第10話
鈴は唇を開いて、彼の舌を迎え入れた。
<font color="#cd5c5c">「んっ、彦……」</font>
なめらかな動きで、鈴の咥内を彦佐の舌がなぞり、舌を絡みとる。口づけだけで、鈴の身体は緩み、開いていった。
触れられていないのに、胸の先が硬くなるのがわかる。足の付け根が熱く潤んでくるのがわかった。
<font color="#4682b4">「ん……、鈴…」</font>
彼女の変化を感じて、彦佐の身体も反応しているのが伝わってくる。
息遣いも、唇も、口づけ方も。
鈴を感じて、彦佐はとても熱くなっていた。
玄関先だというのに、二人は息を乱しながら、濃密な口づけを延々と交わし続けた。素晴らしい感覚にやめるにやめられず、貧るように彦佐は鈴の唇と咥内を味わった。
唾液が混じり合い、舌が絡み合い、息が溶け合う。背筋にゾクゾクする痺れが何度も走る。
下腹部には熱が溜まり、甘い痛みのような疼きが彼を突いていた。
鈴が彦佐の背中に手を回し、より深く唇を合わせられるように、身体を押し付けてくる。丸みを帯びて来た鈴の腹部や胸の膨らみが、彦佐の筋肉質な身体に、その柔らかさを強く主張してくる。
<font color="#4682b4">「……だめだ」</font>
鈴の柔らかな身体の奥に、深く押し入りたい衝動が大きく込み上げてきて、彦佐は飢えた獣のような呻き声を上げ、慌てて唇を離した。
<font color="#cd5c5c">「だめ……?」</font>
何が?
甘い余韻にぼんやりしている鈴を、彦佐も同じように見つめる。
色素の薄い鈴の瞳に吸い込まれそうになりながら、熱っぽい眼差しで鈴を見つめ、
<font color="#4682b4">「これ以上は、だめだ……身体に障る」</font>
切なげに吐息をつき、彼女の身体を彦佐は抱きしめた。
抱きしめると、その柔らかなぬくもりが愛しくて、彦佐はまた吐息を吐く。
鈴の腹部に、彦佐の強張ったモノが押しつけられている。淫らな熱を放つそれは硬く、質量を増して、はっきりとした存在感で息づいていた。
彦佐の息づく雄を感じ、鈴の喉はカラカラに渇いてくる。
<font color="#cd5c5c">「彦佐…私なら大丈夫よ…」</font>
鈴が彦佐を安心させるようにそっと囁く。誘うような甘い響きを含む声に、彦佐の雄の証がぴくりと震えた。
<font color="#cd5c5c">「彦佐に…抱いて欲しいの…」</font>
自分から抱かれることを鈴が選んだのは、初めての夜以来だ。
そして、あの時とは二人の関係は違っている。今の二人の間には温かい感情がある。
<font color="#4682b4">「鈴……」</font>
彦佐は切ない眼差しを鈴の顔に注ぎ、手を彼女の身体にさ迷わせた。
<font color="#cd5c5c">「ん…っ!」</font>
胸の先に彦佐の指がかすめると、鈴の喉から甘い呻きがこぼれた。
<font color="#4682b4">「…鈴……」</font>
着物の上から、胸の先を指で愛撫する彼の腕の中で、鈴はもっととばかりに胸を押しつけてきて、彦佐の息は乱れ、浅くなっていた。
<font color="#4682b4">「鈴……本当に大丈夫なのか?」</font>
不安そうに尋ねる彦佐に、鈴は思わず笑った。
<font color="#cd5c5c">「彦佐、私は病気じゃないのよ。お腹に赤ちゃんがいるだけよ」</font>
つわりも落ち着き、安定期に入った。医者からも夜の営みの許しは出ていた。
それなのに、神経質になりすぎる彦佐に、鈴は苦笑いする。
それが彦佐の優しさなのもよくわかっているが、子供が生まれるまで鈴を抱かずにいるつもりだったのだろうか?
…そうかもしれない。彼なら、そう考え、実行しそうだ。
でも、あまり神経質になられると、逆に鈴の方が心配になる。
<font color="#cd5c5c">「いや……?」</font>
彦佐は自分に飽きたのではないか、と。
<font color="#4682b4">「嫌なわけない!」</font>
彦佐が即答して、鈴を強く抱きしめた。
<font color="#4682b4">「ただ、少し……自信がない。その、ご無沙汰だったから……優しく出来るか…夢中になりすぎて、鈴を傷つけてしまいそうで…」</font>
照れながら、彦佐が告げるのに、鈴も赤くなる。
鈴が身篭ったとわかってからの日々は、短いとは言えない。
毎晩、同じ布団で眠りながら、彦佐は一度も自分の欲望を満たそうとしなかった。
それはひとえに、鈴とお腹の子供を思ってのことだったのだろう。
その間、鈴は彦佐に守られているのをずっと感じていた。
妊娠の影響で、感情が不安定になる鈴を、辛抱強く励ましてくれてきた。
妊娠は鈴にとっては未知のもので、これから出産することを考えると、やはり不安になるし、怖い。
でも、彦佐がそばで支えてくれるなら、頑張れる気がするのだ。
彼のためなら……産める。
彦佐を知り、鈴はそんな風に思うようになった。
目が合うと、彦佐と鈴は引かれ合うように口づけ合う。
そして、唇が吸いつき合う感触に、二人はたまらず喘いだ。
疼く身体を抑え、彦佐は鈴をしっかりと腕に抱いた。
<font color="#4682b4">「…楽しみだよ、鈴。だけど、その前にきちんと晩飯をとらなくては。お腹の子はきっと腹をすかせているだろう」</font>
からかうように見下ろす瞳にどんなに強い欲望が浮かんでいても、彦佐の眼差しには彼女を気遣う優しさが常にある。
<font color="#cd5c5c">「そうね」</font>
微笑みながら、鈴は少し複雑な気持ちになる。
彦佐が優しくするのは、お腹の子供のためで、鈴のためではないのかもしれない…と時々、不安になる。
子供を欲しがっているのは疑いようがないけれど、子供のこととは別に、鈴のことはどうなんだろう……とよく考える。
彼の誠実さを疑うつもりはないが、子供が出来なければ……未だに誤解したまま、二人は平行線だったのかもしれない。
鈴が留守の間に、彦佐はお楽しみだったと栄治は言った。
彦佐がそんなことをしないのは、今ではわかっている。信頼もしている。
けれど、愛は?
私は彼に愛されているのだろうか?いつか、本当に愛される日がくるんだろうか?
身体だけでなく、心から求めてほしい。
自分の気持ちの変化に戸惑いながら、鈴は思った。
ずっと、彦佐が好きだった……と、もう認めずにはいられなかった。
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