## 第6話:ミリオンの滝への道

「よし、行くか」


翌朝、ジェルは隠れ家を出発した。アレンから貰った地図を何度も確認しながら、北東へと進んでいく。森の中は比較的安全だが、地図によれば森を抜けた先には広大な草原があり、そこからは危険度が増すという。


「まずは森を抜けるまでが第一段階か」


トキシックスライムに進化してからの移動能力は格段に上がっていた。以前より速く、より長時間動き続けることができる。体力と魔力の上昇も大きな助けになっていた。


森の中を進みながら、ジェルは様々な植物や小さな生物を吸収し、栄養と情報を得ていく。


「この調子なら、予定より早く森を抜けられるかもしれない」


昼過ぎ、予想外の事態に遭遇した。前方から人間の声が聞こえてきたのだ。


「この辺りで見かけたって言ってたよな?緑色のスライムを」


「ああ、珍しいからいい値段で売れるはずだ」


二人の男が森の中を歩いている。どうやらモンスター捕獲者らしい。アレンが村で自分のことを話したのだろうか?いや、そんなことはないはずだ。恐らく偶然ジェルを目撃した誰かがいて、その噂を聞きつけたのだろう。


「見つからないように隠れるか…」


ジェルは素早く近くの茂みに身を隠した。二人が通り過ぎるのを待つつもりだったが、一人が危険なほど近くまで来てしまった。


「おい、こっちに何か動いたぞ!」


「見つかった!」


ジェルは咄嗟に動き、茂みから飛び出して逃げ始めた。


「あっ!いた!緑のスライムだ!」


「逃がすな!網を投げろ!」


後ろから網が飛んできたが、ジェルは素早く横に転がって回避した。二人は追いかけてくる。


「このままじゃ追いつかれる…毒を使うしかないか!」


振り返りながら、ジェルは初めて戦闘のために毒液分泌スキルを使った。緑色の液体が後方に飛び散り、追手の足元に落ちた。


「うわっ!毒だ!踏むな!」


二人は足を止め、毒の広がった地面を警戒してジェルとの距離を取った。その隙にジェルは全力で逃走した。


「くそっ!あれはトキシックスライムだ!普通のスライムじゃなかったのか!」


「なんで辺境の森にあんなものが…追うのはやめろ、危険だ」


彼らの声が徐々に遠ざかっていくのを確認してから、ジェルはようやく速度を緩めた。


「危なかった…人間には注意しないとな」


この出来事により、ジェルは予定を変更した。人間に見つかる危険を避けるため、より人が入らない獣道や茂みの中を通って進むことにしたのだ。それにより時間はかかるが、安全性は高まる。


一日目の終わりには、森の縁まで到達した。前方に広がる草原が見える。


「明日はあの草原を横断しなければならないか」


安全な場所を見つけて休息を取りながら、ジェルはアレンから貰った水魔力結晶について考えていた。吸収しても特に変化はなかったが、体内に保持することで何らかの恩恵があるのかもしれない。


翌朝、ジェルは草原への横断を開始した。草の丈が高いエリアを選び、なるべく身を隠しながら進む。地図によれば、草原の半ばには小さな丘があり、その周辺に危険なモンスターがいるとの注意書きがあった。


「丘を迂回して進もう」


順調に進んでいたが、昼頃に空が急に暗くなり、雨が降り始めた。通常、雨はスライムにとって好ましい環境だが、移動速度は遅くなる。


「予定よりも遅れるな…」


雨の中を進んでいると、突然地面が震え始めた。


「何だ?」


振り返ると、草原の中から巨大な虫のようなモンスターが現れた。長い胴体と無数の足、そして大きな顎を持つ生き物だ。


$$\text{【分析結果】}$$

$$\text{生物:グランドワーム(大型地中虫)}$$

$$\text{特徴:地中移動、強力な顎、物理耐性高}$$

$$\text{危険度:高}$$


「危険度高!これは厄介だ」


グランドワームはジェルに気づくと、猛スピードで追いかけてきた。トキシックスライムの速度でも、この巨大虫からの逃走は困難だ。


「毒で攻撃してみるか!」


振り向きざま、ジェルは毒液を大量に分泌した。緑色の毒が虫の顔に命中したが、効果は薄いようだ。


$$\text{【敵情報更新】}$$

$$\text{グランドワーム:毒耐性あり}$$


「まずい!」


グランドワームは顎を大きく開き、ジェルに襲いかかってきた。直撃は避けられたものの、衝撃でジェルは吹き飛ばされ、地面を転がった。


「通常攻撃は通じないか…他に何か…そうだ!」


ジェルは体内に保持していたアレンの水魔力結晶を取り出した。雨で地面は濡れている。水属性の魔力を増幅できるかもしれない。


結晶を地面に叩きつけると、青い光が走り、周囲の水たまりが一瞬輝いた。グランドワームが再び襲いかかってくる直前、ジェルは結晶の上に体を広げ、全力で魔力を吸収した。


「うっ…!」


体内に強い振動が走る。水属性の魔力が全身を駆け巡る感覚。そして突然、体から青い光が放射され、周囲の雨滴が凍りついた。


$$\text{【一時的能力獲得】}$$

$$\text{水属性魔力を吸収しました}$$

$$\text{スキル:水弾(一時的)を獲得}$$


「水弾…?」


ジェルは新たに得た能力を使おうと意識を集中させた。体から青い球体が形成され、グランドワームに向かって発射された。


「効くかな?」


水弾はワームの体に命中し、凍りついた。地中を移動するモンスターにとって、水と冷気の組み合わせは天敵のようだ。ワームは苦しそうに体をよじらせた。


「チャンスだ!」


追加で水弾を何発も放ち、ワームの動きを鈍らせる。そして完全に動きが止まったところで、ジェルは全力で逃走した。


$$\text{【一時的能力消失】}$$

$$\text{水属性魔力が消費されました}$$

$$\text{スキル:水弾が消失します}$$


「なんとか切り抜けられたか…」


安全な場所まで逃げ切った後、ジェルは自分の体の変化に気づいた。完全に元の緑色に戻ったものの、体の一部が薄い青色に変色していた。


「これは…水属性を少し吸収した?」


この体験はジェルに重要な気づきをもたらした。魔力結晶の直接吸収と、それを活性化させての使用が、体に何らかの変化をもたらす可能性があるということだ。


「これが進化への別のルートかもしれない」


この発見に胸を躍らせながら、ジェルは旅を続けた。二日目の終わりには、地図上で示された小さな川に到達した。明日はこの川を渡り、最後の山岳地帯を越えるとミリオンの滝だ。


「あと少しだ…」


水辺で休息を取りながら、ジェルは想像した。あの滝では一体どんな発見が待っているのだろうか。そして次の進化は、自分をどんな姿に変えるのだろうか。

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