【KAC20252】あくがれいずる

武江成緒

第1話




 物思へば 澤のほたるも 我が身より あくがれいづる 魂かとぞ見る

                              ――― 和泉式部






 夏になればこの川には、いまだにホタルが舞うらしい。


 いまは水もこごえはてて、吐く息だって白くけぶってはいるけど。


 水も空気も、心までもやわらかく溶けるような暑いころの晩になったら、

 この胸にあふれるくらいにまってる、餓え切ったようなあこがれも、溶けて夜空へ流れだしていくのかな。




 ひと月かけて見つけだしたこの場所。

 あこがれがかなうパワースポット、検索サイトとSNS、通販サイトでかき集めてきたスピリチュアル関連の本から、しぼってしぼって、しぼった末に決めたこの川べりは。


 胸に秘めてたあこがれが、確かにかなったって信じられる話はたくさん集まったけど。

 事故死、そして自殺がみつかった数は、それよりたくさん見つかって。

 でもまあ、それもいいや、って。




――― 頭つかって考えたなら、全然いいわけないんだけど。


 もう胸のなか、がりがりって、掻きむしるくらい狂おしい、欲しくて欲しくてたまらないこの気持ちは膨れあがって。

 もう、わたしを破り裂いてあふれ出そうなこのあこがれを、叶わないまま呑みこみ続けるくらいなら。

 いっそ何もかも終わりにしよう。


 そんな思いが、胸のなかで、ばちばち燃えているみたいで。

 つい、体を前へとのりださせたとき。




 くずれた足がすべり落ちて。


 ばしゃん。


 氷みたいな冷たい水が、体を凍えつかせた瞬間。






 ――― ぼゎぁ。




 青白い光といっしょに、わたしの心は体から暗い夜空へと流れだした。

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