(18)5.2 アレクシス奪還へ
温かい魔法の気配を感じ、エデルは目を覚ました。
どこかに寝かせられているようで、がやがやと多くの人がいる気配がする。
目を開けたエデルはすぐに体を起こし、周囲の状況を把握した。
「……治療、感謝する。わたしはもう大丈夫だ。他の人を治療してほしい」
エデルに一瞬見とれた聖属性の魔法使いは、すぐに自分の職務を果たすために隣の寝台へ行く。そこでは、兵士長が寝かされていた。
エデルは自分に魔法をかけて快復し、状況把握時に見つけたノーマンの元へ行く。
ノーマンは、部屋の奥で聖属性の魔法使いに指示を出していた。
「! エル殿! 目を覚ましましたか」
「すまない。殿下を攫われた」
「街から戻った時に驚きました。城中が蜘蛛の巣だらけで……今回は蜘蛛型の魔物、アラコラが殿下を攫ったようですね」
「精霊廟ではなく、城内の何もない廊下に異界門があった。予想もつかないような場所にあるものなのだな」
「ええ、本当に。街での調査でも、裏の路地や朽ちた家の中など様々な場所にありました。全てを調べきれたかどうかわかりませんが、以前見つけた二つの門を合わせて、街中には全部で九つも異界門が機能していない状態です。想像以上に数が多く、聖属性の魔法使いを各門に派遣するのは難しいですね」
「なるほど。だからこの場にいる聖属性の魔法使いが二人しかいないのか」
先程エデルを治療してくれた魔法使いと、ノーマンから指示を受けた魔法使いだ。
エデルは魔法使いを手伝うように、兵士長の元へ行った。隣に並ぶとアルヴィーと同じ身長になる魔法使いの頭を撫で、エデルも治療する。そして魔法使いと協力して、倒れていた兵士一人一人を治療していった。
「エル殿、お疲れ様です。今後の作戦を立てたいので、こちらへ」
ノーマンに呼ばれ、寝かせられていた部屋の隣へ行く。
「エル殿、魔力はまだありますか」
「わたしは魔力が高い方だが、アラコラの蜘蛛の糸の影響だろうか。普段なら問題ないのに、少しふらつくようだ」
「アラコラの糸には、生命力を奪うような力があるようです」
「その本は、先人の知恵か」
「そうですね。先の時代に殿下のように攫われていたのかはわかりませんが、対峙はしていたようです。対処法が纏められています」
言うと、ノーマンは本を置いて棚から細い瓶を取り出す。黄色の液体が入っている。
「魔力と体力を回復するポーションです。どうぞ」
「ありがたい」
ノーマンから受け取ったポーションを、一気に飲み干す。パチパチと何かが弾ける飲み心地に驚くが、飲んですぐに魔力と体力が回復していているような感覚になった。
「これから殿下を奪還しに行っていただくのですが……エル殿の聖属性魔法は、どれくらい効力が持つのでしょうか」
「どうだろうか。前にアフロと戦ったときには余裕だったが」
「アラコラの糸は、魔力も吸います。途中で魔力が切れてしまう可能性があるので、こちらのポーションをいくつかお持ち下さい」
「わかった」
渡されたポーションを服のポケットにしまう。詰襟のついた服のポケットは小さく、左右に一本ずつしか入らない。尻ポケットにも一つずつ入れ、四つ持てた。
「そういえば、以前もそうだったが殿下は寝ている状態ならば瘴気の影響を受けないのか?」
質問すると、ノーマンは先人の知恵が書かれている本を捲る。
「えーとですね、愛し子は精霊王様のようなもの。だから瘴気は問題ない、とありますね」
「そうか。それならば、ひとまずは安心だ。これから殿下奪還に向かう。新たに発見された壊れた異界門の対応で忙しいだろうが、もし手が空いた聖属性の魔法使いがいれば応援を頼む」
「かしこまりました。エル殿は愛し子ではありません。魔力切れは命に関わります。ポーションの残量にはお気をつけ下さい」
「わかった」
ノーマンに見送られ、アレクシスが消えた城内の異界門へ行く。そこへ行くまでの蜘蛛の巣はほとんど取られ、天井の角に少し残るぐらいになっている。
エデルは指を弾き、常に清浄な空気を作り出す白い膜で自分を覆う。そして、斜めに大きくヒビが入っていた異界門から魔界へ行った。
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