第20話:半島沖海中ダンジョン

「報告、半島に数多くのゲートが出現している、全てのゲートを防ぐまで戦う」


 克徳は選抜した神使たちを率いて独裁国内に開いたゲートを探す。

 探し出しては魔宝石に蓄えた魔力を使ってゲートを塞ぐ。


 選抜した神使たちが、ゲートを塞ぐのに使った魔宝石の魔力を補充してくれる。

 ゲートを探している途中で斃した魔族やモンスターを食べて魔力を得て、魔宝石に魔力を補充してくれる。


 克徳たち別動隊は、半島中のゲートを探して閉じるのに半日かかった。

 主力部隊も半日かけて目立ったモンスターを全て斃した。

 斃した下級魔族やモンスターを食べて、神使たちが強化成長進化した。


「半島上空のゲートは全て塞いだと思うが、海上や海中にゲートが開いていないか心配だ、米国と欧州の衛星に調べさせろ。

 半島のゲートも、米国と欧州の神が手引きして開いた疑いがある」


 克徳は欧米の神が裏切った可能性を、ライブ配信で強く訴えた。

 欧米で宗教差別と人種差別が先鋭化している現実も強く訴えた。


 沖ノ鳥島沖海戦に続いて、日本の近くにゲートが開いている。

 欧米に開いたのゲートは直ぐに見つけるのに、日本に近いゲートは見逃している。

 日本の神仏や民を殺すために、知っていて教えなかったと言われても仕方がない。


 そんな日本と欧米の激しい駆け引きを、地下防魔基地や防魔砦、防魔室に隠れていた半島の人たちも見聞きしていた。


 通信手段は限られていたが、それでも外の様子をできるだけ見聞きしていた。

 何時死ぬか分からない状態でも、僅かな希望を求めて見聞きしていた。

 自国の軍隊と米国の軍隊が、成す術なく壊滅したのを知っていた。


 半島国民は生き延びるために古の神仏を捨てて、同盟国の一神教を取り入れた。

 だが、同盟国の神は助けてくれなかった、見殺しにされた。

 助けに来てくれたのは、散々難癖をつけた隣国だけだった。


 とはいえ、克徳たちは半島を助ける為に来たわけではない。

 日本の民間人を守るために、できるだけ本国から遠く離れて戦う、攻勢防御を仕掛けただけだ。


 それでも、刻々と死に近づいていた半島の人たちから見れば、救世主だった。

 救世主と崇め立てて、克徳たちに莫大な神通力をもたらした。

 

 克徳たちが救世主のように戦っても、隣国人を許せない半島の人々も多かった。

 だが、人は許せなくても、日本の神は信じられなくても、仏は信じられた。


 元々半島民主主義国には無宗教者が6割近くいたのだ。

 モンスター禍で、生き残るために同盟国の一神教を信じるようになったのだ。

 一神教が助けてくれないのに、信じ続ける訳がない。


 日本が嫌いな半島人でも、助けてくれた仏を信じこれからも助けて欲しいと祈る。

 今回と同じように、日本の信徒や神使を助けに寄こして欲しいと仏に祈る。

 身勝手な願いだが、真剣に祈れば信仰力となり神通力になり釈迦に集まる。


 それでなくとも半島の民主主義国は指導者層を信用していない。

 全ての大統領が任期後に弾劾されて有罪になっているような国だ。

 亡国寸前にまで追い詰められて黙っている訳がない。


 今はまだ防魔砦や防魔室に避難しているので何もできない。

 だが魔族とモンスターが一掃され、外に出られたら弾劾に向けて一致団結する。

 そんな気持ちになっていたが、希望が打ち砕かれるライブ配信を観た。


「克徳先生、松濤園リゾート沖合に海中ゲートがあると米国より知らせがありました、至急封鎖に向かわれてください」


 防衛省の官僚から克徳に連絡が入る。

 陸上や上空だけでなく海中にまでゲートが開いていると知った人々は、まだまだ戦いが続くと知って愕然となり、少しして絶望した。


「分かった、至急向かうが、海中では俺たちだけでは戦力不足だ。

 水生神使たちを向かわせるが、太平洋側が心配だ。

 欧米の軍や邪教の天使軍団が奇襲を仕掛けてくる可能性がある。

 太平洋方面に展開している、海自と海保の艦艇に警戒させてくれ」


「分かりました、至急伝えます」


「行くぞ」


『『『『『おう!』』』』』

 

 克徳の指示に強大な神使たちが答える。

 熾神使を超えるどころか、荒神や鬼神を超えるほど強くなった神使たちが答える。

 克徳たちは沖ノ鳥島沖海戦の時と同じように、上空から水生モンスターを間引く。


 独裁国には上空と地上に複数のダンジョンが開いていた。

 それに加えて、密かに海中にもダンジョンを開いていたのだ。

 半島を制圧してから、空と海から同時に日本を攻めるつもりだったのだ。


 ところが、国際紛争を恐れず克徳が半島に討って出た。

 これまでの政治家では絶対にできない事だが、克徳にはできた。

 欧米どころか邪神すらも恐れていない。


 文句を言ってきたら、これを好機に邪神と戦う覚悟だった。

 異世界神や邪神に、都合のいい時に攻撃されるよりは、克徳たちに都合の良い時に戦いを始めた方が勝てる、そう判断していた。


 上空から反復攻撃する克徳たちがうっとうしかったのだろう。

 日本への空と海からの同時侵攻が破綻したからでもあろう。

 先制攻撃を受けて、海中からの隠密侵攻が不可能になったからでもある。


 クラーケンが、ホバリングして反復攻撃をする爪羽狼神使を、長い足で捕らえて海中に引きずり込もうとした。


 首長竜、プレシオサウルスのようなモンスターが、海中から長い首を使ってホバリングして反復攻撃をする爪羽犬神使を喰らおうとする。


 メガドロンのような20メートル級のモンスターが、海中から50メートルも飛び上がって、上空から急降下攻撃を繰り返す鳥型神使を喰らおうとする。


 だが克徳たちは、最初からモンスターが逆撃して来ると想定していた。

 狙われた神使が囮になってモンスターを引き付けると決めていた。

 引き付けられたモンスターが海面から離れた所を、他の神使が斃す。


 半島に主力部隊として行軍していた飛行できる神使たちの中で、能神使以上に強化成長進化できた者たちが、大挙して克徳たちの援軍に向かう。


 だからといって、半島の人たちを助ける神使たちが減った訳ではない。

 神仏が無数の鳥たちを神使に任じて援軍に送ったからだ。

 日本の神仏だけでなく、半島で祈られた仏も半島の生物を神使に任じた。


 そんな平神使たちも、主力部隊が殺したモンスターの死骸を食べて魔力を得る。

 魔力を得る事で、主神使や権神使に強化成長進化する。


 克徳たちが海上で斃したモンスターを、援軍に来た能神使たちが食べる。

 平神使では海からの奇襲で殺される可能性が高い。

 だが能信使なら奇襲を受けてもモンスターを返り討ちにできる。


 せっかく斃したモンスターを神使たちが食べられず、モンスターに食べられてしまうと、弱いモンスターが強くなってしまう。


 何より、死んだモンスターを魚が食べて魔力を体内に蓄えてしまうと、食物連鎖で人間の身体にも魔力が溜まってしまい、人間が異形の存在に変化してしまう。

 日本の神仏は、今でも出来れば人間を異形に変化させたくないと思っている。


 半島の沖合では、上空と海中で激しい戦いが5時間ほど続いた。

 半島の陸上でも神使たちがモンスターの掃討戦を行っていた。

 そのライブ配信で、膨大な神通力が克徳たちにもたらされた。


 5時間経って、水生神使たちが半島沖に集結した。

 脇を抜けて日本が攻撃されないように、大きく包囲しながら集結した。

 そして一気にモンスターに攻撃を仕掛けた。


 後は沖ノ鳥島沖開戦の時と同じだった。

 上空で牽制しながらモンスターたちを引き付けていた克徳たちが、水生神使たちの援軍を得て、海中ゲートを閉じるために突撃した。


 空を駆けられる神使に騎乗して集結した信徒たち。

 更に空を駆けながら手も使える鴉天狗神使や羽猿神使たちが、海獣神使を抱えて集結していたのだ。


 克徳が周りの信徒と神使たちの支援で易々とゲート前にたどり着いた。

 だがそこには、とてつもなく強大な純血種の竜、ピュアブレッドドラゴンが待ち構えていた。

 


 

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