第6話 いざ勝負!



 目覚める。体がだるい。完全に会社に行くのを拒否しているようだ。どれだけ辛かったのかは体がいちばん理解しているに決まっている。さすがだ。しかし、そうは言ってもこのままだとずっと会社に勤めてることになるので辞めに行かなければいけない。今すぐにでも会社から開放されたい。あんなクソ会社、絶対に戻りたくない。強い意志のまま、私は着替えて会社に向かった。



◇◇◇



「着いてしまった…。」


 自分でもびっくりするくらい早くついてしまった。というか着くまでの記憶が無い。別に電車で来ているので時間は変わらないはず。簡単に言えば「会社が嫌すぎて早く帰りたい」と思っているのだろう。いや事実ですが。



 とりあえず中に入ると、すごく見覚えのある嫌なものが見えた。


「おい、部下のくせに何勝手に上司に連絡も入れずに休んでんだ?」

「あ、ごめんなさい。もう私辞めるので関係ないです。ありがとうございました。」


 あの、嫌な上司(馬鹿なので以下猿と呼ぶ)である。勿論速攻で対応してみせたが、その内容に猿は怒りが抑えきれていない。抑えているつもりなのだろうが、抑えきれていないのである。


「っ…お前は誰の許しを得て辞めるっつってんだ!!お前の上司は俺なんだぞ!逆らうなら辞めさせない!」


 上司…と言っても、ただの部長である。そのため、勿論上には上がいるのである。そんなことも考えられないなんて…流石猿である。こういう駄々をこねるのは子供の頃だけにしておいて欲しかった。めんどくさいやつだ。


「あなたは部長ですよね?ということは、その上には社長とか、もっと上の地位の人もいますが、私を辞めさせないということをその人たちに言ったらどうなるでしょうね?別に言っても私は構いませんよ?どうせ辞めますし。」


 もっと煽ってみる。…すっごく怒りと恥ずかしさを我慢しているのか、顔が真っ赤になっていた。流石にこの意味くらいは分かるようだ。猿のくせに。まあ猿でも知能はないと部長とまでは行けないだろう。


「あれ、そらさんじゃないですか。今日はどうしたんですか?」


後ろからすごく聞き覚えのある声がした。まさか…。


「千暁ちゃん!?」


予想通り、千暁ちゃんであった。エ?ナンデ?


「ち、千暁様…!?きょ、今日はどうなさったのですか…?わざわざこんな所まで出向いてもらうなんて…。」


なんか猿の様子が変である。敬語になってるし、めっちゃ謙遜してません?どうした急に


「ほら!お前も挨拶しないか!この方をなんだと思ってるんだ!親会社の社長令嬢様だぞ!?」

「しゃ、社長令嬢…!?」

「そらさんそんなにかしこまんないでください…。」


千暁ちゃん…まさかの…社長令嬢だった。じゃあなんであの募集に応募したんだろう?


「で、何があったんですか?」

「それがね…ムグッ」

(おい黙れ!俺の名誉を傷つける気か!?)


急に口を塞がれたと思ったら、猿に怒ったような声でボソッと言われる。


「い、いえいえ、なんでもないですよ。」

「あなたには聞いてないんですが?」

「ヒッ…」


千暁ちゃんの圧…すごい…。あの猿をここまで押さえつけられるとは。なかなかすごい才能の持ち主である。


「で、そらさん、何があったんですか?」


私は千暁ちゃんに全てを話す。今までされてきていたこと、さっきの出来事まで全て。


「…そうですか…。で、そらさんは仕事を辞めに来たと。まぁこれだけじゃなくてアレもあると思いますが。」

「そうだね。両立は難しいから。」


現在の猿の様子、ガクブル状態。可哀想に、可哀想に。運が悪かったな!へっ!今までの恨みぃ!!!


「あ、そうそう、君のことは父上に報告しておくねっ♡」

「ヒェッ…そ、それだけはぁ…!」

「無理かなぁ〜」


WINNER、千暁ちゃん。LOSER、猿。無事にいざこざが終わってよかった。てか千暁ちゃんすごいなぁ…と感心してしまう。上の者として部下がやらかしたことに対する対応能力の高さ。私には無いものである。


「で、そらさんはもう大丈夫ですか?」

「うん、もう大丈夫。ありがと、千暁ちゃん。」

「いえいえ!あ、オフで話すっていう約束前してましたよね。まさか初めてのオフで話すのがこういう感じとは…。」

「たしかに」


 そういえば、そんな約束をしていたのを思い出す。これが最初のオフとは…。まさかな感じである。


「でも、今度またオフでご飯行きましょうね!」


 え、いいの?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る