第21話 同時作戦
三年後がどうなるのかも気になっているけれど、聞ける相手は先輩だけで、私が知りたいことはどうにも先輩相手だと聞きにくいことばかりだ。
なにより、最近ちょっとウザい。
いやいやいや、三年後とはいえ、憧れの先輩にウザいとは何だ。言うことはもちろん、思うことすら不敬である。
ウザくはない。ウザくはないんだけど、なんかこう……今までに増してやりにくい。
『ゆいゆいぃ、どうなのー? そっちのわたしとは?』
「別にどうということは……」
『隠さないでよー! 恥ずかしがることないでしょ、わたしとのことなんだから』
「いや、そうじゃなくてですね……」
なんかこう、勘違いされている。
なぜこうなったのか。たしかに私は先輩と仲良くなろうとはしているが、別に三年後の先輩が思うようなことはしていない。
だけど三年後の先輩は三年後の先輩で、気づいたら恋人と別れていたという可哀想な状況ではある。未来が変わってしまったせいだ。しかも、その気づいたら別れていた恋人というのが私なのだから本当に困った。
だからなんていうか、三年後の先輩は落ち込んでいたし、私も責任の一端は感じていて……あんまりはっきりと否定できなかった。
結果――私は今、三年後の先輩とこちらの先輩と仲良くなる計画を進めている。
いや、これ以上にない強力な味方なんだけど、でも私と三年後の先輩が目指しているゴールが違う。要するに、協力してくれている半分、邪魔されている半分くらいである。
『じゃ、次はキスだね』
「……なんでですか?」
『恋愛の基本。突然のキスから全てが始まるの』
「……恋愛は始めないです。あと罪に問われるようなこともしないです」
『大丈夫、わたし本人が許可しているんだから』
なんだろう、一回三年後の先輩とこちらの先輩で話し合ってくれないだろうか。それが一番早く誤解が解ける気がする。
「何度も言いますけど、私が目指しているのは仲のいい先輩後輩です! ただ後輩の中でも一番可愛がられたいと思っているだけで!」
『結菜は一番可愛いよ』
「……ありがとうございます」
『だから、もっと目標を高くもっていいんだよ? 恥ずかしがる必要なんてない!』
メッセージのやり取りだけですごく疲れる。
けれど三年後の先輩のアドバイスがあって、今までもこちらの先輩と仲良くなれているのは間違いない。やはり協力はあった方がいい。
ただ問題は――。
「目標を高くって言っても……ほら、高すぎる目標は目標じゃないって言うじゃないですか? だからとりあえずはもう少し仲良くなりたくて……」
『えー大丈夫だって、もうわたしは結菜のこと大好きだから、いつでも結菜の方から来てくれたらウェルカムだって』
「こっちの先輩はそんなことないですって」
『まあ、実際そっちのわたしのことは、わたしにはわかんないけど』
そうなのだ。三年後の先輩はこっちの先輩のことを知っているようで知らない。
私よりは知っている――と思っていたけれど、とある部分では大きな解離がある。つまりこっちの先輩はもう私とは恋人にならないということだ。
だから今の先輩が私をどう思っているか。好いているのか嫌っているのかは、もう三年後の先輩にはわからない。
嫌われているとは思わないけれど、勉強まで教わっていろいろあって……ちょっとウザがられていないか心配だった。
いや、決して私が三年後の先輩もウザく思っているから、向こうも――と疑心暗鬼になっているわけではない。
でも現に先輩は私から距離を開け始めた。
私がダメな一年生ではなくなったから――と一旦は納得したものの、それだけだと決めつけていいのか。やっぱり不安になる。
どうにか今の先輩の気持ちをたしかめることができれば。
『じゃあ、そっちのわたしに聞いてみたらいいじゃない。「結菜のこと、好きですか? 抱いてくれますか?」って』
「…………」
『大丈夫だって、自信もって! わたしだって、結菜からそんなこと言われた……抱くねよ! 抱く! 一晩でも二晩でも!』
「いや、聞けませんって」
この調子では、やはりみさぽにまた相談するべきだろうか。でもみさぽも私と先輩のことそっち方面で考えているからなぁ。このノリがないだけであんまり参考になるかというと……。
三年後の先輩と連絡が取れるのに、もう未来のことはわからず、肝心の先輩のこともプロフィールみたいな情報だけしか確認できない。
誰か未来の最新情報を知っている人間がいればいいのに。
――例えば、三年後の他の……。
「先輩はどうなんですか? そっちの私と」
『え? ……それを聞くの? 今日も眠れなくなるくらい泣くけど、結菜は先に寝ないでくれる?』
「いやっ、そのすみません。聞き方が難しくて……その、向こうの私とは結局……今は普通の先輩後輩なんですよね? 連絡というか、会話とか……そっちの私がどうしているのかなって?」
『……わ、わからないけど。後ろから「だーれだ?」ってやったら、恋人じゃなくてただの知り合い程度の関係性だったから、かなり引かれて……あの引きつった結菜の顔が忘れられないままだけど』
そんなことがあったのか。
悲しい出来事を思い出させて申し訳ない。でも恋人の先輩は私にそんなことするのか。今の私だったら、たしかに驚く。驚くあまりに顔を引きつるかもしれない。
「で、でも、私は先輩を尊敬しています! 憧れていて……好きですよ。人として、すごく大好きで……だから驚いても、別にそれで先輩を嫌うことはないですって」
『……こっちの結菜は、もうわたしに冷たいから』
「そんなことないです! わたしの先輩への憧れはこの先変わることなんてありません!」
『……そう言ってくれる結菜はもうあなただけね』
どうやら三年後の先輩は深く傷ついているらしい。恋人だと思っていた相手に、引いた顔をされたらそうなっても仕方ないんだろうか。
「驚いただけで、次は普通に話しかけたら仲のいい先輩後輩ですよ。こっちの私と先輩だって……そんなに険悪でもないですから」
『……結菜にまた引かれたら、もう立ち直れない』
全然話を聞いてくれない三年後の先輩だけれど、どこかで見たことのある流れだった。
そうだ、これいつもの私だ。そうだよね、三年後の先輩がなにを言っても全然信じられなかった。
「あ、そうだ! じゃあ私が今度はそっちの先輩とそっちの私が仲良くなる手助けをしますって! その代わり……もし仲良くなったら、そっちの私に三年間で起きたことを聞いてほしくて……」
『……こっちの結菜と、また仲良くなれるの? おやすみの愛しているメッセージ送り合えるの?』
「えっ、それはその……チャットがこっちとあっちで上手く繋がるかわからないんであれですけど……まあ私がいるんですから、仲良くなれるのは間違いないです!」
こうして、新しい計画が始まった。
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