第15話

 午後の模擬戦を無事にフィリア達と戦いを終えた俺は、部屋に戻ろうと足を進めていた。


「ふぅ。 今日一日で結構服が汚れたな。 周りに目を向けながら戦うってのは結構大変なもんなんだな」


 普段の戦闘だと一人のソロか、ルークと一緒が大半だった。リリスとも魔物討伐には何回も行ってはいるが、手は借りていないから実際はソロで戦っていた。

 それでもこれほど服を汚したことなんて一度もない。


 編成パーティーで戦ったのは実は今回が初めてなのだ。そのせいか支援役のチキに攻撃が向かないように立ち回ったり、フィリアのいる後衛まで攻め込まれないように考えたり、普段考えもしないような事をいっぱいさせられたのも原因だろう。

 周りには褒めておいたが正直自分のリズムで全く戦えていなかったから流石に疲れた。


 だが、混戦の中で大した傷もなく一日を終えれたのはフィリアの回復魔法のお陰だ。何度か剣士のスキル「追撃」で斬られた事があったが、フィリアが直ぐに回復しに来てくれた。

 始めの印象だと適当な性格に見えていたが、印象とは違ったな。回復魔道士が一人いるだけで格段に安定感が増す。


 それに不安要素だった仮編成も、どうやら無事に俺をパーティーとして認めて貰えたのはよかった。 これで戦闘スタイルが合わなかったらどうなっていたか。


 最悪、ルークのパーティーに入れてもらうか、知り合って間もないアイシャにお願いするしかなかったな。

 たどり着いた自室のドアを開ける。 この薄汚れた服を早く着替えてリリスと共に食堂に向かおうとしていたのだが、ここで予想していない事が起こった。


 部屋に入るまではよかったのだが、扉を開けて直ぐリリスが待ってたといわんばかりに飛びついてきたのだ。


「うぉ……っと」


「ぐすっ…。 アルトと離ればなれになっちゃった。 もう私、死んじゃうかもしれない」


「おいおい。 大げさだな。 それに離れるのは今だけだ。 この編成訓練が終われば暫く一緒だろ」


「やだ。 アルトとずっと一緒がいい。離ればなれなんて考えられない」




 涙を浮かべながら俺の胸に顔をうずめて必死に涙をこらえている。

 今まで甘えてこなかった分、俺にはとことん甘えたいんだろう。駄々っ子みたいになってるな。

 抱きしめていた手で優しく頭を撫でてやる。こんな時に出来る男は甘い言葉で彼女にささやき不安を取り除いてやるのだろうが、生憎あいにく俺にはそんな上等手段はない。


 考えて思いついたのが頭を撫でてやることだけだった。


「リリィ。 少しは落ち着いたか?」


「……ちょっとだけ」


 なら晩飯にでも行こうと誘おうとしたのだが、その可愛さはどこにいったのだろうか。抱きついていた腕は、今ではどんどん俺の脇腹に食い込んでくるくらい締め付けられている。


「ちょっ…。 リリィっ? 痛い、痛い、痛いっ!」


「アルトのパーティーに可愛い女の子が二人もいた。 しかも自分から女の子に声をかけてた」


 フィリアに声をかけたところを見られていたのか。

 リリィの行動から察するに、これがいわゆるヤキモチっていうやつか。

 俺にとって人生初めてヤキモチを焼かれたのだが、こんなヤキモチとは痛いものなのか。  俺よりも細い腕にどこにそんな力があるのか分からないが、魔物にでも深手を負わされた事がない強靭な脇腹がきしんでいる。本当にこのままだと折られそうだ。


「仕方ないだろ。たまたまさっき知り合ったのがフィリアだったんだ」


「あの子フィリアっていうんだ。 赤色の綺麗な長い髪で、可愛らしい子だったよね。 それにもう一人の子も同じ赤髪のモフモフした可愛い子だった。アルトってああいう女の子がタイプなんだ。 私とは全然違うね」


「何言ってるんだよ。 ただパーティーを組んだだけで、それだけだぞ」


「それでもイヤなの。 他の女の子達と楽しそうにしてるとこ見たくない」


「何言っているんだ。 俺が見てるのはリリィだけだ。 初めて会った時からずっと変わっていない」


「…………」


「お前の綺麗な髪も、この可愛らしい性格も、いつも俺の事を第一に考えてくれる事も、全てが愛おしく思ってる。 お前が一番なのは今もこれからも変わらない。 だから今は我慢してくれ」


「……本当に?」


「本当だ。 嘘は言わん」



「なら……許す」


 締まった腕がようやくほどかれる。危うく訓練でもしなかった怪我を今ここでするところだった。


 俺はその後リリィと一緒に御飯を食べ、不安がったリリィは一緒に寝たいと言い出だしたので狭い布団で寝たのだが、俺は自分の暴走しようとする息子を落ち着かせるので精一杯だった。勿論一睡も出来なかったのは言うまでもない。

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