第4話 予測可能な大禍襲来

 やがてプリシラが警告し続けていたことは、現実のこととなった。

 世界に『魔王』なる者が現れたのだ。


 魔王の目指す目的は、ただ一つのみ。

 自らがこの世の、絶対神として君臨することである。


 そのために掲げた野望が二つのみ。

 この世界の全てを、物理的に征服し尽くすこと。

 そしてもう一つが、既存の神や秩序の否定である。


 世界中の信仰は駆逐され、世界の秩序のシンボルたる『ユグドラシルの大樹』もまた抹消すべき存在となっていた。

 最初は強力な魔族が、聖なる森に足を踏み入れた。

 しかし幻惑魔法(イリュージョン・ミスト)の結界は盤石で在り、魔族の侵攻のことごとくを退けていった。

 そのたびに、妖精族からは喝采かっさいの喜びに酔いしれていた。


 その頃アタイは、妖精族の欠点の一つ。

 身体の小ささを補うべく、魔導ゴーレムの製作に打ち込んでいた。

 本来なら、妖精族全員にも手伝って欲しかった。


 しかし元老院からは、妖精族を扇動せんどうするような言動もまた厳に禁じられていたのである。

 アタイは誰に頼ることも出来ずに、ただ只管ひたすらに魔導ゴーレムの開発に没入ぼつにゅうしていた。


 そんな時に、運命の「あの日」は訪れたのであった。


 大海嘯だいかいしょうの前触れは、何もなかった。

 突如として魔族たち数十万もの大軍が、聖なる森を取り囲んだ。

 そして『ユグドラシルの大樹』向かって進軍を始めたのだ。


 包囲網が狭められる中での、幻惑魔法(イリュージョン・ミスト)の結界は無力であった。

 これだけの長い年月を、生きて来ているのだ。

 われら妖精族が頼りにする防御結界の弱点など、容易に想像が付くだろう。

 弱点は極めて単純で、飽和攻撃の前には無力だったのだ。

 ただし誰が狂信的に『ユグドラシルの大樹』を敵視して、数十万もの軍勢を用意するであろうか?

 果たして数十万の軍勢が敵対して襲撃してきた時に、いかなる手法で防衛出来るというのだ?


 妖精族は、そこでいつも思考放棄してしまうのだ。


(だって今まで何百万年もの間に起こらなかったことに対して、何で? 今急いで備えなければならないのかって……)


 しかし先送りにしてきた脅威は、いま現実に眼の前に広がっている。

 既に外延部に配された妖精族は、エーテル元素に還元されている。

 この『ユグドラシルの大樹』に、敵の大軍が押し寄せるのも時間の問題だろう。


 アタイはこの日のために用意していたパイロット・スーツに袖を通すと、魔導ゴーレムの最後のネジを締め込んで、そのコックピットに乗り込んだ。


 魔導駆動の振動波が、ゴーレム全体に響き渡る。

「アタイだけでも、大切なお母さまを護るんだ!」


 体高八メートルを超える。魔導ゴーレムが静かに立ち上がった。

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