竜星の流れ人

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一章 侍になれなかった女

第1話 侍になれなかった女.1

 煌々と燃え上がる焔が、ついに城の背骨ともいえる大きな柱にまで到達し、その全身を舐めるように這った。


 すでに敵軍は大軍をもってこの城を包囲しており、炎が全てを包み込むそのときをじっと待っている。


 四方から聞こえてくる木が弾ける音の中心に、二人の人間が立ち尽くしていた。そして、そのうちの片方が今、崩れ落ちるようにして煤のついた畳の上に両膝を下ろした。


(終わったのだ…何もかもが)


 膝をついた女が俯いた拍子に、夜緑色の紐で高く結った後ろ髪が左右に揺れた。女が腰に佩いていた二本の刀が音を立てる。


「泣くではない、燐子」


 陣太鼓のように低く堂々とした声が、燐子と呼ばれた女の頭上から響いてくる。


 彼女にとっては聞き慣れた声だった。一喝されたわけでもないのに、それだけで全身に力が戻り、先ほどまでの弱気が酷く恥ずかしくなる。


「申し訳ございません、父上」


 両足に力を込めて立ち上がり、これ以上、恥の上塗りにならないようにと、乱暴な手つきで目元を擦り、涙を拭う。それから顔を上げ、姿勢を正して男へ向き直る。


 眉の辺りで切り揃えられた前髪の下から覗く、二つの黒曜石が炎を反射して輝く。


「私はまだ、戦えます」


 本来の毅然とした表情を取り戻した燐子の顔を見て、甲冑を着た男は満足気に何度も繰り返し頷いた。それから、ごつごつとした指先を自らの顔へと伸ばし、鎧と同じように敵兵の血で染まった頬当てを取り外した。


 年季の入った皺が刻み込まれた顔は、やはり歴戦の勇士としての威厳を放っていて、それだけで燐子は誇りに満ちた気持ちになれた。


(私の身にも、この真の侍の血が流れているのだ)


「燐子よ」そう言って、男は自らの娘の肩に手を置いた。炎の熱気を吸収した籠手から、じんわりと熱が伝わってくる。


 燐子は、敬愛すべき父の次の言葉をただ粛々と待った。それがどのような言葉でも彼女は従うつもりだった。


 死ぬまで戦うことになろうとも。


 誇りを胸に腹を切ろうとも。


 主君のために生き、誇りと誉のために命を燃やす。


 それが侍であり、その娘としての最期の在り方だ。


 そう信じて生きてきた彼女だからこそ、直後、自らの父が言い放った言葉が現実のものだとは思えなかった。


「逃げ落ちよ」


 燐子の父は苦々しい面持ちでそう告げた。


「な、何を言うのですか」


「屈辱は何度も口にはせぬ」


「なぜです!?」


 一歩踏み出して、侍とは程遠い真似を自分に命じた父へ非難の眼差しを向ける。


 それでも彼は、すでに決めたことだと言わんばかりに決然とした表情を崩さないままだった。それがいっそう燐子の感情をかき乱してしまう。


「まだ体は動きます、刀だって折れてはおりません!主君を残し、自分だけが逃げるなど、侍のやることでしょうか!?」


 父は、瞳をゆっくりとつむり、数秒ほど経ってからまたゆっくり開くと、おもむろに燐子の頭へと手をやった。


 ここへ来て頭でも撫でるつもりなのかと不審に思ったが、間もなく自分の頭髪を縛っていた感覚がなくなって、うなじに髪の毛が触れたのを感じた。後頭部で結っていた髪紐が解かれたのだ。


 父の行動の意味を考えるよりも先に、目の前で真一文字に結ばれていた唇が重々しく動き、言葉を紡ぐ。


「お前が、侍ではないからだ」


「…侍では、ないから?」


 頭を重量のある鈍器で殴られたかのような錯覚を覚えて、燐子は思わずふらついてしまった。そして、彼女が頭を整理する暇もなく、男は辛辣に言葉を続ける。


「我が家系では、女は侍にはなれない」


 自分をずっと苦しめていた呪いの言葉を改めて耳にして、燐子はぐっと奥歯を噛み締めた。だが、すぐさま瞳に力を宿すと、「承知しております」と早口で答えた。そして、そのうえで思いの丈をぶつける。


「『生き方』の問題です、父上。自分の心の導くままに、己の正道を成そうと生きられるかどうか…それが誇りを持つということだと私は思います」


 ふ、と燐子の父は笑った。その笑みに込められた意図が汲み取れなかったことが、燐子は悔しかった。


「お前はどこまでも、血を絶やさぬために生きる女としては未熟だな」


「そのようなこと、百も承知です」燐子が、そっと刀に触れた。「私は、これさえあれば十分な人生でした」


「…そうか」


 燐子の父は重々しく呟くと、ややあって、畳の上に落ちた夜緑色の髪紐を拾い上げて燐子へと体を向けた。


「ふ、私の娘は女としては未熟かもしれぬが…剣士としては申し分ない人間に育ったものだな」


 燐子は手渡された髪紐を厳かに受け取り、再び後ろ髪を結い上げた。


 揺れる黒壇の長髪が炎を吸い込みきらきらと光る。


 気づけば、自分たちのすぐそばまで火炎の舌が迫っていた。


 もう一刻の猶予も無い。


「燐子」


「はい」


「介錯人を頼まれてくれないか」


「…身に余る光栄でございます」


 彼は慣れた手付きで甲冑を脱いでいくと、最後に上半身裸になって小太刀を手にした。


 鍛え抜かれた肉体があのような刃で貫き通せるとはにわかには信じがたいものの、あの小太刀は業物である。容易に人間の肉体程度は貫通し、切り裂くだろう。


 父が両膝をついて小太刀を逆手に構えた。それを確認した燐子は流れるような所作で腰にぶら下げた刀を抜いた。


 抜刀に従い、黒髪が舞う。白刃が鞘を滑る感覚がより緊張感を加速させる。


「お前を男として産んでやれなかったことだけが、我が人生における唯一の後悔だと考えていたが、どうやら杞憂だったようだ」


「私は父ほど偉大な人間を知りません」


「うむ、私も燐子を誇りに思っている」かすかに憐憫を込めて呟く。「だが、お前にもまだ、やりたいことが沢山あっただろうとは思うぞ」


「今のままでも十分、私は幸せ者です。ここが死に場所となっても、構わないほどに」


 その言葉に男は、「そうか」と二度呟き、何か物言いたげに燐子のほうを真っすぐと見た。


「燐子、お前は…」そこで言葉を区切り、首を振って何でもないと言葉を濁す。


 いよいよその時だと確信したのか、両者とも、それ以上は言葉を発さずに両手に力を込めていた。


 刀を自分の頭上よりも高い位置に両手で構えて、その刹那から目を逸らさないように全神経を張り巡らせる。


 音という音が、この世界から霧散していく。


 弾ける木の音も、燃え盛る紅蓮の熱も、何もかもが今は等しく静まり返っていた。


 燐子の手に握られた刀の刀身に、朱色の光が明滅し、揺らめいている。


 先ほどまでは敵兵の命を屠るために騒々しく風切り音を響かせていた刃が、今は先祖の御霊前に立っているかのように厳粛さを保っていた。


 その瞬間が、来る。


 それから先は、一瞬のことだった。


 燐子の父が小太刀を腹に突き立て、刃を引き回した刹那、稲光が走ったかのように燐子の持つ刀が弧を描く。


 舞い上がる鮮血が、どちらの傷から噴き上がっているかも分からないぐらいに、全く無駄のない動きであった。


 皮一枚だけ残した首が抱かれるように胸に滑り、男の体が前のめりに倒れる。


 鮮やかな太刀筋を描いた刃を手元に戻し、懐紙を使って血を拭き取ると、燐子はその場に両膝をついて長息を吐いた。


(見事な終いでございました)


 心の中でそう呟きながら、抜き放った太刀を静かに鞘の中に納める。


 名誉ある行いだとは分かっていても、どうしても捨てきれなかった家族としての情が、燐子の瞳を潤ませ、唇を震えさせた。


 侍としては、恥ずべきことだ。誇りに思うべきなのだ。


 そう、泣いてはならない。正しいことをしたのだ。


 正しいことを…。


 突然、前方の天上がけたたましい音を立てて崩れ落ちてきた。


 巻き上がる粉塵や煙が広間全体を覆ったので、反射的に口元を抑えたものの煙が気道に侵入することを防ぐことは叶わず、激しくむせ返った。


(まずい、一刻も早く追腹をせねば。煙で死ぬなど冗談ではないぞ)


 燐子は素早い手付きで鎧を脱いで、先ほど父がしたのと同じように小太刀を構えた。


 両手に力を込めて、もう一度だけ息を長く吐き、目をつむる。


 死ぬのは怖くない、むしろ、追腹で死ねるのは本望だった。


 ただ――父が言った最期の言葉が、頭の真ん中で繰り返し響いて離れなかった。


『お前にもまだやりたいことが沢山あったと思うぞ』


 まだ、やりたいこと?


 馬鹿な、そんなものありはしない。十分に好きなことをして生きてきた。


 戦場を駆け、敬愛すべき父の背中を追い、武芸を磨くことに全てを捧げてきた。


 …たとえ、侍にはなれなくとも。


 胸の奥が、焦げ付くように疼いた。


 時代さえ違えば、私は違う生き方を選んだのだろうか?身分や性別に縛られず、侍を名乗れる人生を送ったと?


 いや、あるいは、生まれた世界が違えば――。


 瞬間、自分の中から音が消えた。


 その感覚は、極限まで集中したときとは違って、まるで、何もかもが遮断されたかのようだった。


 木が折れる音でようやく我に返って目を開けた時、燐子の黒曜石のような瞳には信じられない光景が広がっていた。





 周囲には、青々とした木々が生い茂り、緊張に強張った体をさっと撫でるような木々と夜の香りが漂っていた。


 それらを見た燐子は、初めは幻なのだと思った。


 しかしどうだ、煙の臭いも、熱も、弾ける木の音も全く聞こえない。数秒もすれば肌を焼いただろう炎を感じずに、幻を見ることなどありえないことだ。


 焼け落ちる城も、城を取り囲む兵士の姿も、嘘みたいに消えてしまった。


 幻以外に説明のしようがない。だが、こんなにも鮮明な幻があるとは思えないのもまた事実だ。


 不意に、目の奥に鈍い痛みが走った。続けて手の甲が焼け付くような痛みに襲われる。


 思わず倒れ込んでしまいそうになる痛みに、燐子は小さく吐息を漏らしたが、少し目をつむっていたら、その痛みは嘘だったかのように収まった。


 視線を落とせば、手の甲に火傷の痕がくっきりと残っていた。ここが幻などではないと教えてくれているようだ。


 次に燐子が考えたのは、ここはすでにあの世なのではないかということだ。


 口惜しくも追腹をする前に煙で意識が途絶えて、三途の川を渡ってしまったのではないだろうか。


 だが、だとすれば、信念を全うされた父にあまりにも面目が立たない。


 燐子はついさっきまでは誇りと誉の絶頂の中にいたのに、突然、崖から突き落とされるようにして失意のどん底に沈んでいた。


(何という失態だ…。このような死に方をするとは…)


 木々から飛び去る騒々しい鳥の鳴き声が、やるせなさに俯いていた燐子の鼓膜を打ったことで、整えられた眉の間に深い峡谷を作った。


(だが…意識が残っていて、小太刀が手元にある以上…やることに変わりはない)


 燐子は丹田の辺りに意識を集中させて、それから構えたままの小太刀の刃先を体に対して真っすぐ向け直した。


 一度しくじった割腹をやり直すというのはどうにも格好がつかないが、そうしておめおめと使命を果たせないままでいるほうがよほどの恥辱である。


 木々の香りが鼻腔を満たし、燐子の鼻先にため息のような落ち葉が触れた。


 そうして、いよいよといった瞬間、燐子の頭にこの後、自分の体はどうなるのだろうかという不安がよぎった。


 醜く腐り落ちて、土に還るのか。


 それとも、獣の餌にでもなるのか。


 背筋を指先でなぞり上げられたような悪寒が駆け抜け喉が鳴り、力が抜けてしまう。


 そのときだった。


「うわあぁぁー!」


 突如、甲高い悲鳴が木々の間隙から見える瑠璃色の夜空に反射して、燐子の頭上へと降り注いだ。


 戦のために研ぎ澄まされてきた鋭敏な感覚が、すぐさま彼女の両足を真っすぐに屹立させる。


 ぴんと背筋を伸ばしたその姿は、この溝の底のようにジメジメとした暗い森にはあまりにも不釣り合いで、美しかった。


「子どもの声…」と燐子は耳を澄ませる。


 網のように張り巡らされた樹木をへし折りながら、少し離れた場所から何者かが向かってくる足音が聞こえる。


 一人、二人か。いや、片方は明らかに前方を走る何者かを追うようにして急速に接近して来ている。


 誰かが襲われている、と直感した燐子は、何の迷いもなくそばに置いた太刀と、手にした小太刀とを持ち替えた。


 段々と気配が濃くなった後、目の前の一際大きな木の陰から、小さな人影が飛び出してくる。


 燐子は反射的に太刀を抜き放ち、戦闘態勢に入った。


 両手で柄を握る。左手で鍔に近いほうを、右手はその下の方を。それから半身になって、切っ先を天に突き立てるような格好で太刀を肩よりも高い位置に構える。


 しかし、その白刃の前で腰を抜かした者の姿を目にした瞬間、燐子は驚きに瞳を丸くした。


「異人だと…!?」


 金色の錦糸のような髪、青みがかった無垢な瞳。まさに一片の疑いようもなく、日の本の人間ではなかった。


 容姿からしてまだ十代になったばかりに見える。


 何者だ、と問いをぶつけようとした瞬間、子どもが一つ叫び声を上げて自分の背後を振り返った。


 その悲鳴に呼応するように、大きな黒い影が木の後ろから身を踊らせた。その影の持ち主は、これまた不思議なことに、燐子が今まで目にしたことがないような獣であった。


 一見すると狼に似ているが、体格も狼のそれより二倍近く大きく、涎を垂らして開け放たれた大きな口から覗く牙は、狼など比にならないほどの発達を遂げていた。


 特に犬歯に当たる二本は上顎から下顎目掛けて鋭く伸びており、噛みつかれれば容易く皮膚や肉を貫通できるだろうことが予測できる。


 あらん限りの野蛮さを詰め込んだ唸り声には、明らかに異人の子どもを、ひいては自分を敵として認識している様子があった。


 上質な竹を、何重にも束ねて肉付けしたようにしなやかな前足が、そろりと一歩踏み出される。


(――この動き、知っている)


 互いの存在に気が付いているのに、気配を押し殺すようにして詰める一歩。


 相手に動きの出始めを悟らせないために行なわれる一歩。


 その後に放つ、命を揺るがすほどの『動』のための『静』。


 燐子は獣から視線を逸らさぬまま、未だに腰を抜かしたまま立ち上がれずにいる子どものそばへと近づく。


 横目で一瞥すれば、こちらを怯えた目で見つめている視線とぶつかった。


「じっとしていろ」


 獣は、鼻皺を寄せて唸りながらも足を止めた。


 賢い獣だ。どこからどこまでが両者にとって必殺の間合いになるのかをよく理解している。


 人間相手の経験が豊富なのか、それともこの種の獣が見せる天性の勘か。


 まあ、どちらでもいい。命を賭して全力で向かって来てくれるのなら、この際、形にはこだわらない。


 天に向けて立てていた刀身を、ゆっくりと左斜めに傾け、最後には横一文字に構え直す。


 焦って動けば、その隙を突かれる。


 燐子は全神経を集中させて、獣の一挙手一投足に傾注した。


 集中する時間が長ければ長いほど、その計算はより綿密になって、斬れぬものの無い名刀のように研ぎ覚まされていく。


 不意に、後方で人が動く気配を感じた。おそらく、先ほどの子どもが立ち上がったのだ。


 それとほぼ同時に目の前の獣が動きを見せる。


(来るか)


 地を蹴って、一瞬で人の及ばぬ速さに達するが、その視線の先はこちらではなく例の子どもを捉えていた。


 それに気が付いた子どもが、金切り声を上げて走り出す。


 この子にとっては絶体絶命の窮地なのだろうが、燐子はというと、むしろ白けた心地になっていた。


「…つまらん」


 燐子は左脇をすり抜けて行こうとしている相手に向かって足を踏み出し、太刀を振りかぶった。


 左腕を引いて、脇を締める。


 それから一瞬だけ余計な力を抜き去り、相手の動きに合わせて、振りかぶった太刀を左から右へと水平に薙ぎ払う。


 獲物に夢中になっていた四つ足の獣は、自分の顔から胴に沿って振りぬかれた一閃に、驚く暇もなく引き裂かれ、跳ね上げられるようにして宙を舞った。


 空中を斜めに一転、二転して地面に落下していく、獣の体。


 舞い散る紅葉のように飛散した鮮血が放物線を描き終わる頃には、獣の体はドサリと音を立てて地に伏せていた。


「一騎討ちの最中に相手から目を逸らすなど…あまりにも興が冷める」


 燐子は、巨体を横たえて無様に痙攣する獣を、蔑む目で睨み鼻を鳴らした。


「図体はでかくても、所詮は犬か」


 懐から紙を取り出して、刀身に付いた生臭い獣の血をさっと拭き取って捨てる。


 紙は風に吹かれて不規則に漂うと、燐子の横を通り過ぎ、それからくるりと円を描いた後、少し離れていた子どもの足元に落ちた。


「ひっ」と子どもが腰を抜かす。


 燐子は子どものほうへと足を進めながら、腰に下げた鞘へと刀身を納めた。


「立てるか」


 唇を震わせてこちらを見上げる子どもに、言葉が分からないのか、とわずかな気まずさから視線を逸らす。


(それにしても…)


 燐子は、月光を通さぬほどに生い茂った葉の隙間から夜空を仰いだ後、ゆっくりと自分の周囲を見渡した。


 先ほどの凶暴な獣といい、明らかに場違いな異人の子どもといい、やはりここはあの世なのだろうか。


 鼻から深く息を吸い込み、冷静に思考しようと努めたのだが、足元で震えていた子どもが声を発したことでその試みは中断された。


「…あ、ありがとう」


 最初は空耳なのかと疑い、じぃっと異人を見つめた。しかし、向こうは不思議がることもなく、「死ぬかと思った」と苦笑いを浮かべる。


 そのあまりにも気安い口調に、燐子は目をパチパチとさせて子どもの顔を凝視した。


 呆然として固まっている燐子に、座り込んだままの姿勢で片手を伸ばした幼き異人は、彼女が手を握り返してくれないのを悟ると、自分の足で飛び跳ねるように立ち上がった。


「お姉さん凄く強いんだね、僕びっくりしちゃったよ」


 話し方からして、この子どもは少年のようだ。


 いや、それよりも――。


「お前、日の本の言葉をどこで習った」


 誰かの教えがなければ、こんなにも流暢に異人が日の本の言葉を話せるはずがない。


 しかし、厳しい目つきをした燐子の言葉を聞いても、異人の子どもは意味が分からないといったふうに首を傾げるだけだ。


「どこで習ったって、何を?」


「日の本の言葉だ」


「え、えぇ?なにそれ」


「ちっ、ならば、どうして私の言葉が分かる」


「どうしてって…さっきからお姉さん、何を言ってるの?」


 少年は怪訝そうに眉をしかめた後、ハッと何かに思い当たり目と口を大きく開いた。


「もしかしてお姉さん、『流れ人』なの!?」

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