第14話
「ぽてとすーぷって、つぶしたじゃがいもを牛乳で煮た汁でやんすね」
かまどの前に立つさちの手元を、一つ目小僧が興味深そうにのぞき込んでいる。
「ええ。スープと言います。スープにはいろんな種類があるのですが、これはそのひとつです」
「へー。じゃがいもはコロッケだけじゃなく、スープなんて名前の、ハイカラな料理にもなるでやんすね」
「そうですよ。じゃがいもは洋風にも和風にもなれるんです!」
さちはやや控えめな胸を張り、誇らしげに主張する。じゃがいもが万能なのであって、さちが有能なわけではないのだが、まるで自分の手柄のように話すのだった。そんなさちを、一つ目小僧は愉快そうに見つめている。
化け火に火加減を調節してもらいながら、じゃがいもと牛乳が入った鍋を木べらで混ぜていく。うっかり目を離すと焦げ付いてしまうから注意が必要だ。
「そうそう、さちさん。おいらに妙な言葉遣いは不要でやんす。さちさんは、おやびんの奥様でやんすから」
ことこと、くつくつと煮える鍋を、さちと共に見守る一つ目小僧が言った。
「でも、一つ目小僧さん」
「おいらだって、人間の話し方を真似ているうちに、妙な話し方になってるのは自覚してるでやんす。ふたりでよそよそしい話し方してたら、体がむずがゆくなるでやんす」
一つ目小僧の話し方が人間の真似をしているとは知らなかった。変わった話し方をしているとは思っていたが。
「わかりました。でも、一つ目小僧さんも私にあまり気を遣わないで。私はぬらりひょん様のお嫁さんとして、認められたわけではないのですから」
「そうなんでやんすか? そりゃあ知らなかったっす」
「私はぬらりひょん様の元で働かせていただくだけなの。だから若奥様とか御寮さんとかやめてね」
「がってんでやんす!」
にかっと笑った一つ目小僧の無邪気な笑顔に、さちも自然と顔がほころぶ。
「あのね、ひとつお願いがあるのだけれど……」
「なんでやんす?」
木べらで鍋を混ぜているさちの頬が、ぽっと赤く染まった。
「私ね、弟が欲しいって、ずっと思ってたの。もしも、もしもでいいのだけれど、『一つ目ちゃん』って呼んでもいいかしら?」
「一つ目ちゃん……」
面食らったのか、一つ目小僧はその場で黙り込んでしまった。
「や、やだ、ごめんなさい。いきなり失礼よね、一つ目小僧さん、さっきのは忘れて……」
気を悪くさせてしまったのかもしれない。さちは火加減を見ながら、一つ目小僧に謝ろうとした時だった。
「ではおいらは、さちさんを、『さち
一つ目小僧の元気な声が、土間に響いた。
「さち姐さん……?」
「あれ、駄目でやんすか? おやびんの若奥様、いや、若奥様候補だから、『さち姐さん』って」
「ううん、嬉しい。ありがとう、一つ目ちゃん!」
さちと一つ目小僧は共にかまどの前に並びながら、楽しそうに笑った。
化け火も二人の笑い声に応えるように、ぱちん、と軽く火花を散らした。
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