VRMMO少女、異世界育ち、現代ダンジョン攻略中 ~異世界パテルへ帰る旅~

るな

第1話 私は帰ってきたが、帰りたい

 西洋風異世界ファンタジー系VRMMO、『ディースパテル』、通称パテルの世界にとらわれてはや数年。


 私は、こっちの世界でのスローライフを満喫していた!


 高校生の時に登場したVRMMOゲームを始めたはいいものの、よくある創作物の登場人物のように、気づけばログアウトボタンがなく、異世界に取り残されてしまった。


 戸惑いはあったけど、VRMMOの世界で暮らすこと数日で、閉じ込められて良かったって気持ちでいっぱいだった!


 煩わしい学校の勉強も、バイトも、お金の心配もなくて、好きなゲームでスキルを伸ばして、それで生きていけるんだから!


 他に私と同じような境遇のプレイヤーを探してもいなかったけど、それも好都合。


 人間関係も、心配しなくて良かったし。

 NPCたちは人間じみていたけど、頼り頼られ、いい関係を築けていたし。


 しかも元からゲーム廃人体質、攻略に関しても無問題だったから、魔物に襲われて命の危機になるのも数回しかなくて、今じゃレベルも文句なしに高くなった。


 現状のステータスは、こんな感じ。


————————

ネーム:カノ

ジョブ:冒険者

ランク:6

レベル:69

身体力:36

魔法力:230

精神力:198

スキル:235

 

【転移】(235)

————————


 ステータス項目の説明は、また今度ってことで。

 

 こっちの異世界にきたばっかのときはレベリングも熱心にやってたけど、最近は全然上がらなくなっちゃって、停滞気味。


 現実の私がどうなってるのかは知らない。

 VRMMOの機器を頭にくっつけたまま病院のベッドで寝ているのか、はたまた体ごと異世界に転移してきたのか。


 まあ、強くて困らないし、適当に魔物を狩ってお金を稼いで、適当にご飯を食べていわゆるスローライフができているんだから、十分満足!


 おうちにはふかふかベッドだって、あったか暖炉だって完備で、稼いだお金で買った豪邸まであるんだから!


 異世界ライフ、最高!


 だったのに。


 問題が生じたのは、あんまりやることもないから、散歩がてらダンジョンの中を歩いていたときのこと。


 スキルのおかげで、一度行った場所にはすぐ移動できるから、ダンジョンでトラップに引っかかってもすぐに家に帰れるし、命の心配はないし。


 いつものように適当に魔物をかりながら、ダンジョンの最下層に何があるかを見に行っていた。


 ただの好奇心だ。

 私の構えているホームのすぐそばにあったけど、村のみんなも立ち入らないし、NPCたちも一切情報を持ってなかったから、放置していた。


 最近は時間も持て余してきたし、せっかくだから何があるのか確かめに行こうってことで。


 特に止まることもなく、罠にかかっても転移でちょっと戻ってやり直したり、モンスターを火山に転移させたりして進み、あっけないほど簡単に最下層までついちゃった。


 で、そこにあったものは。


 謎の転移門。

 作られてから長いことたっているせいか、マナ不足で起動していなかった。

 私のスキルも転移だから、こういうのは得意分野だ。


 いったいどこに飛ばされるんだろう?

 わくわくが止まらないね!

 最近ずっと落ち着いた地味な出来事しかなかったし、久々に脳が活性化する気分!


 表面が欠けた石の柱に手を置いて、


「【転移】、門よ開け!」


 と言うと、開けゴマと同じ効果が発動。

 まばゆい光がダンジョン内部と私の体を包み込み、視界はまぶしいことこの上ない。

 

 我慢できなくて目をつぶっちゃった。

 本当は、転移後に何があるかわからないから、警戒のために目は開けておくべきなんだけどね。


 そういうスキルも取った方が良かったかな?

 転移に全てを捧げちゃったけど。


 で、目を開いたら。


 ま~たダンジョンの中だった!


 でも、私がさっきまで探索していた、寂れた石壁に包まれた空間じゃないね。

 なんだか、新築みたいな、とにかく新しい感じがする。

 後ろの、私が通ってきた転移門を見れば、さっきまでの光はぜんぜんなくて、私はただの置物ですよ~って顔をしてた。


 一回きりしか使えない転移門はちょくちょくあるし、想定内。

 私には、スキルで転移があるから。

 お前ごときに頼らなくても、大丈夫なのさ!


 使えない転移門を煽るだけ煽って、気が済んだから、次にどうするか考えよう。


 一回帰るか、このまま探索を続けるか……。

 どっちでもいいけど、ご飯の準備もあるから、早めに帰らないとだなぁ。


 なんて、暢気に考えていたら――悲鳴が聞こえてきた。

 ダンジョンの石壁に、高い声はよく反響する。


 ダンジョン慣れしているなら、そんな声は魔物を引きつけるだけで百害あって一利無し、強いて言うなら魔物をおびき寄せるときに使うくらいのもの。


 いったいどんなヤツがそんなことを?

 大量の魔物の足音も聞こえてくるし、追われている?


 ていうか、近づいてきてる?


 ……ひとまず、様子を見に行こう。

 もし、本当に誰か襲われているなら、いくらNPCでも見過ごせない。

 助けてあげないと。


 実際、


「誰か! 助けてくださ~い! 誰もいないんですけどね~! もうじき死んじゃいますけど~! 死んだ方がいいですかね~?」


 と、大声一人ツッコミしているし、これを見捨てるのはなんか、可哀想が過ぎる。


 幸い声のおかげで魔物からだけじゃなく、私からも居場所がわかるから、声の方へと歩いていく。


 すると——見えた!

 うっわ、大量の魔物に追いかけ回され、全力疾走の逃げをかましている、一人の少女の姿が。


 そうはならんやろ、と突っ込みたくて仕方がないけど、そうなっているので仕方がない。


 この調子だと、いつ体力が切れて後ろからガブリとかみつかれてもおかしくない。


 さっさと助けてあげよっと。


 幸い、私のレベルからすれば、あの魔物たちは造作もない。

 ちゃんとは近づかないと見えないけど、ぱっと見でレベル10かそこら程度。

 倒す価値もないくらいだ。


 私も一緒に走って逃げる隊列に加わり、その先頭にいる少女に近づいた。


 少女の身長は小さいくて、髪は短め。

 私より一つか二つ年下かな。

 顔はけっこうかわいい系で、こんなところを走り回ってる姿は似つかわしくない感じがする。

 服は普通のカジュアルな私服だけど、魔物に襲われたせいか、それとも元々なのか、ところどころほつれたり、穴が空いたりしている。


 ま、年齢も近いし、ここは、フレンドリーにいこう。


「大丈夫そ?」

「どこに大丈夫な要素があるんですか!? めぇ見えてます!? え、誰!?」

「けっこう辛辣なタイプなんだね……助けてあげてもいいんだけど、どうする?」

「走りながら土下座すればいいですか! お願いします‼」

「助けてあげるから。そんなできない例えはいらないよ」

「できます!」

「できるの!?」


 ちょっと見てみたい!

 けど、遊んでて命を落としては見るものも見れない。

 いつか見れたら見せてもらおう。


「こんなところで何してるの? あんまり強そうには見えないけど」

「しゃ、借金の取り立ての人たちがいよいよで……生命保険をかけて、私をダンジョンに放り込んだんです! 今は死にたくないって本能だけで走ってます!」


 えぇ……壮絶……。

 こんなVRMMOの、ファンタジーの世界にも、そんな借金取りいたんだ……。

 まあ、事情なんて後でゆっくり聞けばいいか。


「じゃ、手をつかんで」

「え、どうするんですか?」

「あ、そういえば、私はカノ。あなたのお名前は?」

「あ、ナノハっていいます」

「おっけー。それじゃあナノハ。見なよ……私のスキルを……」


 自信満々に、私はもう幾度となく使ったセリフを口にした。


「【転移】、私の家!」


 ◇


 ふっと、視界が一瞬にして切り替わる。


 私の家に、帰ってきたのだ。

 そこは西洋風の木の家具が並んでいて、暖炉があって、特殊な魔法具を使って組み立てたお手製の冷蔵庫の中には取り置きのおいしいお肉が——。


 違う。

 なんか違う。


 思わず、意味もなく上を見てしまった。

 見上げた天井は――見慣れた天井、いや、見慣れていた天井。


 ここはあの、異世界の、豪邸じゃない。

 かつての、VRMMOの世界に閉じ込められる前の家だ。


「え……」


 絶句。

 二の句が継げないとは、まさにこのこと。


 なんでここに?

 今まで、同じセリフで転移を繰り返してきたけど、こんなことは一度もなかった。


 ちゃんと、豪邸のほうに帰れていたはずだ。


「助けていただいて、本当にありがとうございます! 今からダッシュ土下座、披露しますね!」


 さっきまでは見たかったけど、今はそれどころじゃない!


「なんで現実の方にいるの!?」

「げ、現実って……どうかしたんですか?」


 どうしたもこうもない!

 今まで夢でも見てたって言うの?

 じゃあ、さっきまでこの子といたダンジョンは?


 私がパテルの世界で暮らしていた間に、何があったの?


「ナノハ、一からあなたがダンジョンにいた理由を説明してくれる?」

「え、えっと……借金返済のために……」

「もっと前から」

「母が私を身ごもって、」

「戻りすぎ。もうちょい先の話をお願い」

「数年前に、現代ダンジョンがいくつも誕生してから、」

「待って……現代ダンジョン!? 私がいた頃に、そんなのなかったって!」「あうぅ、大ニュースだったんですよぉ~? それも知らないなんて、どこにいたんですかぁ~」


 ナノハの肩を揺すると、ゆらゆらな声でどこにいたかと聞いてくる。


 どこにいたか。

 一体、私はどこにいた?


 歴史をたどって考えよう。


 VRMMOを始める。

 VRMMOに閉じ込められる(実際は異世界に転生していた)。

 数年スローライフする。

 ダンジョンに入り、転移門に触れる。

 ダンジョンから、現実世界に戻る(←イマココ!)。


 と、いうことは……まさか、現実世界とVRMMOの異世界が、ダンジョンを介して繋がってるってこと!?


 か……帰りたい!

 元の世界に!

 いや本来の元の世界はコンビニがあってスーパーがある現実のほうなんだけど、そっちじゃなくて!


 悠々自適で、何の心配もなく強くあれたあの異世界に、帰りたい!


 ようやく現実世界に帰って来れた、なんて喜びは全くない。

 現実世界には親もいなければ資産もないし、友達もいなければ魔法みたいなわくわくする要素もない。

 こんな世界でまた生活するなんて、絶対に嫌だ!


 いやでも、私が現実に来るにあたって使った転移門は、もう機能を失っていた。


 なら——


「【転移】、パテル!」


 大きく声に出す。


 変化無し。

 風景も変わらず、ただ私の寂れた一人暮らしマンションの一室に、厨二病じみた声が響くだけ。

 あと、隣人からの壁ドンの音。


 スキル自体は使えている。

 その感覚はある。

 ただ、転移ができない。

 そもそも、この世界の座標に存在していないし、いくら私のスキルをもってしても、世界をまたぐほどの力はないんだ。


 なら、VRMMOの機器は?

 もう一度、アレを使えば……あった!

 ベッド脇に転がってた!


 コイツを起動して——サービス終了!?

 人を異世界に放り込んでおいて、勝手に終了するな!


 あとは……ダメだ、思いつかない。

 どうしろと?


 まさか、また……。

 私は、またこんなくだらない現実で生きなきゃ行けないの?


 膝から、ベッドに崩れ落ちた。

 こっちの布団は硬くて、やってられない。


「あの……もしかしてなんですけど……カノさんって、向こう側から来たんですか?」


 無気力に布団に横たわる私に、ナノハはそう聞いてくる。


「察しがいいね……そうだよ。で、今帰れなくなってる……」

「……現代ダンジョンは、私たちの世界にもいくつか生まれていて……どのダンジョンにも、異界から来たボスがいるんです」

「そうなんだ……」


 じゃあ、私はボス扱いかな?

 あいにく、帰れないなら戦う気分も起きないけどね。


「で、ダンジョンの攻略報酬があって……最下層にある、ダンジョン内のモンスターがやってくた転移門を壊すと、経験値が大量に入るんです」

「ふ~ん……」

「普通は、転移門を通ってわざわざモンスターだらけの世界に行こうなんて思わないので、みんな経験値にして次のダンジョンへと行くんですけど……」

「ほう……」


 いまいち、話の流れがわからない。

 しかし、いつのまにかオチに達していたようで、ナノハは横になっている私の上に、のしかかるようにして顔を近づける。


 そして、責め立てるようにこう言った。


「私は、お金のためにダンジョン攻略を目指しているので、経験値自体には興味ないんです。ただ、ダンジョンを踏破したって肩書きで、お金が稼げれば。だから、私のダンジョン攻略を手伝ってくれませんか! 転移門は、カノさんにお譲りするので!」

「——!」


 そうか!

 あの転移門には、確かに世界をまたぐだけの力があった。


 私が現実に戻ってきたときのものは、私が使ってしまったから効力を失ってしまったけど、新しいものを使って、逆にもう一度向こうに行くことだってできるだろう。


 ならば——新たなダンジョン、その最下層にたどりついてさえしまえばいい。


「乗ったよ。やろう。やってやろう!」


 ナノハの手をつかみ、握手するようにして合意を示した。


 こうなったら——思いっきりダンジョン攻略してやる!

 無双するためじゃない。

 元の世界(パテル)の楽園マイホームへと帰るために!



 ——————


 後書きです!

 こそこそ小説書いてたんですが、最近評価に飢えてきました!

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