第5話
途中で思わぬ寄り道をしてしまったが、ミンファは朝市の支度に賑わうころ王都の南の大門に辿りついた。
大門の前には、朝市で異国の品物を売る行商人や、採れたての野菜や自家製の肉や魚の干物などを荷車に乗せた農夫らが、長い行列を作っていた。門番たちは慣れたもので手際よく行列をさばいているが、それでも次から次へと人が並ぶ。
王都は城壁に囲まれているうえ、上空からの侵入を防ぐために王室顧問の上級道士による強固な結界が張られている。ミンファはおとなしく地上の長い行列の最後尾に並んだ。並んでいるうちに、その後ろにも長い列ができていた。
いよいよミンファの番だ。
「次。なんだ、荷物はそれだけか。他所者が朝市で買い物か?」
この朝市は、売り手は城壁の外の商人や農夫だが、お客の多くは王都の住民だということらしい。
「レポロ村から来ました。王都で、道士を募集していると聞いて」
「ああ、巫女なのか」門番はミンファを上から下まで眺め、納得したようだ。「そこで待ってなさい、誰か手が空いたら宮城に案内してやる」
簡単な持ち物検査のあと、ミンファは邪魔にならないよう門番たちの後ろで待っていた。そのあいだにも、朝市で商売する常連たちが次々と門から入って行った。
「あの、道士を国中から公募するのって、珍しいですよね。何かあるのですか?」
行列が途切れたのを見計らって、ミンファは門番に尋ねてみた。
「そう言われれば、ここ数年のことだな」
「お偉い人たちの考えることは、俺たちにはわからないが、優秀な人材を広く求めようってことじゃないのかね」
門番たちは何かを憂えるふうもなく、軽い口調で言った。あのネコ耳少年が語った病死したり廃人になったりした道士がいたことなど、みじんも感じさせない明るさだ。
(私、あの子にからかわれたの?)
きっとそうだ。ミンファはそっと溜め息を漏らした。
やがて、門番のひとりがミンファを宮城の前まで案内して、衛兵に話を通してくれた。こんなふうに自称巫女が訪ねてくるのは珍しいことではないのか、衛兵はろくにミンファの身元を確認することもなく、西の通用門にまわって宮城の内に入れてくれた。むしろミンファのほうが心配になる。
「あの……ここって王さまの宮城ですよね。他所者の私がこんなに簡単に中に入れてもらって、大丈夫なのですか?」
「この通路は、常に王室顧問の道士さまたちが見張っているのだよ。怪しい者なら、彼らがすぐに排除してくれる」
言われて、ミンファはあたりを見まわした。だが、そこは白木と石造りのきれいな回廊で、天井にも装飾のほどこされた梁や柱にも、特別な仕掛けなどあるようには見えなかった。
いかにも経験の浅い田舎の巫女丸出しのミンファに、衛兵は苦笑して言う。
「あっちの木戸の向こうが採用試験を受験する道士たちの控室だよ」
「ありがとうございました」
ミンファは礼を言って、控室に向かった。
控室は板張りの床と壁に囲まれた小さな部屋だった。簡素な長椅子と衝立があるだけで、ミンファのほかには誰もいない。
ミンファはあたりを見回し、長椅子の横に立った。疲れていたので座りたかったが、勧められるまでは座ってはいけないかもしれないと思って我慢した。
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