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 それから、少女は何度も蚯蚓ミミズのもとへやって来た。蚯蚓ミミズには人の言葉を理解する知性があったが、自分の意思を伝える手段を持たなかった。そのため、少女が自分の方へ近づく度動きを止めていた。自分の巨体が、彼女を押し潰してしまわないようにしていたのだった。


 少女が蚯蚓ミミズを観察するように、蚯蚓ミミズも少女を観察していた。


 ――噂通りあなたは、あの物質を分解する酵素をお持ちなのですね。過酷な環境に適応するために進化したのか……。


 恐らく、少女は学者か何かなのだろう。口に出す言葉は専門用語であり、その思考がどこかの学派によって体系立っているものだと、蚯蚓ミミズは理解していた。

 少女はよく独り言を言う。ひょっとしたら蚯蚓ミミズに聞かせているのかもしれない。蚯蚓ミミズには耳がなかったが、皮膚全体で音を拾うことが出来た。目まぐるしく議論を一人で重ねる少女の声を、ゴミを食べながら蚯蚓ミミズは聞き続けていた。

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