【回天堂キ譚】トリノ光臨篇3 妖精事変

サイノメ

第1話 事態変異

(目を覚まして)


 誰かの声が響く。

 わたしはどうしたんだろう……。


(早く目を覚まして)


 また声が聞こえる。

 それは妖精のような儚さを感じさせるか細い声。


「早く起きなさい!!」


 唐突に大声が響いた瞬間、の意識はすくい上げられた。


 ***


「はっ!?」


 わたしが目を開くと、強烈な光が目を焼く。

 思わず目を背け体の上の布団を顔のあたりまで持ち上げる。


「あと5分〜」


 とっさに出た情けない言葉。

 でもまだ眠いのは確かだ。


「いつまで寝てんのよ!」


 強い口調と同時に布団が無理やり剥ぎ取りられる。

 わたしは寒さから胎児のように身体を丸くするが、次の瞬間、少し目を開けて横を見る。


 そこには課長が布団を片手に仁王立ちしている。


 ……これは起きないと行けないやつだわ。


 眠いながらもそれだけは認識できた。


「課長、おはよ」


 挨拶と同時に出そうになったあくびを噛み殺したので、なんとも締まらないあいさつとなったが、課長はいつもの様に表情が変わらない。


 ん!?


 意識がハッキリしてくると、課長の様子がいつもと違うことに気がつく。

 表情が変わらない様に見えて、少し固い。


「何があったの?」


 わたしは少し真面目なトーンで質問する。


「トリノ光臨のことで、ちょっとマズイことになってきたわ」


 さらっと答える課長。

 その言葉に、シノブとの会話を思い出したわたしは少し気まずげに確認を続ける。


「色々な組織が、わたしを探ってること?」

「……」


 その真剣な問いに、なぜか課長はあきれたように少し表情をゆがませる。


「ん~~、そんな事態は通り過ぎてるわね……」

「どゆこと?」


 思わず素で聞き返す。

 まぁ、他の人もいないみたいだし、これは姉妹の会話みたいなもの。

 ……姉妹より関係は濃いけど。

 ともかく、わたしの質問に課長は手元の端末を操作し、ある動画ニュースを見せてきた。


「……ゲッ?」


 わたしの喉を一気に空気が逆流し、変な感じに声帯を震わせた。


[現在、各国にて夜の空に黄金のオーロラが観測されています……]


 そこには全世界的にトキノ光臨エフェクトが観測されていること、その現象に恐怖した人々が恐慌状態におちいっていることが報道されていた。


「トリノ光臨がどのような物理現象かは分からないけど、ただ一つ分かることがあるわ」


 いつになく厳しい表情で課長が言葉を続ける。


「このまま行けば間違いなく、よ」


 その言葉にわたしは喉を鳴らし、一瞬出そうなった声を飲み込む。

 間違ってもそんな事は口には出来ないから。


「災厄の再来ならどうする?」


 わたしは言葉を選びつつ尋ねる。

 それに対して課長は、キッパリと言った。


「ヒナギ、あなたは依頼主のもとへ行って。」

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