色》
???「私はシャウラ。先生にあなたのことを聞いたの」
スピカ「先生?」
シャウラ「あ、ヴァニラ先生のことよ。あの人が珍しく招待状を書いていたものだから気になってね」
「少し粘ったら教えてくれたわ」
スピカ「そうなんだ……?」
シャウラ「私、樹海で拾われたの。それでしばらくヴァニラ先生に面倒を見てもらっていたのよ」
スピカ「そうなんだ?」
《相手は疑問を解消しようとしているのかもしれないが、さらに大きく上塗りされていく》
スピカ「えっと……招待状を書くことは珍しいの?」
シャウラ「先生直々にはね。普段は報告に上がった魔法使いに対して書いているの。だけどあなたのことは、先生が自分で選んで招いた」
スピカ「そっか……」
シャウラ「ま、だから細かい事情が積み重なって……あなたが来るのは遅れてしまったんでしょうね。取り戻せるくらいの遅れでよかったわね」
スピカ「何とかね……でも、知らないことばっかりで大変」
シャウラ「そんなものよ、ほとんどはね」
スピカ「シャウラちゃんはどれくらい学院にいるの?」
シャウラ「うーん、8年くらい?それより前の、もっと幼い頃の記憶はないの」
「先生たちは私を14歳って推測してるけど」
スピカ「推測」
シャウラ「ふふん、学院に関しては私が先輩ってことね」
「それで、後輩への気遣いとしてお茶会に誘いに来たの。この後って暇かしら?」
スピカ「うん、空いてるよ」
シャウラ「よしっ、それじゃあ連行よ。荷物は多くなさそうだしそのまま持ってっちゃいなさい」
《嬉しそうなシャウラに手を引かれ、教室を後にする》
〜庭園〜
《並べられたテーブルの1つ。2人の少女がいる場所まで連れていかれる》
《片方は見知った少女。もう片方は栗毛のポニーテールの少女》
シャウラ「ココア、ローシェンナ。お待たせ」
スピカ「お、お邪魔します〜」
ローシェンナ「あ、スピカちゃん!」
スピカ「ごきげんよう、ローシェンナ」
ココア「はじめまして、私はココアだよ〜」
スピカ「はじめまして!」
シャウラ「ローシェンナは人見知りなのに、もう知り合いだったのね?」
ローシェンナ「え、へへ……医務室でたまたま会ったの」
シャウラ「ああ、ミスト先生の雑用係を」
ローシェンナ「お、お手伝いだよ」
ココア「ローシェンナちゃんはミスト先生に気に入られてるね〜」
《シャウラは慣れた手つきでお茶を入れ、ココアは籠からお菓子を取り出して並べる》
《甘い匂いが広がる。彩り豊かなスイーツたちは見ているだけで幸せな気分にさせる》
ココア「あなたを呼ぶって聞いて、張り切って作ったんだ〜。自信作だからぜひ食べて!」
スピカ「手作りなの?すごい!」
ココア「えっへん!お菓子作りが趣味なの〜」
シャウラ「ココアのお菓子はとっても美味しいのよ。ココアが来るだけでヴァニラ先生の機嫌が良くなるんだから」
ローシェンナ「甘いものが好きなんだよね」
ココア「そうそう〜、特に砂糖菓子!」
スピカ「へえ、そうなんだ!」
スピカ(なんか……ヴァニラ先生のイメージが一気に柔らかくなった)
シャウラ「あ、そういえば紅茶は飲める?」
スピカ「うん、好きだよ」
シャウラ「なら良かったわ。はいどうぞ」
スピカ「ありがとう!」
《談笑をしながらお菓子を食べる。和やかな時間が過ぎていく》
《ビスケットのちょっとしたドジ、ミストの無茶振り、テラコッタの噂話……》
ローシェンナ「ごちそうさま」
スピカ「ごちそうさま!」
シャウラ「美味しかったわ、いつもありがとね」
ココア「いいんだよ〜、私1人じゃ食べきれないから」
「それに、誰かに美味しいって言ってもらえるのはとっても嬉しいんだ〜」
「だからまた、自信作ができたら招待するね!」
《みんなと別れ、スピカは自室へ》
~寮 スピカの部屋~
スピカ「うーん……」
「『魔法を使うにあたっては、自分のイメージが重要になる。何となくの感情では形になりにくい』か……。難しいなぁ」
「不思議な白い光が私を助けてくれるけど、それは私のどういう感情から生まれてるんだろう」
《スピカが手を伸ばすと、白い光たちが姿を現す》
スピカ「あなたたちに助けてもらって、私は魔法を扱える。夢を本当にできる」
「ありがとう、あなたたちのことを妖精って呼ぶのかな?絵本で読んだことがある」
《白い光たちは揺らめくだけで返事をしない》
スピカ「私の感情……感情って、何だろう……わたしの気持ち?」
「うーん。よくわからないや。いつかわかるようになるかなぁ」
「えへへ、一方的に話してばかりでごめんね。じゃあね!」
《白い光はフッと消える》
《その時、トントンとノックの音が響いた》
スピカ「誰か来たみたい?」
《ドアを開けると、シャウラの姿》
シャウラ「やっほースピカ。思いついたことがあって来たの」
スピカ「思いついたこと?」
シャウラ「あなた、冒険が好きなのよね?だったら樹海に行くべきだわ。まだ行ってないでしょ」
スピカ「うん、ないや」
シャウラ「でしょ?私と行きましょうよ、お散歩に!」
「入口だけなら、2人以上いれば許可が貰える可能性があるわ。遠くへは行けないけれど……確かに樹海って外の世界じゃない?」
スピカ「うん、行きたい!」
シャウラ「絶対そう言ってくれると思ってたわ!今度のお休みの月、迎えに来るから」
スピカ「わあ、楽しみ!ありがとう!」
シャウラ「忘れないでね?それじゃ」
《シャウラは楽しそうに去っていく》
スピカ(樹海……まだ誰も知り尽くしていない未開の場所)
(それって素敵!大きな木がたくさんあるんだよね、どんな場所なんだろう)
(えへへ……待ちきれないや!)
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