第7話 目覚めなかった者と目覚めた者

 ガルドとの対戦から数日が経ち、力に目覚めた16人は訓練場で能力を磨き続けていた。藤田の青い光はより鋭くなり、松本の緑の風は範囲を絞って正確さを増し、林の白い光は連射の安定感が向上した。他の13人もそれぞれ進歩し、木製人形を相手に息の合った動きを見せ始めていた。


 しかし、休息部屋に戻ると、力に目覚めなかった13人の姿が目に入る。彼らは訓練に参加せず、ただベッドに座ったり壁に寄りかかったりして、どこか虚ろな目で16人を見つめていた。その空気が日に日に重くなり、藤田は何かおかしいと感じ始めていた。


 ある夕方、訓練を終えた藤田が休息部屋に戻ると、中村が立ち上がって近づいてきた。疲れた顔に苛立ちが滲み、中村は低い声で詰め寄った。


「なぁ、藤田。お前らだけでいいなら、俺たちは何なんだよ? 力が出なかった俺たち、何でここに呼ばれたんだ?」


 藤田は一瞬言葉に詰まり、汗を拭いながら答えた。


「分からないよ。俺たちだって突然こうなっただけだ。中村だって試練で戦っただろ?」


「戦ったって何だよ。剣で蜘蛛を叩いただけだ。力なんて出なかった。お前らの光だの風だのを見てると、俺たちがいる意味が分からなくなるんだよ」


 藤田は中村の目を見て、何か言おうとしたが、ふと頭に浮かんだことを口にした。


「でもさ、全員揃ってないよな。29人って言ってるけど、クラスは30人だ。俺、朔弥がいない気がする。あいつ、いつも隅で寝てたやつ。試練の時もここでも見かけてない。」


 中村の表情が一瞬固まり、他の13人もざわついた。


「確かに……あいつどこ行ったんだ?」


 岡崎がそう呟き、林も膝を抱えたまま


「私も覚えてる。教室で魔法陣が光った時、いたよね?」


 と小さく言った。中村は藤田を睨み、


「じゃあ何だ? 朔弥はどこに消えたんだよ? お前ら16人が特別なら、あいつは……」


 と声を荒げた。


 その時、部屋の入り口にガルドが現れた。訓練官の重い足音が響き、全員の視線が彼に集まった。ガルドは中村の言葉を聞きつけたのか、冷たい目で全員を見回すと


「力の有無は運だ。文句があるなら出てけ」


 と切り捨てた。


「運じゃ済まねえよ! 朔弥がいないのはどういうことだ?」


 中村が食い下がると、ガルドは一瞬黙り、杖を持たない手を軽く上げて言った。


「召喚魔法は完全じゃない。異世界から呼び寄せる際、まれに座標がずれて別の場所に飛ばされることがある。あいつがここにいないなら、そういうことだ。」


 藤田は目を丸くし、


「別の場所って……どこだよ? 生きてるのか?」


 と尋ねた。ガルドは無表情で答えた。


「分からん。平原の果てか、魔物の巣窟か、あるいは死んでるかもしれん。召喚の代償だ。29人、いや30人全員を正確に運べる保証はない。」


 部屋に重い沈黙が落ちた。中村が


「ふざけんな……俺たち実験台かよ」


 と呟き、岡崎が拳を握って震えた。藤田は胸が締め付けられる感覚に襲われ、朔弥の顔を思い出した。あいつがどこかで死んでるかもしれない——その残酷な可能性に、頭が整理しきれなかった。


 ガルドは「力に目覚めた16人が魔王を倒す要だ。目覚めなかったお前たちは、ここで別の役割を探せ。それが嫌なら出てけ」と言い残し、部屋を出た。藤田は中村を見たが、彼は目を逸らし、ベッドに座り込んで黙った。16人と13人の間に深い溝が刻まれ、藤田は老人の「勇者全員が希望」との言葉を思い出した。


 あれは嘘なのか? 朔弥の不在とガルドの冷たい言葉が、セレニア王国の召喚の真相に疑問を投げかけた。訓練は続くが、藤田の胸には新たな不安が芽生えていた。


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