第22話 おまけ話② フィオが悪いんだもん

 ――これはフィオの発情期が終わった頃。


 ギルドに素材を届けたあと、フィオと街でデートしていたときだ。


「前から気になっていたのだけど、あの建物はなに?」


 フィオが関心を持ったのは、石造りの2階建てで煙突の複数ある大きな施設だ。たくさんの窓から蒸気が溢れ出ている。


「あれは大衆浴場だね」


「浴場?」


「お風呂のこと。あったかいお湯で体を洗ったり、浸かったりして疲れを癒したりするの」


「わざわざお湯を使うのね。水でも洗えるでしょうに」


 ちなみに、私たちは集落の池で体を洗ったりしてる。ドラゴンのフィオには、そもそも縁のない文化なのだろう。


「お湯のほうが気持ちいいんだよ」


「ふぅん、興味あるわ。行ってみましょう」


「え、ごめん。やだ」


「どうして?」


「だって混むし……。お風呂とはいえ人に裸見られたくないし……」


「そう。ならいいわ」


「ごめんね。せっかく興味持ってくれたのに」


「いいのよ。あなたが嫌なことをする気はないわ。でも……そうね、人がいなければいいのでしょう?」


「それはまあ」


「なら、わたしたちの家にも、作ってしまえばいいのよ」



   ◇



「うん、これで完成!」


 フィオの提案から1週間ほど。私たちは集落の池の近くに浴場を作った。


 私も久しぶりにお風呂に入りたかったし、この先、寒い時期が来たら池の水で体を洗うのはきつすぎるし。


 お風呂作りの経験はなかったけど、意外となんとかなるもんだ。


 作った浴場は、露天式。沸かしたお湯を溜めておくだけの簡単なものだが、私たちにはこれで充分。というか、これ以上しっかりした物を作るだけの技術はさすがに持ってない。


「さっそく入ってみましょう」


 フィオは興味津々といった様子で、いそいそと服を脱ぐ。


 私も同様に脱ぐけれど、ついフィオの姿に見惚れてしまう。


 うわー、うわー、うわぁー!


 透き通るような素肌。すらりと伸びた綺麗な脚線。かわいいお尻。そして煌めく青い鱗の尻尾。


 明るいところで見るのは初めてで、想像以上の綺麗さに、ドキドキしてくる。


「なにをしているのセリア。早く入ってみましょう」


「あっ、う、うん……っ」


 フィオに急かされて、ふたり一緒に浸かってみる。うん、いい湯加減。


 フィオも心地良さそうに目を細める。


「ふう……なるほど、これはいい……いいわ……」


「ふふっ、気に入ってくれたみたいで良かった」


 そうしてしばらく湯を堪能したところ、フィオが尋ねてきた。


「ところで、なぜ周囲に柵を作ったの? 他に人もいないのに」


「いやだって、私が水浴びしてても、よくユニコーンが覗きに来るんだもん。明らかにガン見してきてるしさぁ」


「前から不思議だったのだけど、なぜ裸を見られるのがいやなの?」


 おぉっと、この質問は予想外。


 でもフィオが疑問に思うのも納得できる。ドラゴンも他のモンスターもみんな普段から服など着ていない。人に変身してるフィオは着ているけど、それは人間はそういうものと認識しているだけのことだろう。


 ただ恥ずかしいからと言っても、次はなぜ恥ずかしいのかと問われるに決まってる。なら、私の知る限りの知識で……。


「えっと、大抵の生き物は交尾のときとか、子どもにお乳をあげるときとかって無防備になるでしょ? そんなときに近づかれたり、見られたりしてたら逃げたくなったり、攻撃したくなったりするでしょ?」


「そうね、ドラゴンは乳やりはしないけど、他の子たちの様子を見てればそれはわかるわ」


「それで、人間はそれらを服を脱いでやるの。実際にそういうことしてないときでも、裸になって完全無防備状態になってる姿は、見られたくないってこと」


「なるほど、よくわかったわ」


 フィオはそれで納得してくれたけど、今度は関心深げに私の胸を凝視してくる。


 私はさりげなく手で隠しつつ、唇を尖らせた。


「なんでそんな見てくるの?」


「ええ、そう言えば人間も乳やりをするのだったと思って」


「そうだけど」


「ならきっとセリアは子育てに向いてるのね。ドラゴンには必要ないからよくわからないけれど、いい形をしているように思うわ」


「へっ」


 むにゅっとフィオが私の胸に触れてきた。


「ひゃっ、ちょ、ちょっと?」


 私は思わず身を引いて、両手で胸をガードする。


 すると、なにを勘違いしたのか、フィオはにんまりと悪戯っ子みたいな笑みを浮かべた。


「ふふ、なるほど。完全無防備だものね、触られるのにも抵抗があるのね」


 フィオは宙を揉むように両手をわきわきさせながら寄ってくる。


「やっ。やめてよ、フィオ」


「やめないわ。あなた、わたしがやめてと言っても攻めてくるじゃない。日頃の鬱憤、ここで晴らさせてもらうわっ!」


 フィオが飛びかかってくる。


 その綺麗な肢体に見惚れてつい抵抗が遅れてしまう。


 あっちこっち体をまさぐられて、私は逃げ惑うしかない。


「や、本当にやめて」


「やめないわ。わたしが優勢でいられること、滅多にないもの」


「やめてよぉ、でないと……でないと――」


 ムラムラが抑えきれなくなっちゃう!


 あー、もう! ただでさえフィオの体に欲情しかかってたのに、これじゃ本当にもう無理!


 がばっ、と私はフィオの両手を押さえ込む。


「あ、あら?」


 目を丸くしたフィオに、私は顔を近づけていく。


「フィオがいけないんだからね、フィオがいけないんだよ……っ! ふへへへっ」


 やっと危機を察したか、フィオは顔を引きつらせた。


「ま、待ちなさいセリア。悪かったわ、調子に乗りすぎたみたい」


「もう遅いよぉ!」



   ◇



 その後、お風呂がすっかりぬるくなった頃。


 ぬるま湯にそぐわない上気しきった顔で、フィオは眉を吊り上げた。


「嘘つき! 無防備なんかじゃなかったじゃない!」


「フィオが悪いんだもん」


「言い訳しないで! 人間が常に発情期だというのは本当ね! まったくもって度し難いわ!」


 また怒られちゃった。


 あっれぇー? もしかして私、自分が思ってたよりずっと、どスケベだった?




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続いておまけ話③も公開いたします!(3/31 AM7:05公開)

ご期待いただけておりましたら、

ぜひ表紙ページ( https://kakuyomu.jp/works/16818622170793337578 )から

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