第25話 ダンジョン③

40階層を超えてから敵はかなり強くなっていった。

だが、僕たちはどんどん進む。次なるアーティファクトを求めて。

この長靴のアーティファクトはオークさんが履いているうちに徐々に性能が分かってきた。

自動調節機能と疲労回復の効果だ。僕は「回復」のスキルを持っているからあまり必要ないが、オークさんは違う。戦闘が長引けば、疲れが溜まりやすいだろう。オークさんもその効果を実感して喜んでいた。


50階層の扉を開け、中を確認する。

部屋は広く、戦闘に支障はなさそうだ。障害物は何もなく、ただオーガが静かに鎮座していた。

この部屋に入れば戦闘が始まるだろう。僕たちはそれまで準備をすることに決めた。


「カンテイ、ケッカハ?」

「オーガジェネラルだ。」


ジェネラル――それは、授業で習った進化した魔物のことだ。

ゴブリンやオーク、オーガなどが進化し、知能を持ちコミュニティを形成する。ゴブリンは、ゴブリン、ハイゴブリン、ゴブリンソルジャー、ゴブリンジェネラル、ゴブリンキング、ゴブリンエンペラーと進化する。

僕たちの森ではゴブリンの進化個体を見なかったから、忘れていたが、重要なことだ。

なぜなら、この進化から、冒険者ギルドや軍の間では魔物の等級が決まるからだ。

ゴブリンが10級、オークが9級、オーガが8級。進化ごとに1ランクずつ上がり、オーガジェネラルは5級ということだ。


僕がそのことをオークさんに話すと、大きく頷いてくれた。


「ワタシノ、コキョウモ、シンカ、アル。」


ふーん。

オークさんが進化していないことが気になった。だって強さ的には進化して当たり前じゃないか。

いや、この森では進化した魔物を見なかったから、オークさんが進化しないのは当たり前なのか?

それとも、コミュニティに入っていないから進化しないのか、と一人納得していると、


「ソロソロ、イコウ。」


オークさんの一声で、僕たちはオーガジェネラルに挑むことになった。


僕はこのダンジョンを基本的に甘く見ていた。森とは違い、奇襲もなく、敵は弱い。ジャイアントワームには少し苦戦したが、逃げるだけならできていた。

だが、このオーガジェネラルは違う。

速さ、力、耐久力――どのステータスも僕より圧倒的で、オークさんに匹敵するほどだ。

そのため、僕はただの観客になっていた。


オークさんとの一対一でも、オーガが有利に戦っている。

オークさんが苦戦している理由は、相手が槍を持っていることだ。槍のリーチが長いため、オークさんは苦戦している。

オークさんはインファイトに持ち込みたがっているが、距離を詰めるのが難しいようだ。


一度仕切り直しと、オークさんが距離を取ったその隙に、オーガは僕を攻撃してきた。

上、右、左、左――槍で突かれ、僕も苦し紛れに「魔槍」で応戦する。

オーガは僕より巧みに槍を捌き、攻撃してくる。人間として負けている気がするが、そんなことを気にしている場合ではない。

僕の大振りの一撃にオーガは槍を合わせようとしていた。

そこから反撃に繋げたかったのだろう。だが、それは予測できていた。

僕はその槍に「強撃」を発動して、勢いよく「魔槍」を振り抜いた。


スパッ――


軽い音がした瞬間、オーガの槍が折れた。

オーガは僕のことを見くびっていたのだろう。竜の首さえ落とした「魔槍」の強さを知らなかったのだろう。

急に槍を狙った僕の攻撃に対応できなかったのだろう。

様々な思惑が重なり、オーガは思考を停止する。


グシャッッ!!


その瞬間、オークさんの一撃が後頭部に入り、オーガの脳は陥没した。


「あ、危なかったー」

戦いの緊張からか、僕は思わず尻餅をついてしまう。

正直、こっちに来た時は死ぬかと思った。「魔槍」の一撃がミスっていたら、その時点で終わっていた。

竜とは違って人型でそこまで大きくなかったため、少し侮っていた。これからは注意しよう。と心に決めた。


オーガジェネラルのドロップ品は首飾りだった。おそらくアーティファクトだろう。

「鑑定」が効かないので、効果を推察するしかない。

禍々しい赤い宝石がついたネックレスを恐る恐るつけてみるが、特に効果は感じなかった。

呪われるかもと疑っていたのが少し恥ずかしい。


50階層以降、敵はさらに強くなり、ボスとして君臨していたオーガジェネラルが出現した時、ダンジョンの難易度設定に疑問を抱いた。

もしこの首飾りのアーティファクトがなかったら、僕たちはどうなっていたことか。

たまたま気づいたのは運が良かったのだろう。

その効果は、宝石部分を叩くと発動し、ステータスが1.5倍になるというもの。消費魔力は毎秒1000と高いが、ぶっ壊れと言ってもいいだろう。僕のような魔力が多い者には非常に有用だ。


だが、敵が強くなりすぎて、

「これ以上は無理だ。帰ろう。」

「ワカッタ。」


さすがのオークさんもきつかったようで、僕たちはダンジョンから出ることにした。





――――――

〈土壇場の長靴〉

自動調節、疲労回復効果を持つ。また、体力が減るたびに耐久力が上がる。


かつて窮地で何度も戦局を覆した伝説の戦士が愛用していた装備。

踏み出すたびに 力が満ちる

限界の先で 光が揺れる

最後の土壇場 鼓動が響く




〈血契の首飾り〉


絶え間なく魔力を喰らい、力を引き出す首飾り。

消費魔力:毎秒1000 —— 全ステータス1.5倍の恩恵を受ける。

だが、10秒ごとに「呪い」が刻まれ、解除しなければ呪いの力が増していく。発動解除すると「呪い」は消失する。

「精神耐性」を持つ者のみが、その呪いを抑え込むことができる。


足掻け、足掻け

力を欲するなら、代償を払え



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