欲しい

夏川まこと

第1話

 私、ミコト。24歳独身。普通のOLやってる。今日も元気に出社して仕事をするの。なんてことはない、仕事はぜんぶ頭に入ってるから。もう2年間もやってるから。同僚も上司もみんないい人。だから私はこの会社で働き続けるんだ。

「ミコトくん、肩凝ってない?」

 そう私に話しかけてきたのは係長のヨシダ。私は「別に凝ってません」と言うんだけどヨシダはそれじゃ引き下がらない。

「肩凝ってるでしょ。揉んであげるよ、ミコトくん」

 まじキモイ。なんなのこいつ。私の肩揉んでるんだけど、手つきがありえない。

「ミコトくんはおっぱい大きいから、肩凝るよね〜」

 だれか助けてくれる人を最初は探してたんだけど、だれも助けてくれないんだよね。同僚もヨシダの上司も。なにがおっぱい大きいだよ。セクハラやめろよヨシダ。

 常習的に会社でセクハラをされるようになって思うのは、男って下半身でモノを考えてるってところ。下半身に脳みそついているんだよね、こいつら。その下半身の脳みそで考えた結果が肩を揉むっていうアクションなわけ。本当はヨシダは私とセックスしたいんだけど、会社で押し倒すわけにもいかないからしぶしぶ肩を揉んでるってわけ。

 そりゃ私も最初は嫌がったんだよ。「やめてください」なんて可愛い声出してさ。そしたらヨシダのやつ逆に饒舌になっちゃって、たぶん興奮したんだろうけど、それでいやらしい手つきで肩揉んだりふくらはぎ揉んできたりやりたい放題。

 だれも助けてくれないってのは参っちゃうよね。

 そんなこんなで私はこの会社、辞めることにしたの。辞表を持っていったらヨシダのやつきょとんとしててさ、なんなのあの生き物。困るよね、仮にも人間なんだから人間らしい反応してもらわないと。ヨシダが人間じゃないなら別にいいんだけど、一応人間でしょ? あれ。

 はぁ、暇になっちゃったな。今日から無職だ。

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