第12話 貴族

 健康の加護のおかげでもちは良くなったとはいえ、毎晩のようにミーシャに絞られるという状態では回復が追いつかない。というか僕の回復量に合わせてミーシャも激しくしているように思う。

 徐々に回復されているとはいえ昼でも気だるいような感じが続いている。前世では、若いときは猿のようにすると聞いた事があったけど、本当に猿はこんなにするのだろうか?

 ミーシャは夜中にパンの仕込みをするので、夕飯を食べてすぐに寝る必要がある。だから部屋で蒸留所の図面を描いていたりする僕をベッドに引き込こんでして、その後サウナ風呂に入って寝ている。そして夜中に起きてパンの仕込みをしたあと発酵を待つ間に、僕の寝ているベッドに入って来てまたする。大体僕は1日で4回~5回は絞られている。


「お兄ちゃん大変だよっ!」

「えっ!?」


 ミーシャがパンを焼くために屋根裏部屋から出て行ったあと1の鐘が鳴り、僕も起きなきゃと思いながら、ベッドの横の窓から差し込んで来た黄色い朝日を見ていたら、その窓からマリアが飛び込んで来て、僕の寝ているベッドにダイブした。

 

「何この布団の匂い。お兄ちゃんお風呂入らずに寝ちゃったの?」

「ちょっとこの部屋3階だよ!?」


 思わず上体をあげたけれど、真っ裸だという事に気がついて、綿入れの掛け布団を腰の周りに手繰り寄せた。


「これぐらいなら魔法でジャンプすれば届くよ」

「あっ、もしかして加護を貰った?」

「うん、魔法剣士だった」

「そっかぁ……」


 一瞬魔法少女かと思ったけど魔法剣士ね。聞いた事が無い加護だけど強そう。という事はマリアと結婚かぁ。でも今押し倒すのは違うよね。だってロマンチックじゃないし、そもそもミーシャに絞られ過ぎて立たないし。


「それより凄い変な匂いするよ?なんか海の街の市場で嗅いだ感じ……、寝ながら何か食べた?」

「そんなの食べてないけど……」


 海の街の市場の匂いって……、イカかなぁ……、前世では栗の花の匂いって聞いた事があるけれど。


「それじゃあ何の匂いなの?」

「それよりマリア、大変だって何があったの?」


 僕とミーシャとの情事の後の匂いだなんで、結婚前のマリアには言えないでしょ。ここは強引に話を変えるしかないよね?


「あっ……、そうだ! アレンお兄ちゃんが貴族になったんだよ!」

「ふーん……」


 なんだアレンが貴族か。そりゃ勇者が王都に招かれたんだもんね。それぐらいあるよね。


「あれ?驚かないの?」

「アレンならあり得るかなって」

「普通は無いんだけど……」


 無い事を起こすのが物語の主人公でしょ?あり得ない事ぐらい起こすでしょ?


「それでどうして貴族になったの?」

「王都に向かう途中で魔物に襲われてるミーア姫を助けたんだよ!」


 ミーア姫って誰だっけ。何か聞き覚えがあるけど、マリアに色々気がつかれないか気になってちょっと頭が回らないよ。とりあえず姫様って事は王様の娘だよね?


「聖女の加護を貰ったミーア様の事忘れちゃったの?」

「あっ、教会で司祭が話してた」

「うん、その姫様」


 なるほど、聖女様か。でも聖女な王女様が魔物に襲われてる所に遭遇なんてすごい偶然。フィンブル辺境伯領から王都までの道って比較的安全って言われてるらしいんだよね。しかも何で王女様が王宮を離れているの?でも物語だしそういう事も起きちゃうよね?すごいぞ主人公。


「フィンブル辺境伯様やマール様と一緒に助けたんだけど、さすが勇者ってアレンお兄ちゃんばかり褒められたみたいでさ」

「マール様?なんか聞いた事があるような……」

「アレンお兄ちゃんと同じ日に加護を貰ったお嬢様だよ?」

「あっ、そうだったそうだった」


 アレンが加護を貰った時に教会が忙しそうにしていた原因のお嬢様か。そんな人も王都に向かってたんだな。


「何でアレンと一緒に王都に向かってたの?何か特別な加護でも持ってた?」

「賢者だけど知らないの?」

「知らなかった」


 アレンと同じ日に加護を貰ったお嬢様が賢者か。なんか運命に導かれてるね。さすが主人公。


「まぁマール様が王都に向っていたのは王都の学校に入るためだけどね」

「ガッコウ?」


 始めて聞く単語だ。何だろう。


「貴族の子が加護を貰ったあと3年間入るところだよ」

「ガッコウって学ぶ所!?」


 なんだ学校はこの世界にもあったのか。なるほどね。あっ、何となくアレンの物語が見えて来たぞ?つまり学園編だな?乙女ゲームだと「平民出がこんな場所に来るのは相応しく無くてよ」と金髪ドリルな悪役令嬢に言われる奴だ。アレンの場合は男だからそのミーア姫の婚約者の陰険メガネ的な公爵令息にでも言われるのかな?


「それで、ミーア姫が魔物に襲われてたのがミュントー侯爵領でさ、ミーア姫に大事が無かったお礼にって、貴族へ推薦したんだよ」

「あれ?伯爵以上の貴族って確か爵位を授ける権限持ってたよね?」


 伯爵以上は下の爵位を与える権限があるから上位貴族と呼ばれていると聞いた事がある。公爵と侯爵と辺境伯が子爵と男爵を授けられて、伯爵が男爵だけを授けられると聞いた事がある。


「授けられる数が決まってるんだよ。ミュントー侯爵は既に貴族を指名できる枠を使い切ってたの」

「ふーん……、それで推薦なのか……」


 同じ男爵でも、公爵が授けた男爵より国王が授けた男爵の方が上だって聞いた事があるからな。きっとアレンの物語的にも国王から爵位を貰った方が良かったんだろう。


「ちなみにミュントー侯爵家に変わった加護のお嬢様っていたっけ?」

「マーシャ様が剣聖の加護を貰ってたけど」

「あっそうなんだ」


 なるほど、フリーRPGのヒロイン魔術師っぽい名前だけど剣聖なんだ。でも勇者に聖女に賢者に剣聖とは予想通り揃って来たな。アレンはなんか挑発という他の人を守るような加護を貰っているのでタンクだし物理アタッカーの剣聖とは相性いいよな。

 前世で世界最強のタンク職という冒険者が主人公の異世界ファンタジー系のアニメが流行ってたけど、挑発というスキルを使って魔物を自分におびき寄せていたっけ。まぁアレンの場合は加護なんだけどさ。

 でもアレンは光属性で癒しも使える。すごく強いタンク職というものになりそうだ。まぁこの世界に冒険者がいるなんて聞いた事は無いんだけどさ。

 それよりマリア、ベッドの下には僕のパンツが落ちてるからね?そっちは見ちゃだめだよ?

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