王室顧問道士に志願しました

宮乃崎 桜子

第一章 門出

第1話

 森の木々が、優しくざわめく。

 天頂の満月は、美しい翡翠色の光を放っていた。

 巫女の門出に相応しい夜だ。


「本当に行くのかい、ミンファ」

「何かあったら、すぐに帰っておいでね。ここは、あんたの生まれ故郷なのだから」

「ありがとう、おばさんたちも元気でね」

 見送りに出てきてくれた村人たちに、ミンファは明るく挨拶をした。

 翡翠色の長い髪を緩く編んで背中に垂らしたミンファは、麻の上衣に厚地のスカートとドロワーズ、手荷物はスカーフに包んで斜め掛けに背負った身軽な旅装束だ。

 小さな従弟のシーレンが、泣きべそをかいてミンファの腕にしがみつく。

「行っちゃうの? もう遊んでくれない?」

「泣かないでよ、男の子なんだから。またいつか会えるし……それまでに、立派な道士になっていてね。約束よ」

「うん。約束する」

 涙を拭いながらうなずくシーレンの頭を撫でるミンファに、ケイト叔母さんが目を潤ませながらもいつもの口調で言い募る。

「都会は危ないところなんだから、油断しちゃだめよ。夜遊びも禁止。ちゃんと食べて、体に気をつけてね」

「叔母さんったら」

「あなたにもしものことがあったなら、亡くなった姉さんや義兄さんに顔向けできないわ」

「大丈夫よ、心配しないで」

「いつでも帰っていらっしゃい。ここがあなたの家なんだから」

「ありがとう」

 ミンファはケイト叔母さんと固く抱き合い、それから、見送ってくれる村人たちに元気いっぱい手を振った。

「いままでありがとうございました。行ってきまぁす!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る