第2回お題「あこがれ」KAC20252
三雲貴生
第1話「わたしは先輩にあこがれている」
わたしは、岩本なぎさ15歳。
わたしは、演劇部の阿部なつき先輩にあこがれています。
出会いはこうです。
高校の入学式の翌日、わたしたちは体育館で行われたクラブ紹介の演劇を観ました。
演目は白雪姫。
それは白雪姫が森の動物たちに歌を聴かせるシーンから始まった。
透き通るソプラノが優しく会場を包み込む。
アメジストの鉱石のようなセリフがコロコロと舞台から観客席まで転がり落ちてくる。
7人の小人の登場シーン。素人より幾分上手いが、コーヒーの苦味テイストのようセリフが、白雪姫のミルクのような甘い歌声に侵食されて薄まっていく。
勿論、舞台は大成功。わたしは、一目散に演劇部へ駆け込んだ。
それがわたしと演劇と先輩との出会いでした。
一年後、
わたしは白雪姫役に抜擢されました。これはコーチの一存でした。あこがれの先輩はママハハ役。
わたしはデマに悩まされました。白雪姫役になりたいためコーチに色仕掛けでもしたのだろう──とさえ言われました。わたしは濡れ衣を払拭するため先輩の所へいきました。
そして言いました。
「わたしは先輩こそ、白雪姫にふさわしいと思います」
「どうして?」
「先輩はわたしのあこがれの方だから⋯⋯」
先輩はしばらく考えてから、静かに、詳しく、話してくれました。
「演劇はひとりでは成り立たないわ。ある方がおっしゃったわ。私は演技が上手いんですって、だからとても演技が難しい『ママハハ役』を指名したと──。その信頼に答えたいと思いません? 私はママハハ役を、憎らしく演じてみせます。だからあなたは、白雪姫役を真っ直ぐに演じてみなさい」
こうしてわたしは、2年の春、クラブ紹介の演目『白雪姫』で主役を演じました。
でも先輩が卒業した後、3年の時も白雪姫役だったのは蛇足の話です。
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