ファンタジー冒険部! ~現代に異世界へのワープができたので遊びに行きたいです~
滝川 海老郎
1. 入部
4月の中旬。
俺は高校の職員室で、場違いみたいラフな格好の女性顧問に頭を下げた。
彼女の格好は、一言でいうなら「異世界の魔法少女風」だった。
「ファンタジー冒険部に入部させてください」
「1年3組、
「はい、よろしくお願いします」
「うちは厳しいよ? それに危険だ」
「もちろんです。覚悟しています」
ファンタジー冒険部に入部したい。入部届を渡す。
異世界ファンタジー探検冒険部。
通称「ファンタジー冒険部」。
俺は友達いなくてコミュ障ぎみだったが、並々ならぬファンタジーへのあこがれがあった。
ゲームや小説だけではもう我慢できない。
だから何よりも優先して、どうしてもファンタジー冒険部に入りたかった。
今から20年前。
世界各国に異世界からのワープ出口が突如出現した。
その数およそ100。
ここ長梨市もそんなワープの出口のひとつだ。
日本の真ん中らへん。山に囲まれた盆地の長梨市は地方中核都市だけど、人口は50万人。
日本には4つのワープ出口がある。
現在では日本有数のマジもんの「薬草、フェルクラ草」の産地であり、ポーション生産の一大拠点だ。
生命ポーションは医療界に革命を与え、その利用は急速に普及している。
20年前の当初、戦争もかくやの一触即発の非常事態になったワープ地だった。
現在、こちら側は軍隊が固めて、向こう側も各国の政府支配下に収まっているので、治安はほぼ安定している。
異世界との交流は順調に進んでいるものの、ワープできるのは人間とその衣服のみ。
理由は定かではないが、武器や金属、あと火薬類などを持ち込む事は出来ない。
日本の出口はすべて安全性が確立していることになっていて「許可」が出れば向こう側へ行くことも可能だ。
ただし、コネがないと向こうへ行くことは大変難しい。
そのコネのひとつが、ここ長梨市立北長梨総合学科高校のファンタジー冒険部だった。
この学校には、ワープ地の元地主の三女である先生がいるのだ。
彼女はこのワープ地の第一発見者であり、その研究の元第一人者といってもいい。
現在は子育て中の身であり、後進を育てるという理由もあって第一線を退いて、部活の名誉顧問をしている。
「さて東門君、ひとつだけ向こうへ持ち込めるとしたら、何を持っていく?」
「サバイバルなら、ナイフでしょうか」
「悪くはない答えだね。でも実はね」
「はい」
「答えは金貨だよ」
「はい?」
「だから金貨なるべく大きいのね。金は万物に勝る。お金は大事だよ」
「はあ」
「まあ、金貨も金属だから持ち込めないんだけどね。あはは」
「ですよね」
先生は当時15歳ぐらいだったはず。今は実年齢35歳ぐらいか。
まだまだというか、十代にしか見えない。
ポーションを常用している変態で、実際見た目が若いらしい。
すでに魔女の域にいるという噂がある。
「金属ファスナー、フック類のない服を持って、明後日金曜日の放課後、部室においで」
「わかりました」
「では、幸運を祈っているよ」
「はい、失礼します」
職員室を退出する。
美人で少し茶目っ気があり、俺と馬は合いそうだけど、彼女にはしたくない。
研究者気質で変態的であり、深入りするのが怖い。
そんなタイプだ。
準備期間の2日間なんて、あっという間に過ぎた。
「「「さようなら」」」
帰りのホームルームの挨拶を済ませると、早歩きで部室棟に向かう。
俺が所属しているのは「総合情報科」とかいうところで、やや情報系の授業がある。
そして近年、魔法情報学という分野がある。
魔法を情報科学に応用しようという最先端なのだけど、実は苦戦していてあまり成果が上がっていないので、授業にも取り入れられていない。
ネットではたまに情報が載っているけど、謎ばかりだった。
それの研究がしたい。
部室棟につくと、呼吸を整える。
――ファンタジー冒険部。
表札を確認して時間を確認。約束の5分前だ。
めちゃくちゃ緊張する。ドアを開けた。
肌色の腕、生足、脇、お腹、おへそ。
ピンクのブラとパンツ。
白いブラとパンツ。
水色のブラとパンツ。
「キャアアアアア」
「変態!」
「ちょっと、ドア閉めてよっ」
「失礼しました」
ドアを急いで閉める。
緊張のあまり、ノックするのを忘れていた。
まさか中で着替えているとは思わなかったので。
廊下に立ったまま待つ。
めちゃくちゃドキドキする。鼓動が聞こえる。
先輩たちだろうか。3人、全員美少女だった。
あれ、見る部活間違えたかな。
表札を確認するも確かに「ファンタジー冒険部」とある。
そういえば女子の制服、ファスナーやスカートのフックは金属なような気がする。
学校のセーラー服で異世界に行く人なんていない。
俺はドアの前で立ったまま、反対側を向いて、気持ちを静める。
この緊張感は、着替えを見たからか、それとも異世界に行くからか。
もっと戦闘大好きな男たちの巣だと思っていたのに、全然イメージと違う。
女の子が3人。それも美少女。いったいどんな部なんだ。
10分程度経過しただろうか。
ガラガラ。ドアが開いた。
「あの、ど、どうぞ」
金髪の先輩が中から顔を赤くしつつ、俺を部室に入れてくれた。
「この子がラッキーボーイの新人君ですか?」
「え、あ、はい。東門竜矢です。よろしくお願いします」
俺は頭を下げる。
「それから、先ほどは、大変失礼しました」
さらに深く頭を下げる。
「その、頭を上げてください。わざとじゃないみたいですし。鍵を忘れてたのは、私たちの落ち度ですから」
そう言って金髪色白翠眼の信じられないほどの美少女で「尖り耳」の子が笑いかけてくれる。
そうなのだ尖り耳だ。
「え、エルフだよね」
「そうよ。彼女がエルフのエターニア。もちろん知ってるよね?」
「ええ、まあ」
彼女は学内では有名だ。
金髪エルフのエターニア、それから、天然青髪人族のミリア、茶トラ猫耳族のサラと言えば、この学校で知らない人はいない。
向こう側世界の住人で、こちらに住んでいる派遣員のお子さんたちだった。
在日異世界人とでもいうものになる。
ここにいるのはエターニアと、あと2人も美少女だけど日本人のようだ。
特に「あの」エターニアは美少女っぷりが半端でなく、その名前は中学時代から知られているほどだった。
テレビに出ることは決してないが、ちょくちょく噂が生徒たちの間を流れていた。
「私たち、下着姿を見られてしまったわ、お父様になんて報告したら」
すでに向こう用の服に着替えたエターニアが腕を組んで、悲しそうな顔をした。
それにしても、胸がほぼぺたんこだった。
エルフ族はみんなAカップぐらいしかない。
そのエターニアの生着替えを見てしまった。
お父様って、異世界代表団所属ストラ王国の駐日本大使、ラシンバル王子でしょ。
テレビで何度も見たことがある。
「こりゃあ、責任とってもらわないと、いけないかもねぇ」
日本人の黒髪ロングの子がニヤついた顔で迫ってくる。
「わざわざここで隠れて着替えてるのは、男に絶対見られないようにっていう配慮なのに」
黒髪ロングが俺の目を見て、追加で煽ってくる。
なんとなくヤバい気配を感じて、今更、変な汗が出てくる。
「お父様、私はこの方の子供を産むことになるんですね」
はああああ、なんでそうなるんだあああ。
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6話だけの書きかけがあったので、とりあえず、公開しておきます。
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