23.5  気分はインフルエンサー!? 女の子としての甘すぎる一日

 朝、やわらかな陽の光で目が覚める。


 ふんわりとしたベッドの中、わたしの一日は、もうその瞬間から甘く始まる。


「ふぁ……よく寝たぁ……」


 起き上がると、まずは鏡の前へ。


 ピンクのサテンパジャマ、ゆるふわの髪。今日もかわいい。


 洗面台で入念にケア。


 洗顔フォームも、美容液も、全部わたしらしい優しいピンクのボトル。


「うん、今日のお肌もばっちり♪」


 朝食には映えるフルーツサラダとパンケーキ。SNSに写真をアップすると、一瞬で通知が溢れる。


『あまりんの朝ごはん可愛すぎて最高……♡』

『朝から天使!』


「ふふっ、みんな早起きだね?」


 幸せな気持ちで支度を済ませ、今日も街に出る。


 ――玄関の扉を開ける瞬間から、「わたし」は理想の女の子そのものだった。




 家を出て数分、街を歩けば視線が自然と集まる。甘い微笑みを浮かべているだけで、すれ違う人は振り返る。


「あ、あの子……もしかして、あまりんちゃん?」


 そんな囁きが耳に入れば、胸がときめく。


 ふと、美容室の前を通ると、スタッフが駆け寄ってきた。


「あの、すみません!もしよければ、うちのお店のモデルをお願いできませんか? もちろん、髪は整えるだけで大丈夫です!」


「あ……はい、いいですよ!」


 そのまま美容室に入り、プロの手で整えられた髪はさらに輝きを増す。


 鏡に映る自分が、完璧な理想の女の子にまた一歩近づいた気がした。


 美容室を出て、次にネイルサロンへ。


「あまりんさん、今日もケアだけですか?」


「はい、トップコートだけお願いします」


「相変わらずネイルベッド綺麗ですね! 理想の形かも……」


「わー、ありがとうございます!」


 褒められると、少し恥ずかしいけど嬉しくなってしまう。


 シンプルなケアだけで、指先は自然な透明感とツヤを纏う。


 たったそれだけのことなのに、スマホで何気なくツイートすると、一瞬で通知が鳴り止まなくなる。


『あまりんがトップコートだけって言うから、私も真似する!』

『トップコートのみ、流行る予感……』

『天使の爪だ……』


「あれ、写真もないのに、すごい反応……」


 自分が口にする一言が、瞬く間に流行を作ってしまうなんて。


 わたしは心地よい驚きに胸を躍らせながら、街を歩き続ける。




 ランチは、人気カフェのテラス席でスイーツと紅茶。


「今日はどれにしようかなぁ」


 悩む仕草すら、周囲の目には眩しく映る。


 さりげなく横から写真を撮る女の子たちがいることに気づいて、小さく手を振ってあげると、彼女たちは嬉しそうに頬を染める。


(わぁ、ほんとにわたし、アイドルみたい……♡)


「あ、あの、あまりんちゃん!握手だけ、いいですか?」


 遠慮がちに近づくファンの女の子に、やさしく微笑みながら手を差し出す。


「もちろん♡ いつも応援ありがとね?」


 それだけで、彼女は幸せそうに頷いて走り去っていく。その姿を見ているだけで、わたしも胸が甘く満たされる。


 午後は可愛い雑貨店や洋服屋さんを巡り、SNS用の写真も撮りつつ、自分へのご褒美をたっぷり買い込んだ。


「今日もいっぱい買っちゃった!」


 誰にも止められない、甘い幸福感に浸りながら――




 夕方、コンビニにふらりと立ち寄ったわたしは、ふと雑誌コーナーで足を止めた。


 (あ、あの雑誌……もしかして)


 ドキドキしながら雑誌を手に取り、パラパラとめくってみると――


 そこには、先日の握手会後に行われた写真撮影の特集ページが載っていた。


 大きな見出しに、『今話題沸騰の女子♡ あまりんちゃん』の文字。


「あ、載ってる……!」


 自然に頬が紅潮する。


 そこには笑顔いっぱいの自分の姿。


 カメラに向かって微笑む表情、可愛いポーズを決めた写真、ファンの子たちと楽しそうに触れ合う瞬間……。


 (わぁ……ほんとに、雑誌に載ってるんだ……)


 胸の奥から甘い幸福感が溶け出し、身体の隅々まで広がっていくようだった。


「買わなくちゃ……」


 レジに向かいながら、抑えきれない喜びで胸が高鳴る。


 店員さんが雑誌を見て、あまりんに気づくと驚きの表情を浮かべた。


「あ、あまりんちゃん本人……?」


 小さく微笑み返しながら、幸福感に包まれたまま店を出る。


(わたし、本当に……こんなにみんなに愛されてるんだ)


 空を見上げると、夕暮れが優しく街を包んでいた。


 その帰り道、わたしはずっと甘い微笑みを浮かべていた――。




 帰宅すると、お風呂で入念なケアタイム。


 髪をヘアゴムでまとめて、甘いフローラル系のバスソルトを溶かしたお湯に浸かる。


 (んー、癒やされるなぁ……)


 そして眠る前には、今日買ったばかりのパジャマをまとい、自撮りをSNSに投稿。


『今日も幸せいっぱいでした♡ おやすみなさい』


 あっという間に、数千のいいねがつく。


 どこまでも完璧に、甘く、幸せ。


 でも、ほんの一瞬――


 胸の奥にかすかに残った小さな違和感を、わたしは無意識に振り払った。


 (ううん、大丈夫。わたしは、いつものわたし)


 きっと明日も、こんな幸せな日が続いていく。


 そう信じて、幸せに満たされたまま目を閉じるのだった。

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