口づけは肉桂の香り

岩崎 文弥

ニッキの朝

 焼きあがったトーストにバターを広げて、シナモンとグラニュー糖を振りかける。ふわりと甘い香りが部屋に広がって、思わず口角が緩んだ。


 香りにつられてか、ふわぁと欠伸を噛みながら彼が起きてきた。

「おはよ。今日もシナモントースト?」

「おはよう。うん、わたしシナモン好きなの知ってるでしょ」

 飽きないねえと微笑みを浮かべて、彼がカーテンをあけた。

 暖かな春の陽射しが部屋に差し込んで、ひやりとした空気を溶かしていく。 


 わたしが電気ケトルのお湯を注いでコーヒーを作るかたわらで、彼がトーストのお皿を並べて食卓を整える。いつもの分担作業はスムーズで小気味よい。

「甘いもの好きだもんね。でもさ、このシナモンちょっと辛くない?」

 注ぎ口がぶれて少しミルクがこぼれた。台ふきんでさっと拭き取る。

「買い間違えたの。ふだんのと種類がちがうのよ」

「へえ、そうなんだ」

 一足先に卓についた彼がわたしを待ってくれている。カップを持っていこうと手元を見たときに、指に残ったシナモンが目についた。


 ぺろりと指をなめると、ぴりっとした辛味が舌を刺した。


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