第6話 (承前)
隔離病棟に勤務する看護師は、時として精神の異常により極度の恐慌、興奮を生じて暴れる患者を細心の注意を払い怪我をさせないように鎮圧しなければならない。
鍵の掛かった閉鎖病棟から、逃亡を許さず、患者本人に怪我をさせずに、制圧する技術は、そこに勤める看護師なら一通り身に付けていたが、中でも本郷は、合気道三段の武道家でもあった。
入退院を繰り返している顔見知りの患者と違って初めての患者では、高齢であっても油断はできない。どんな特技を持っているのか分からないし、窮鼠猫を噛むではないが、精神に異常をきたした人は時に思わぬ力を出すことがある。スポーツが不得意というわけではなかったが、武道には一切心得のない朝倉にとって本郷は頼もしいパートナーに思えたのだ。
薬局に連絡を入れるまでもなかった。廊下の向こうから薬の入った包みを抱えて、本郷がやって来るのが見えた。本郷は、夜の回診を終えて医局に戻った朝倉が、詰め所にまたやってきていたのでおやっとした顔をしたが、目が合うと軽く挨拶をした。
「これから不穏な状態に陥っている窪山さんという人の所へ往診に行く。一緒に行って手伝ってくれ。もうすぐ山本君もやってくるからそれから出発だ」
外来に資料を取りに行っていた島田が帰ってきた。朝倉は資料を受け取ると住所と電話番号を確認した。
「本郷君、軽く目を通しておいてくれ」
資料をカウンターの上に置くと朝倉は、往診に持っていく器材と薬剤の点検をするために詰め所の奥に入って行った。
30分ほどしてソーシャルワーカーの山本がやって来たので三人は出かけることにした。
朝倉は、窪山早百合に電話した。
「準備ができましたので、これからお伺いします。ご主人の様子はどうですか? お変わりないでしょうか?」
「ええ、部屋に閉じこもったきりでしんとしています。怖くて近づくことも覗くこともできません。どうぞ宜しくお願いします」
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