第3話 チュートリアル報酬
結城は倒れたケルベロスの巨大な体を見つめながら、息を整えた。あれほどの強敵を倒し、戦いの余韻に浸る暇もなく、彼は目の前に広がる扉に目を向けた。
扉は完全に開かれていた。戦闘の終息を感じさせる静けさの中、結城はその扉の向こうに何が待っているのか、すでに分かっているかのように歩み寄った。その背後でケルベロスの体が崩れ、灰のように消えていく様子を目にしながら、結城は扉を開ける。
扉を開けると、そこには目を見張る光景が広がっていた。部屋の中央に、光り輝く黄金の宝箱が鎮座している。周囲には魔法陣のような模様が浮かび上がり、その美しい輝きはまるで異世界から来たかのような神秘的な雰囲気を醸し出していた。
結城は思わず息を呑んだ。こんな場所で目にすることができるアイテムが何であるか、すぐに察しがつく。
「これが報酬か…!」
心臓が高鳴り、手のひらが汗ばむ。目の前の宝箱は、もはや運命を切り開く鍵そのものであるかのように感じられた。彼は急いで宝箱に近づき、慎重に蓋を開ける。
「…!」
中から光り輝くアイテムが現れ、結城はその瞬間、目を奪われた。光の中から現れたアイテムは、彼の想像を遥かに超えていた。
「ゲームアシストを獲得しました。」
「進化の書×2を獲得しました。」
結城はそのメッセージをじっと見つめ、瞬間的にその意味を理解する。「進化の書…か。これをどう使うかで、今後が変わってくるな。」
アイテムを手に取った結城は、進化の書をどう使うべきか一瞬迷ったが、すぐに思い直す。種族か職業を進化させるのも魅力的だったが、彼の頭の中にはもう一つの考えが浮かんでいた。
「スキルに使おう。」
進化の書をスキルに使用することを決めた結城は、すぐにアイテムを手に取り、使うことにした。目の前に浮かび上がる選択肢に、結城は思い切って手を伸ばす。
「強運をスキルに進化させる!」
一瞬の光の閃光の後、彼の目の前に新たなスキルが現れた。画面には、強運が進化したスキル名が表示される。
「
『豪運』
結城はその説明をすぐに確認した。
豪運
運が極限まで高くなるスキル。攻撃や防御、アイテムのドロップなど、あらゆる事象において、運の要素が最大限に作用する。
―このスキルを持つ者には、他のプレイヤーには理解できないような奇跡的な出来事が起こりやすくなる。
「極限まで運が高くなる…これが、俺の運命を大きく変えるかもしれない。」
次に結城は、暗殺者のスキルも進化させることに決めた。
「暗殺者のスキルも進化させよう。」
進化の書を使用した瞬間、再び光が弾け、結城の目の前に新しいスキルが現れる。
「
』
『死神』
死神
倒した敵の能力を刈り取ることができるスキル。運によって、相手の能力が取れるかどうかが決まる。さらに、倒した敵を蘇生させ、仲間にすることも可能となる。
―このスキルを持つ者は、戦いの中で得た力を自身のものにするだけでなく、仲間にすることができるため、仲間との連携が強化される。
結城はそのスキルの説明を読んで、目を見開いた。
「死神…倒した敵の能力を刈り取る? しかも、運によって能力が取れるかが変わる…さらに、倒した敵を蘇生して仲間にするだと…?」
結城はそのスキルを目の当たりにし、思わず声を上げる。
「結構強いかもしれない!このまま最強に慣れちゃったりして。まあ無理か」
結城は目の前に浮かび上がった「死神」のスキルを見つめ、心の中で一つ決心を固めた。これほど強力なスキルを手に入れた以上、早速その力を試してみたくなった。倒したケルベロスの魂を蘇生し、仲間にする――その力がどれほど強大なものか、実際に使ってみるのが楽しみで仕方がなかった。
「よし…やってみるか。」
結城はケルベロスの倒れた体に歩み寄り、その巨体に触れた瞬間、死神のスキルが反応した。目の前でケルベロスの体がわずかに震え、光が宿る。
「蘇生!」
結城はスキルを発動させると、ケルベロスの体が暗闇から光を放ち始めた。体の中に流れる力が再生し、倒れていたケルベロスの三つの頭が少しずつ動き出す。結城の目の前で、ケルベロスの魂が蘇り、その鋭い目が再び赤く輝きを放った。
「うおっ…!」
結城は一瞬その光景に圧倒され、思わず後退したが、すぐに冷静さを取り戻す。ケルベロスは意識を取り戻し、ゆっくりとその大きな体を起こし始める。
「おい、ケルベロス、こっちを見ろ。」
結城が言うと、ケルベロスの三つの目が一斉に結城を見つめる。最初は警戒心が強く、唸り声を上げて牙をむき出しにするが、結城はあくまで冷静に、そして優しく声をかけ続けた。
「お前はもう敵じゃない。俺が生き返らせたんだ。俺の仲間になってくれ。」
ケルベロスはしばらくその場で動かず、結城をじっと見つめていたが、やがてその牙を収め、唸り声を低くしながらも、少しずつ結城に近づいてきた。
「…大丈夫か?」
結城がもう一度声をかけると、ケルベロスは首を少しだけ傾けて答えるかのように、再び静かに唸った。その表情に、かつての激しい敵意は見受けられない。ただ、少しの戸惑いと、結城に対する新たな理解が感じられた。
「どうやら、こいつも納得したようだな。」
結城はほっと息をつき、ケルベロスが完全に自分の仲間として認識されたことを確信した。これで、ケルベロスが味方になれば、これからの戦闘もさらに有利に進めるだろう。
「名前は…『ケル』だな。」
結城はそのまま、ケルベロスに名前を付けることを決めた。元々ケルベロスという名前だが、彼との新たな絆を象徴するために、単純で呼びやすい名前にしようと考えた。
ケルベロスがその名前に反応して、また軽く唸る。まるで自分の名前を受け入れたかのように感じられた。
「これで、お前も俺の仲間だ。よろしくな、ケル。」
ケルは結城をじっと見つめ、しばらくの後、ゆっくりと大きな尾を振った。その反応を見て、結城は満足げに笑みを浮かべる。
「こいつ、意外と素直だな。まぁ、倒した時の強さはすごかったから、これからは頼りにできそうだ。」
結城はケルを仲間に迎え入れたことで、ますます自信を深めた。この先、どんな強敵が現れようとも、ケルとともに乗り越えられる気がしてきた。
「さぁ、次はどこに向かうか…。」
結城はケルとともに、次の冒険の一歩を踏み出す決意を固めた。強力な仲間ができた今、どんな試練が待ち受けていても、彼ならきっと乗り越えられるだろう。
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