第16話 告白
先輩と――これは鬼部長の方の――親しくはなっている。
多分だけど、三年後の先輩からのアドバイスもあって、変わる前の未来より、ずっと今の段階では仲良くなっていると思う。
だけどそれは、恋人への道とは違ったみたいだ。
だって、先輩は私に取って憧れの人で、恋人にしたい相手ではない。
先輩にとってだって、私はちょっと会話したことのある後輩でしかないと思う。これからもっと親しくなっても、多分後輩でしかない。
三年後の先輩と三年後の私は何が違ったんだろう。
「……付き合ったきかっけってなんだったんですか? どっちが告白したとか」
これはずっと気になっていたことだ。
でも聞いてしまうと、いよいよ、未来を変えられるという最後の決定権を自分が持ってしまう気がして避けていた。
先輩の後悔のきっかけが脚本選びを手伝ったことのように、私と先輩が恋人になったきっかけを聞いてしまえば、これから起きるそれを変えられてしまう。
なにも知らないままが一番でなるようになると思っていたけれど、なるようになってしまったようだ。
だから今なら聞いてもいいのでは、とメッセージを送った。
いや、だってあの鬼部長とダメ新入生が付き合うなんてありえないでしょ、どんな奇跡が起きたのかって知りたいでしょ。
自分のことながら、他人事のような興味ではあるけれど、知りたい。
『きっかけは、わたしからだけど』
「えええー、意外です。あの先輩が告白なんて」
『……わたしだって本当に好きな相手がいたらそれくらい』
「えっ、いつ頃なんですか!?」
『二年前くらい……わたしが卒業する間近で』
「卒業をきかっけに告白を!? ベタな……」
ついつい相手は私というのも忘れて、普通に恋バナ感覚で盛り上がってしまう。
二年前か。つまり私からすると一年後で、それから私と先輩は二年間恋人だった。
でも今は違う。三年後も違う。
『どうして結菜は……わたしのこと嫌いになった?』
「えっ」
急に当事者へと引き戻されて、私は困った。これは私じゃなくて、三年後の私に聞いてほしい。でも三年後の私はもう先輩と付き合った記憶もないから、聞かれても困ると思う。
いやでも、私も困るよ!
「待ってください、好きとか嫌いとかの話ではなくて……というか今の私の話でもなくて」
『またそうやって話を逸らして……わたしが好きなかどうかはちゃんと答えて』
「ですからその、先輩としては好きですけど」
『じゃあ、なんで告白を断ったの?』
「だから断ったのは、私であって私じゃないんですって!」
こっちの私も三年後の先輩からは何度も好きとは言われてきたけれど、それでも告白された覚えはない。
『なら、結菜は告白されたら断らないの?』
「えっ、……それはどっちの先輩にですか?」
『まず、わたしから。こっちのわたし』
「まずって……」
覚えがなかったから他人事だと思っていたら、まさか改めて聞かれることになるとは。
これを答える必要はあるんだろうか。
「……遠距離恋愛とか、難しいかなって」
『三年なんて、十年二十年たったらたいした差じゃないでしょ!』
「歳の差みたいに言わないでくださいよ! いる世界が三年ズレていたら一生ズレたままですって!」
『それはそうだけど、結菜が冷たいこと言う……』
三年後の先輩は、私に取ってはいつまでも未来の存在で、直接会って話すこともできないし、通話だってできない。
このメッセージだって、どうやって届いているのかまったくわからないのだ。
恋人というの難しいんじゃないだろうか。いや、チャットだけで恋愛する人たちもいるとは思うけど、私には難しい。
『なら、そっちのわたしは? そっちのわたしに告白されたら?』
「こっちの先輩は私に告白なんてしませんよ」
『するよ。したもん』
「でも、告白しなかったから……そっちでは恋人でなくなったんじゃないですか?」
『じゃあ、したら断らないの!?』
「……いや、それはその、まあ?」
『まあってなに!? まあってなに!?』
鬼部長の先輩の方から告白される想像はできないのだけれど、もしもと仮定することはできる。
その場合、私はどうするだろうか。
先輩と私が恋人。
「あの……まずはお友達からでも……よければ」
個人的には十分前向きな回答をしたつもりだったのだけれど、三年後の先輩には泣かれた。文字だけなのだけど、目に見えるような動転ぶりで、変なスタンプがたくさん送られてきた。
そうか友達からって、断り文句か。
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