第7話
「おい、お前! 平民のお前が勇者と組むなんておかしいんだよ。 なぁ、そうだろうみんな! 入学試験もどうせ分からないように陰でイカサマしてたに違いない。 こんな奴が貴族の俺を差し置いて組むなんてどう考えてもおかしいだろ。今すぐ解消しろ!」
そう言って不満を述べ、講師の制止を振り切ってまでアルトの前に立ちはだかったのは一人の男だった。
俺に声をかけてきたのは確か辺境貴族のロードン・ガルドスか。ルークの話だとあいつは没落貴族で、家族からは騎士になり勲章を立ててこいと言われてここにきたそうだが、腕は並程度。
とても騎士にも勇者と組むこともお前には荷が重いだろうに。
それにこの学園は平民も沢山いる中で自分は特別だとでも言いたいのだろうか。本当に馬鹿な奴だ。
学園の中では皆平等。貴族だろうが王族だろうが俺には関係はない。
それに下らん奴らがまた寄ってこないように、こいつを徹底的に叩き伏せておくことで周りにも教えとく事にするか。
あと、さっきから隣りにいるリリスの顔が殺意に満ちた鬼の形相に変わっている。 中途半端にやったらこいつまで横から出てきそうなんだ。
「ゼハール講師。どうだろう? ここは一つあいつと模擬戦をしてみても」
「まぁ、お前が良いのであれば構わないが、剣の成績を見て学園の我々が決めた事だが、一部生徒の中には納得をしてない者もいる。黙ってもらうには勝てばいい話だが、彼は貴族の息子だ。 木剣とはいえ怪我は避けたいんだが」
「わかりました。考慮して闘いましょう」
そう言ってアルトはロードン・ガルドスの前に立ち、軽やかに木剣を構えた。
「馬鹿な奴だ。化けの皮を剥いでやるよ!」
くくくっ。 そんな下らない約束を俺が守るわけないだろう。
ロードン・ガルドスが走り出し、木剣を振りかざした、その刹那だった。
カンッ!!
「なっ…」
俺は振りかざしたロードンの木剣を薙ぎ払い、ガラ空きになったみぞおちに思い切り膝蹴りを食らわした。
「ぐ……はぁ……」
その場に倒れ込み、悶え苦しみながらうずくまるロードン・ガルドス。
「あれ、もう終わりか? 散々煽っておいてそれはないだろう。 没落貴族の馬鹿息子」
「ぐ……くそ……。 調子に…乗りやがって貴様なんて剣の実力もないくせに」
そう言ってロードン・ガルドスはなんとかその場から立ち上がり、木剣を構え直したが、余程深くみぞおちに入ったのか握る手には力が入っておらず、足は産まれたての小鹿のように小刻みに震えていた。
「なら見せてやるよ。剣の実力を……」
俺は手に入れた加護を使い、力を解放する。
【勇者の加護】【勇者の祝福】
パァァァ……
なるほど、これが全能力値アップ(大)の恩恵。今までにないくらいとてつもない力が俺に宿っているのが分かる。
「いくぞ。 貴族なら民の為に潔く死ね」
「ひっ……」
高速で木剣を振りかざそうとした瞬間に横から講師のゼハールが割って入る。
「まっ、待て!! それまでだ!! もう勝負はついているっ!!」
慌てて止めに入ったゼハール講師の前で、失禁しながら大の字でのびているロードン・ガルドス。
「ふんっ。つまらんな」
加護を試す機会すらないとは。
俺は横目でリリスをちらりと見ると、満足気な笑みを浮かべ俺を黙って祝福してくれていたのだった。
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