第6幕 「思い出の品」

「ねえねえこれ可愛くない?」

紗倉が店頭に飾ってあるキーホルダーを指差して言った。

「たしかに、小さくて可愛い。」

私はそれを見た。

「これ買っていかない?」

紗倉がそういうので、私は紗倉と同じものを買った。紗倉が言うには友達の証らしい。ペアルックというものだろう。紗倉は嬉しそうに笑っていた。

ーーー

「そういや、この四葉のキーホルダーってさ、高二の修学旅行の時に一緒に買ったやつだよね?」

ベッドのそばに座り込んでキーホルダーを見つめている紗倉が言う。

「そうだっけ?」

私は覚えていないフリをしながら、ベッドに仰向けになっていた。

「絶対そうだよ!覚えてるもん!」

紗倉が必死な顔で私に訴えかけてきた。

「紗倉がそう言うなら、そうなんだろうね」

「ねえ」

紗倉が唐突に切り出した。

「どうしたの?紗倉」

私がそう言うと場の空気が一瞬止まった。

「今日、紫乃と葵くんに会って分かったことがあるの。」

「なになに?」

私は少し興味を持って紗倉の話に耳を傾けた。

「あいつが繋いでくれた縁のようなものなんだなって思うとちょっと悔しくてさ…なんだか…嫉妬しちゃうなって…」

紗倉の口から予想だにしない言葉が出てきたため、私は少々ポカンとしていた。

「紗倉がそんなこと言うなんて珍しいね、明日槍でも降るかな」

と私は少しちゃちゃを入れた。

「そんなに珍しくないでしょ!もう…」

頬をぷくっとふくらませた紗倉は少し顔を逸らした。すると目の前のテーブルに置いてある紗倉のスマホが鳴った。

「あ、金木からだ。」

金木というのは私と紗倉のクラスメイトであり、そしてあの時に、私たちに着いてきた唯一の男子だ。フルネームは金木 橙也(かねき とうや)。

「ちょっとごめん…電話みたいだから出ても大丈夫?」

「うん。いいよ、その間私はお皿でも洗っとくからさ」

「おけ、ありがと」

そして私は立ち上がり台所へ向かった。紗倉は電話を取り、何やら楽しそうに話している。

「あ!紫乃~、こっち来て~」

私がスポンジを手に取りコップを洗おうとした瞬間、紗倉が呼んだ。

「なになに?今洗おうとしてたんだけど」

私は目の前のハンガーにかけてあるタオルで手を拭き、残った水滴を服で払って紗倉の元へ向かった。

「金木がさ、紫乃の顔も見たいってさ、どう?」

どうやら紗倉は、普通の電話ではなくテレビ電話をしているようだ。

「いいよ、私も久しぶりに金木の顔見てみたいし。」

私は紗倉の横に座った。すると声が聞こえてきた。

「よっ!相変わらずだなぁオマエ。」

それは金木の声のものだった。

「相変わらずって、アンタは何か…変わったわね?え?w髪の毛どうしたの?ハゲた?w」

私は少しおちょくった声で言った。

「ハゲてねぇよ!髪あげてんだ!こういうスタイルだっつの!それさっきも一ノ瀬に言われたわ!ホントお前ら似てるのな」

似てる…まぁそうなのかもしれない。紗倉とは中学の頃から一緒だが、家も近くで、よく行動も共にしていたため…似ているのだろうか。分からない。でもまぁ他人からそう見えるのであればそうなのだろうと、私は少し考えて会話に戻った。

「そういやさ、明日は『柳高』の五周忌だろ?オマエらも出席するよな?」

柳高というのは私たちの母校でもあり、本日行った跡地にあった学校である。柳沢(やなさわ)第一高等学校が正式名称である。

「うん行くよ、そのために紗倉は今日東京から帰ってきたんだから。」

「そうかそうか、分かった。俺が幹事だからさ、そういうの知っときたくてな。ありがとよ」

それから一通り会話をし、金木が寝ると言って通話は終了した。

「柳高の五周忌か…もちろん行くよね?紫乃」

「は?行くに決まってるでしょ?てかさっき金木にも行くって言ったじゃない!」

「あ…そかそかwアハハw」

「私、洗い残してる食器あるから洗ってくるね。紗倉は早く寝なよ?今は元気って言ったって、いつ悪化するか分かんないんだから」

私がそう言うと紗倉は少し俯いたが、すぐに顔をあげてニパっと笑った。

「大丈夫だよ!安心して!先生もきっと大丈夫って言ってたんだから~、私の事信じて!」

私は不安に思いながらも立ち上がり、台所へ向かった。

流しの水は、いつもよりも少しだけ冷たく感じた。

キッチンカウンターに置いてあるクローバーのキーホルダーが光の反射だろうが、少しだけ茶色く見えた。

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