レベル1からのチート転生~最強スキルで魔物も王国も手の内~
kuni
第1話「異世界への目覚め」
「あ、今日も残業か……」
システムエンジニアの城之内拓海(27歳)は、深夜のオフィスでモニターに映るコードを眺めながら、疲れた表情でつぶやいた。大手IT企業の中堅SEとして、彼の生活はいつも同じルーティーンの繰り返しだった。朝、満員電車に揺られて出社。夜遅くまで仕事をして、コンビニ弁当を食べながら帰宅。そして睡眠時間を削ってゲームをする。それが唯一の楽しみだった。
特に最近ハマっていたのは、「エターナルクエスト・オンライン」というVRMMORPG。現実では平凡なSEでも、そこでは強力な魔術師として冒険ができる。理想の異世界だった。
「よし、今日は早く帰って、あのダンジョンに挑戦するぞ」
深夜0時を回ったオフィスで、ようやく仕事を終えた拓海は、疲れた体を引きずりながらエレベーターに乗り込んだ。
オフィスを出て、いつもの道を歩く。真夜中の街は静かで、時々通り過ぎる車の音だけが耳に入ってくる。横断歩道を渡ろうとした瞬間——。
「え?」
突然聞こえたエンジン音。信号は青だったはずなのに、どこからともなく現れたトラックが猛スピードで近づいてくる。体が反応する前に、その大きな影が拓海を飲み込んだ。
「あ……」
激痛が走り、視界が真っ赤に染まる。そして、すべてが暗転した。
***
「……む?」
体を包む柔らかな感触と、鼻をくすぐる草の香り。拓海はゆっくりと目を開けた。
「ここは……どこだ?」
目の前に広がるのは、果てしなく続く緑の草原。どこまでも青い空には白い雲が浮かび、遠くには山々の稜線が見える。そして、最も違和感を覚えたのは——頭上に浮かぶ二つの月だった。一つは青白く、もう一つは淡い紫色に輝いている。
「これは……夢か?」
拓海は体を起こし、自分の手を見つめた。そこにあったのは、今までの自分のものとは明らかに違う、若々しい手だった。筋肉質で、肌の色も健康的だ。
「鏡、鏡はないか?」
周囲を見回したが、そこには草原と岩しかない。近くの小さな池に駆け寄り、水面に映る自己の姿を確認した。
「うわっ!?」
そこに映っていたのは、明らかに10代後半くらいの少年の姿。黒髪に青い瞳、整った顔立ち——これが自分だというのか?
「やっぱり夢じゃないのか……じゃあ、アレは本当に……」
死んだのだ。トラックに轢かれて。そして気づいたらここにいる。まるでラノベやゲームの展開のように。
「もしかして……」
RPGの主人公になったような気分で、拓海は思い切って言ってみた。
「ステータス!」
すると、驚くべきことに視界の前に半透明の青い画面が浮かび上がった。
```
【ステータス】
名前:タクミ・キノウチ
レベル:1
職業:万能の旅人(オールラウンダー)
HP:500/500(通常の25倍)
MP:1000/1000(通常の50倍)
力:100(通常の20倍)
知力:120(通常の24倍)
敏捷:110(通常の22倍)
幸運:150(通常の30倍)
【特殊能力】
・全職業スキル習得可能
・言語理解(全言語を理解し、話すことができる)
・物質分析(対象の構成要素を分析できる)
・空間収納(異次元に物品を保管できる)
・魔力感知(周囲の魔力を感知できる)
```
「え……これって、チートすぎないか?」
拓海は思わず笑ってしまった。レベル1なのに、すべての能力値が通常の20倍以上。しかも「全職業スキル習得可能」とか「物質分析」など、どう考えても強力すぎる特殊能力まで備わっている。
「これがいわゆる『転生チート』ってやつか……」
ゲームや小説で見たことはあったが、まさか自分がその主人公になるとは思わなかった。しかし、状況を受け入れるのに時間はかからなかった。なぜなら、システムエンジニアとして論理的思考が身についていたからだ。事実は事実として受け止め、そこからどうするかを考える——それが拓海のやり方だった。
「よし、まずは現状把握だ。自分は死んで異世界に転生した。チート能力があるらしい。今は草原の真ん中にいて……」
周囲を見渡すと、南の方向に煙のようなものが見える。集落があるのかもしれない。
「あそこに行ってみるか」
立ち上がろうとした瞬間、不意に地面が揺れた。
「な、なんだ!?」
草むらが揺れ、何かが近づいてくる気配がする。拓海が緊張して身構えていると、巨大な猪のような生き物が姿を現した。通常の猪と違うのは、その体の大きさ——軽自動車ほどもある——と、背中に生えた鋭い棘、そして赤く光る目だった。
「これ、モンスター? マジかよ……」
恐怖を感じる暇もなく、巨大な猪が突進してきた。普通なら逃げるところだが、拓海の体は別の反応を示した。
「物質分析!」
なぜそんな言葉が出てきたのかは分からなかったが、効果はあった。猪の体が青く光り、その構造や弱点が頭の中に流れ込んでくる。
「レッドタスク、Bランク魔獣。攻撃力高し。弱点は首の後ろの鱗の切れ目……」
情報を得た瞬間、体が勝手に動いた。すさまじい反射神経で魔獣の突進をかわし、その背に飛び乗る。
「すげぇ、体が勝手に……!」
腰に差していた短剣を抜き、迷うことなく首の後ろの隙間に突き刺した。レッドタスクは断末魔の悲鳴を上げ、その場に崩れ落ちた。
「勝った……? 勝った!」
戦いの興奮と緊張から解放され、拓海は地面に座り込んだ。心臓は激しく鼓動しているが、不思議なことに体は全く疲れていない。
「能力値が通常の20倍以上あるからか……」
考えていると、遠くから人の声が聞こえてきた。
「おい、そこの若者!無事か!?」
振り向くと、甲冑を身につけた兵士たちが馬に乗って近づいてきていた。5人ほどの一団で、鎧や武器が日差しに照らされて光っている。
「あ、はい。大丈夫です」
「よくあんな魔獣から逃げ切れたな!あれはBランクのレッドタスクだぞ?一般人では太刀打ちできない」
兵士たちが近づいてくると、レッドタスクの死骸に気づき、目を丸くした。
「まさか……お前がやったのか?」
「え、ああ……なんとなく」
「なんとなく!?」
リーダー格らしき兵士が驚きの声を上げた。髭面の壮年の男性で、鎧の装飾から見て階級が高そうだ。
「私はルーンガルド王国第三巡回騎士団の団長、ガリウスだ。君の名は?」
「城之内……いえ、タクミです。タクミ・キノウチ」
「タクミか。見たところ旅人のようだが、どこから来た?」
ここで正直に「日本から来ました」とは言えない。拓海は咄嗟に思いついた答えを返した。
「遠い東の国から来ました。実は記憶があいまいで……」
「記憶喪失か?」ガリウスは顎に手を当てて考え込んだ。「まあ、それはさておき、あのレッドタスクを倒せるなら並の冒険者以上の腕前だな。剣術はどこで学んだ?」
「それも……よく覚えていないんです」
「ふむ。とにかく、一人でこんな場所にいるのは危険だ。我々と一緒に町まで行くか?ブルームヘイブンという町だが、そこなら安全だし、記憶を取り戻すための手がかりも見つかるかもしれない」
「ありがとうございます。お願いします」
拓海はガリウスの申し出に感謝した。この世界のことをもっと知る必要があるし、何より今は衣食住の確保が先決だ。
「では、出発するぞ。レッドタスクの素材は持っていくか?あれは高く売れるぞ」
「え?素材?」
「ああ、角や牙、皮は魔道具の材料になるからな。せっかく倒したんだ、無駄にするな」
拓海は少し戸惑いながらも、ガリウスたちに手伝ってもらいレッドタスクから素材を採取した。思いがけず、異世界での最初の「収入源」ができたようだ。
***
ブルームヘイブンへの道中、拓海はガリウスから様々な情報を聞き出した。
ここはルーンガルド王国という国の西部地方で、ブルームヘイブンは中規模の商業都市だという。魔物の出現率は比較的低い地域だが、最近は何故か増加傾向にあるらしい。
また、この世界では「冒険者ギルド」というシステムがあり、モンスター討伐や探索などの依頼をこなすことで生計を立てる人々がいるという。まさにRPGのような世界だ。
「タクミ、君のような腕前があれば冒険者として十分やっていけるだろう。ブルームヘイブンにもギルドの支部があるから、登録してみるといい」
「ありがとうございます。そうさせてもらいます」
会話を続けるうちに、地平線の彼方に町の輪郭が見えてきた。高い城壁に囲まれた街並みは、中世ヨーロッパを思わせる雰囲気だが、よく見ると壁の上部に青く光る結界のようなものが張られている。
「あれは?」
「魔法障壁だ。魔物の侵入を防ぐためのものさ」
近づくにつれ、城壁の壮大さに圧倒される。高さは20メートルはあるだろうか。そして、正面の大きな門には複数の衛兵が立っていた。
「第三巡回騎士団、団長ガリウス!町に戻ります!」
ガリウスが声をかけると、衛兵たちは敬礼し、巨大な門がゆっくりと開いていく。
「さあ、タクミ。ブルームヘイブンへようこそ」
門をくぐると、そこには活気に満ちた街が広がっていた。石畳の道には人々が行き交い、両側には様々な店が並んでいる。鍛冶屋の金槌の音、市場の売り子の声、子供たちの笑い声——全てが新鮮だった。
「わぁ……」
思わず感嘆の声が漏れる。本当に異世界に来たんだという実感が、ようやく湧いてきた。
「まずは宿を取るといいだろう。町の中央広場の近くに『銀の月亭』という宿屋がある。料金も手頃で清潔だ。私の名前を出せば少しは安くしてくれるかもしれないぞ」
「ありがとうございます。本当に助かります」
ガリウスたちと別れ、拓海は教えられた通りに宿を目指した。道中、レッドタスクから採取した素材を買い取ってくれる店も教えてもらっていた。
「異世界に来て早々、モンスターを退治して素材を売るとか……完全にRPGの展開じゃないか」
拓海は苦笑しながら歩いていた。未知の世界への不安はあるものの、どこか心が躍るような感覚もあった。チートな能力を与えられた以上、この世界でやれることはきっと無限にある。
――これが俺の新しい人生の始まりなのか。
銀の月亭に到着し、フロントに立ったとき、拓海は改めて決意した。
この異世界で、自分のやりたいように生きよう。二度目の人生、思いっきり楽しんでやろうじゃないか。
「お部屋をお願いします」
カウンターの女性に声をかけながら、拓海はほんの少し胸を張った。レベル1からのチート転生者の物語は、ここから始まる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます