第3話

 マジカルチェンジ……変身っていうのは単に魔法が使えるようになるだけじゃない。強い自分の具現化なんだよ。


 いつだったか、バスケットはそんなことを言っていた。


「強い自分?」

『そう。多少の美化はされるだろうけど、それも含めての具現化だね』

「可愛い衣装になるのも私なりの強さってこと?」

『強さっていうのは戦闘力だけの話じゃない。ケント君に好かれる容姿、というのも君にとっての強さなはずさ。いくらパワーがあっても見た目が怪物じゃあ彼には好かれないだろうからね』


 うーん、と私は腕組みしながら考える。


「そこまで意識したことなかった。強さって奥が深いね」

『願う強さは人それぞれさ。だから皆姿が違う。例えばプリティチェリーの衣装はヒラヒラのリボンが沢山ついてるし、ビューティーベリーは青がメインのクールなイメージを具現化してる。刺激を受ければ変化だってする』

「そういえばベリーちゃん、知らないコサージュが付いてたような」

『胸が大きくなる子も過去にいたね。君みたいに戦闘モードと通常モードを切り替える器用な子だっているから、いやはや、夢見る少女の心は素晴らしいよ』


 嫉妬が魔力源のクセしてやけに綺麗事だと当時はぼやいた。が、その認識は真逆だったのだと今になって思う。


 現実はいつだって苦しい。だから人は嫉妬し、綺麗な夢を見続ける。魔法少女は単にそれを具現化しているだけだ。


 変身は弱い心を写す鏡なのだと、私は思う。



「マジカルチェンジ、プリティチェリー! 戦闘モード!」


 午後十一時五十分。

 呪文を唱え、自室で魔法少女に変身した私は、幻覚魔法を張り巡らせ、人々の目を盗んで空へと飛び立った。


 かなりの速度で飛んでいるのに人体への影響はない。むしろこの瞬間が高揚する。


 風になびく赤いリボンと、ケン君の好きそうなピンクスカート。これまたピンクのゴスロリブーツに、さくらんぼを模したプリティな戦闘用ステッキ。ぱっちり丸目もゆるふわパーマも赤みがかっているし、頭のリボンも髪形と合っていて超プリティ。ケン君の大好きなおっぱいもボリュームアップ。


 例え一時の夢でも、自分は強いと感じられる。


 河川敷の上空にはすでにビューティーベリーがいた。見慣れた青い衣装。両手に着いた得物のクロー。彼女は私を見るなり露骨に舌打ちをしたが、悪態もほどほどに戦闘態勢を取った。


「そろそろ来るよ」

「うん」


 墨色の空を見上げて私たちは武器を構えた。時刻は午後十一時五十八分。私は杖に魔力を込め始める。

 体術で戦うベリーは、お腹に手を当てて深呼吸している。


 そうして迎えた午前零時。雲一つない空に直径二メートル程の『渦』が現れる。

 化け物としか表現できないキメラじみた容姿と、似つかわしくない純白の羽――。


「いくよチェリー!」

「お願いベリーちゃん!」


 『渦』から出現したテウダーに狙いを定めて、私たちは魔力を解放した。


「プリティ・エクスプロージョンッ!」


 私の高威力魔法で粗方の敵を消し飛ばし、細かい取りこぼしをベリーが切り裂く。これが私たちの戦闘スタイルだ。

 戦略などあってないようなものだが、大した思考能力もなく質より量で攻めてくる下級テウダー相手ならば、こちらの方が臨機応変に対応できる。


 最後の数体を総攻撃で畳み掛けると、


『今日もお疲れ様。本当に強くなったね』


 と、どこからともなくクマのぬいぐるみが現れたのだった。

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