第17話
その訪問客は、ある日唐突にやってきた。
さちが土間の掃除をしていた時のこと、女と思われる、しとやかな美しい声が正門から響いてきた。
「ごめんください」
「はーい」
(女の方のお客様かしら、珍しいこともあるものね)
ぬらりひょんの屋敷に来る客は、あやかしがほとんどだ。そのあやかしの多くも目まぐるしく変わりゆく日本についていけず、幽世へ行ってしまったと聞く。残っているものは、理由があるか、好んで残っているものばかりだ。以前は人間もぬらりひょんの屋敷に来ていたというが、今は来るものは少ない。さちもこの屋敷に来て、人間と会ったことがなかった。
「ごめんくださいませ」
「はーい、お待ちください」
九桜院家でも、ぬらりひょんの屋敷でも、外の者と会うことが少ないさちは、客人に慣れていない。一つ目小僧や油すましは土間からひょっこり顔を出すし、化け火は元からかまど辺りにいる。
(えっと、失礼のないようにしないと)
着物の埃を払い落とし髪を整えると、門のほうへ走っていった。緊張で速まる鼓動を呼吸でなんとか整える。
(私はぬらりひょん様の嫁としてここにきたのだもの。正式な妻と認められたわけではないけれど、ぬらりひょん様のお客様の一人や二人、ちゃんと応対できないとね)
自らに言い聞かせ、心を落ち着かせると、引戸をゆっくりと開けた。
「お待たせして申し訳ありません」
門の前に立っていたのは、華やかな着物を着た美しい女性だった。すらりと背が高い。
さちにとって、この世でもっとも美しいのは、姉の蓉子だと思っている。蓉子は深窓の令嬢らしい、奥ゆかしくて品の良い美しさだ。
今さちの目の前に立っている女は下町の人間らしく、親しみのもてる華やかさを漂わせている。美しさでは蓉子とひけを取らないが、蓉子の艶やかさとはまた違う美貌だ。
「おや」
女は小柄なさちを見下ろすと、不思議そうな声を発した。
「あんた、ぬらりひょん様の女中さんかい?」
いきなり「女中」と言われて驚いたが、九桜院家での生活を思えば、女中と思われても不思議はない。
「は、はい。私はぬらりひょん様の嫁としてここに参りましたが、今は家事手伝いとして働かせていただいております」
どもってしまったところが情けないが、なんとか自分の立場を伝えることができたさちだった。
「よめぇ!? あんたがかい?」
女は仰天したようで、さちの頭の上で大きな声を発した。
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