「黒い。」

やじるしさん

#1 もしかして、ここ変人しかいない感じ...?

 「優有ちゃん、手紙が...届いてるよ。」

何故か言葉を詰まらせた配達員の手には、〈CEO代表取締役秘書〉と、印が押された手紙があった。

全く心当たりがない...と言いたいところだが。CEOと書いてあるのを見るに、仮採用されたのだろう。

「......」

沈黙が広がる。

行きたく無い。

まだ、死ぬには早いから。まだ、やり残したことがあるから。

...でも。

「動かなきゃ、始まらないよね。」

「...?」

配達員は疑問の表情を浮かべる。

「配達、ありがとうございます。」

「っはい、では僕はこれで失礼します...」

配達員は最後まで私を心配した様子で、部屋を後にした。


 CEO仮本部・待合室にて私は、いろいろな種類のお菓子を頬張っていた。

(いやどういう状況よ、これ...)

『コンコンコンッ』

ノック音と共に、スーツをしっかりと着こなした人が入って来た。

「代表の準備が整ったからぁ、行こうか。」

「......」

「......?っど、どぉした?」

「えっ、あっ、なんでもないデス」

案内人っぽい人は苦笑いしながら、「じゃあいこぉか。」と言いながら歩き出した。

私が言葉に詰まった理由。それは...

(口角は上がってんのに、目が笑ってないんだよなぁ...)

仕事で疲れているのだろう、そう考えることにした。


「代表、連れて来たよ。」

返事は直ぐに返ってくるかと思われたが、数秒待っても返事は無かった。

私は心配になって案内人に問いかけた。

「返事が無いようですが、大丈夫ですかね。」

「いつものことだよ、気にしないで。...鍵閉まってるなぁ。」

 「...えいっ」

気の抜けた掛け声と共に、案内人の回し蹴りが扉に炸裂。扉は綺麗に倒れた。

固まっている私をよそに、案内人は代表らしき人の下へ一直線。

「起きろあほぉう、準備して待ってろってあれだけ言っただろ!」

「ん〜?お前が全部対応すれば〜?」

どうやらあの、机に突っ伏している人が代表なのだろう。

『ダンッ!』

案内人は代表が突っ伏している机に台パン。

『メキメキッ』

怒りの一撃を受けた机は、綺麗なヒビが入っていた。

「ワァオ」

危険を察知したのであろう代表は、素早く私の背後に移動し、様子を伺う。

「......」

案内人さんが目の前に来て、私を笑顔で見つめている。勿論、目は笑っていない。

私は素早く行動に移す。

「どうぞっ」

私は代表を案内人さんに引き渡した。

「っえ、待ってまっtッッッッッ!」

案内人さんの腹パンは、綺麗に代表の腹に直撃した。

そして悶絶の声を出しながら、代表は倒れていった。

(綺麗な腹パンだ。)

私は考えることをやめた。

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