第33話
お父さんはどうやって今朝の話を持ち出そうかと少し緊張しながら歩いていた。
既に心に傷を負った陸に、朝からお母さんを想って涙を流した陸に、また、悲しい気持ちにさせてしまうことを恐れた。
「お父さん、ここでね、前にお母さんと歩いてる時にカマキリが出てきて、二人でキャーって一緒に驚いたんだよ。それでね、」
(あ。これは…メッセージで教えてもらった話しか。)
陸は嬉しそうにその時の出来事を丁寧に話してくれた。
朝は悲しそうに話していた陸は今は嬉しそうに話す。
「あのね、僕、朝はお母さんのことを思い出して悲しくなったんだ。」
「お母さんと陸が毎日のように通ってきた道だもんな。」
「うん。そうなの。だからね、この道は悲しい道じゃないの。」
「ん?」
「あのね、僕、ずっとお家にいた時、賢くしてたらお母さんは死ななかったんじゃないかなってずっと思ってたんだ…。」
陸…だから僕が夜勤をするようになってからも何も言わず毎日大人しく家で…。
お父さんは思い返して気付いてあげられなかったことに胸を締め付けられた。
「そんなことあるわけないだろ?」
「うん。おばあちゃんもそう言ってくれたの。僕のこと大切に思ってくれてて、生きたかったからどんぐり拾おうねって約束してくれたりしたんだよって。」
「そうだね。きっとお母さんももっともっと陸の成長を見たかったと思うよ。」
「うん。だからね、ここは悲しい道じゃないんだよ。僕とお母さんの思い出の道なの」
「思い出の道か。いいなあ。陸とお母さんの思い出、お父さんも沢山聞きたいな。」
「へへへ。いいでしょ。毎日お迎えの時に教えてあげるね。お父さんとお母さんは思い出の道はあるの?」
「お母さんとの思い出の道かあ。うーん。そうだなあ。また今度連れて行ってあげるよ。」
「ええ、どこかな?」
「ははは。陸はまだ産まれてない頃の話なんだよ。」
「あ!わかった!!沢山蝶々がいたところでしょう」
「え、なんでわかったんだ?」
「えへへ。お母さんに聞いたことがあるの。僕が産まれる前に旅行に行った場所で、蝶々がたっくさん飛んでて綺麗だったんだよ。って、僕も一緒に今度はみんなで行きたいね!って…」
陸はお父さんの思い出の場所を当てたことに嬉しそうに話しながら、またひとつ約束したことを思い出して少し悲しそうな顔をした。
「そっか。お母さんも覚えててくれたんだな。陸、おいで。」
お父さんは陸を抱っこした。
「お母さんと陸と一緒に、行きたかったな。」
「お父さんも悲しい?」
「そうだね。とても悲しいよ…。」
陸はうるうるしながらお父さんをぎゅーっと抱きしめた。
「お母さんとは行けなかったけど、行こうな。」
「うん!蝶々いっぱい見に行く!おばあちゃんとみぃちゃんも一緒に行ける???」
「そうだね、おばあちゃんにも聞いてみよう。みぃちゃんは…どうかな?泊まれるところがあれば行けないこともないだろうけど…猫は犬と違ってお散歩もしないだろうしなあ」
「今からお散歩を覚えたらいいの???」
「ははははは、どうかな?そこも、ゆっくりまた考えようか。」
「うん!」
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