第27話 成長
私が頼れる相手はそう多くない。
頼りになる人と言えば先輩だけど……今回は先輩のことだから、本人は頼れない。今の先輩も三年後の先輩も。
そうなると『みさぽ』しかいない。
いや、他にもいるよ? 多くはないだけで、当てはあるよ?
でもほら、みさぽには前回も先輩のことで相談しているし、今回も適任なんじゃないかなって。
相談したいのは先輩のこと。
もっというと三年後の先輩のこと。
私がいろいろ力を貸してもらったり、頼みを聞いたりしたら未来が変わってしまって……私に助けを求めているわけだ。
でもどうしたら先輩を助けられるのかわからない。
そもそも助けるって、三年後の先輩と私の仲をどうにかしろってことだよね?
三年後とはいえ私自身のことなんだから、自分でなんとかできるって思うのに……でも三年後の先輩が今の先輩と全然違うみたいに、三年後の私も今の私から見て全然わかんないんだよっ!!
そりゃ三年もあったらいろいろあるよね。でも先輩は憧れの人で……それが三年で変わるって思えない。
先輩も三年で変わったみたいだけど、私の憧れってそんな
「みさぽ……私は、私がわからないんです」
「ゆいさん……夏休み前に自分を見失うなんて……そんなこじらせるタイプだったんすか……」
ファミレスに呼び出したみさぽは、私の第一声を聞くなり哀れんだ目を向けてくる。
待って、まだ説明なにも始まってないから。
自分探しとかしているわけじゃないんだって! ……いや、ある意味そうなのかも知れないけど。
「えっとね、まず話を聞いてほしいんだけど」
ただ問題になるのは、みさぽは現代っ子なので三年後がどうとか言われても簡単には信じてくれないと言うことだ。
私だって、三年後の先輩のこと最初は全然信じられなかったし。それでも相手が本物の先輩だったからやっと信用できたけど。
「あー……あのね、たとえばの話なんだけど、未来からメッセージが届くとして……」
「はい? ゆいさん、本当に疲れてる? スピリチュアルってやつ?」
くっ、やっぱりだ。完全に引いている。……鞄からお財布を出して……え、お金置いて先に帰ろうとしてない? え、そこまで? みさぽと私の友情ってそんなレベルなの!?
「待って待って、あれだよ。友達の……じゃなくて、脚本! 今度やる脚本の話で!」
「あー部活の? なんだーそういうのやるんだね、演劇部」
みさぽが納得したように財布を鞄に戻す。本気じゃなかったよね?
「でも、みさぽさんは演劇の相談は乗れないよー」
「え」
「ゆいさんは頼りになる先輩がいるでしょ」
「いやぁ……そうなんだけどその……今回は例外で……そう、サプライズ! 先輩にサプライズしたくて! とにかく話だけでも聞いてくれないかなって」
「ええー? まあ聞くだけならね」
ということでやっとみさぽに相談できることになった。
でも脚本ってことで聞いてもらっても、力になってもらえるかな……。「そこは爆発シーンとか入れとこうよ」みたいなこと言われても困るしな……。
私は大まかに、三年後の憧れの人とメッセージでやり取りできるようになって、未来が変わってしまったこと……そして憧れの人との関係が変わってしまったことを話した。
つまりまあ、私と先輩のことであることは除いて、だいたいのことである。
脚本と言うことで、三年後の二人は交際関係にあったことも話した。
脚本だからね!!
「……それでなにが問題なの?」
私の培った演技力を踏まえた熱弁――感動のストーリー(ではないか)だったはずが、聞き終わったみさぽはボケーっとしていた。
「問題だよ! だって、未来を変えちゃったせいで先輩――じゃなくて、憧れの人が大変なことになったんだよ」
「いやー憧れの人って……えっと、その脚本の主役? その人にとっても未来ではもう憧れじゃないってことじゃん」
「え、いや、そんなことはないって……」
「なんでないってわかるの? そもそもこれってなに? どういう相談なの?」
「え!? あ、だから……その……脚本のラスト……どうやって未来の憧れの人を助けるのがいいかなって……」
みさぽの興味がしおしおと縮んでいるのを感じて私は慌てた。どうしてだ。演劇の話はともかく、恋愛相談みたいなのは好きだったじゃん!
「脚本のことはわかんないけどさー」
みさぽはメロンソーダの入ったグラスからストローを抜いて手でもてあそぶ。
「好きとか嫌いとかって、ぶっちゃけそんなに長く続くもんじゃないじゃん」
「え、みさぽ?」
「みさぽさんもさーちょっと疲れちゃったんだよねー色恋とかさ、みんな最初だけだよ。熱くなるのって。燃え上がったら」
「どういうこと!?」
ちょっと前に恋愛元帥を自称していたみさぽはどこへ行ったわけ!?
「だからさー三年でしょ? 未来のやり取りしてる二人は三年を甘く見てるって。三年でラブラブになることもあるし、冷め切ってもう連絡も取らないってこともあるって」
そう言われると、なにも言い返せない。
未来が変わる前だって、三年後の私は、今の私とは全然違って……先輩と恋人同士だった。
実際には、先輩が卒業するまでの間にはなにかが変わっていたみたいだけど。
恋愛感情というものが、どこかで生まれるように、どこかで消えてしまうことだってあるというのはわかる。世の恋人たちが付き合ったり別れたりしているのだから、それは自然の摂理みたいにあることだ。
「……でも」
恋人関係でなくなることは、わかる。
正直、三年後の先輩は私と恋人でないことにショックを受けているみたいだけど、ここに関しては私からすると「付き合っていた」ことの方がにわかに信じがたいのだから……未来が変わって付き合わなくなったと言われても、驚きはない。
「……憧れの気持ちは、変わらないって思うだよ」
「えー恋は盲目って言うけど、憧れもたいがいだと思うけどなー。憧れってさ、その人はこういう人だって理想を押しつけるのまんまじゃない? 両目を閉じて、頭に浮かんだその人しか見えてないよ」
「みさぽ、本当になにかあったの……?」
みさぽの酸いも甘いもかみ分けて来ましたみたいな表情に私は戸惑う。
私が部活ばっかりだった間に、みさぽも成長して変わってしまったのかも知れない。
演劇初心者だった私が半年もしないうちに、先輩にもまあまあ認めてもらえるくらいには成長できたのだってそうだ。
人間は変われるし、成長できる。
同じように、気持ちも変わってしまうということなのかな……。
だけど今の先輩と全然違う三年後の先輩と仲良くなって、私の知っていた先輩の違う一面を知って、それでも私の先輩への憧れは全然変わっていない。
むしろ、強くなっているくらいだ。
私のこの憧れが変わってしまうなんて思えないし、思いたくない。
みさぽには感謝して、だけど、やっぱり私のこの気持ちをどうにかできるのは――最後に頼りになるのは先輩しかいないって思った。
……さて、二人いるけど、どっちの先輩を頼るべきか。
一人は私の話ならなんでも聞いてくれるけど、現状むしろ私に助けを求めている三年後の先輩。
もう一人は三年後の先輩とのことでちょっと気まずいけど、クールでカッコよい部長の先輩。
うーん……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます