最低少女イヌの共倒れ 釣鐘マントの転校生はヌードでもぬけぬけと!

落葉屋陽斗

釣鐘マントの転校生はヌードでもぬけぬけと!

【はじまり】

偽りのエピローグ 及び読者への挑戦状



   ▼▼



 読者に向けて話しかけてくるような語り口の小説を、俺は心底嫌っている。

 だからここで、俺は自分の嫌なことを他人に強制することになってしまうけれど、それでも俺はあえて言おう。

 この物語では誰も幸せにならない。誰も彼もが自分のことしか考えないままに、誰をも救わないままに進んでいく。登場人物のすべてが、自分を守るために他人を切り捨てる。そういう陳腐な物語だ。


 と、そんなことをデメリット表示よろしく鬱屈した印象で伝えてみたわけだが、物語の当事者である俺自身は、別にこの話が大それた教訓を備えているとも思わないし、特段にずれた非常識を唱えているとも思わない。

 その理由は明白である。

 俺たちの生きている世界は、決して物語と言われるようなフィクションではないからだ。




 と、言いたいところだけど。


 


 この『最低少女イヌの共倒れ』という物語は、そんなメタフィクションじみた台詞から────読者への挑戦状から始めてみようと思う。




 本書は俺、犬秋いぬあきが語り部を務めるライトノベルだ。無論、執筆したのも俺。


 そして初めに断っておくが、この物語はミステリー小説ではない。

 おいおい!『読者への挑戦状』なんて言葉を使っておきながらそれはないだろ! という突っ込みを入れられると……こちらも非常に心苦しい。


 しかし、本書のジャンルが【バトル・アクション】である事実は変えられないのだ。

 それと一応……当該小説は【ラブコメ】の枠にも入るかもしれない。語り部の俺がそんなことを言うのも恥ずかしいのだが。


 ともあれ、ジャンルの説明もそこそこに、早速『読者への挑戦状』について解説しよう。


 この物語ではとある事件が巻き起こる。

 その事件名を《学園生連続入れ替わり事件》という。

 舞台となるのは棚上たながみ学園。

 超能力者の大規模訓練施設──タナガミ七区という街にそびえ立つ教育機関。そこには強制能力スキルという異能を持つ高校生が無数に溢れている。


 まあ、ライトノベルではよくある話だ。

(もっとも、そこに通っている俺からしてみれば、フィクションのような設定も現実でしかないのだが)


 読者への挑戦状というのは、その舞台で繰り広げられる《学園生連続入れ替わり事件》のを当ててもらうことを指している────のだが。

 この点に少々問題がある。

 それは。


 俺がこの時点で犯人の正体を掴めていないということだ。


 ………………いや、仕方ないんですよ! 現実のミステリってそんなものですから!


 ちなみに、語り部である俺こそ犯人の特定には至っていないが、物語の途中にが出てくるので安心してもらいたい。また、その暗号が解けなくても同様に安心してもらいたい。だって、俺も解けてないから。


 そしてここは、「ミステリー小説における語り部っていうのは、大抵の場合は読者をちょっぴり下回る頭脳を持っているものなんだよ。そのほうが読者に共感されやすいからね」といういな先輩の言葉を引用することで、言い訳を終了させてもらう。


 俺だって別に、自分の頭の悪さを声高に主張したいわけじゃないからな。


 というか、このエピローグで語っているミステリー小説への印象は、ほとんどが稲穂先輩からの受け売りでしかない。俺が知っている推理小説なんて江戸川乱歩くらいである。だからやはり、俺にはこの物語がミステリーだと自信を持って言うことはできないのだ。


 なにより、謎に気付けない語り部なんて、褒められたものじゃない。

 俺が真に有能な探偵役だったならば、そもそも読者への挑戦状なんて出る幕もなかったのだから。

 あの転校生を泣かせることなんてなかったのだから。



 俺のクラスに転校してきた生徒、人山ひとやまこずえ

 裸の少女。

異称持ちエンドレスダウン』。

 この小説を読んでいるのが仮に人山ではないのだとしたら、以降のストーリーを俺と人山の【ラブコメ】として読むことができるかもしれない。

 ────彼女に関する記述もミステリとして読むことができるかもしれない。

 それは俺にとって……あまり望ましくないことではあるが。



 この物語はフィクションではない。まるで何かが解決したように一区切りついたりすることもなければ、どこか世界が良い方向に変わるわけでもない。


 これは推理小説ではなくアクションバトルで、

 人を裁く物語ではなくに他ならないのだから。人を殺す者の──物語に他ならないのだから。


 …………さておき。

 このあたりで鬱屈した文章は止めて、あとは簡単な注意書きでこのエピローグを締めようと思う。



 まず第一に。

 この物語を推理小説として読むことは危険である。元よりこの作品はジャンル【バトル・アクション】で、しかもエピローグと称した現時点で俺が解決できていないと言うのだから、この話が如何いかにアンフェアであるのかという事情については理解できるだろう。


 そして第二。

 以降の物語も、同じく俺による一人称視点で書かれているのだが──そこでの俺がメタフィクション的な言及をすることはない。これについては断言できる(犯人は断定できていないけれど)。俺みたく、読者に向けて語りかけてくるような小説が嫌いな読者には(なのにここまで読み進めてくれたきみには)伝えておきたい情報だ。


 また最後に。

 多少のネタバレにはなってしまうかもしれないが、しかし、こちらも特に重要な情報なので、やはりこの時点から伝えておくべきだろう。

 この物語…………実は俺が女性に性転換したことから始まるのだが、この点は事件と何の関係もない。まったく本筋と無関係である。


 なので、(そんな読者が存在するのかは不明だが)この物語に【TS百合小説】のジャンルを期待している方々については……クオリティを保証することはできないとだけ言っておく。申し訳ないけれど。



「……なんで俺が謝らなくちゃいけねえんだよ」


 おっと。

 心の声が漏れてしまった。



 こんな具合に掃いて捨てるほどメタ発言をした後ではあるが、しかし、俺が性転換した理由も、学園生連続入れ替わり事件の犯人も、転校生のミステリも、こんな本を書くはめになった理由も、知りたいのは俺のほうだ。


 読者への挑戦状というのも、結局は俺自身の責務を転嫁しただけに過ぎない。そんなものを出すのは探偵ではなく負け犬だ。


 裁人ではなく罪人で。

 裁定ではなく最低だ。


 この世界に、頼れる主人公などいない。



 人生にエピローグなんてない。



 だけど。

 仮に──そんなものがあるのだとすれば。

 こうしてここまでしたためた……このくらいしか、心置きなく終われるものはないだろう。 


 だから。

 もしも人山がこの文章を読んでいるのなら伝えておくぜ。



 俺が死んでも気にするな。







【登場人物紹介】


人山ひとやまこずえ─────転校生

遊佐ゆさざわゆう───研究所職員


聖者院せいじゃいんかなで────『紅文書グリモワール

しのとら────『惨齧鬼ウェアウルフ

我孫子あびこ我執がしゅう───『隠幣工作インペリアルキット


斧堀おのぼりおの────クラスメイト

川坂がわさか馬鹿騒ばかさわぎ─クラスメイト

犬秋藍鬱いぬあきあいうつ────語り部


いなてん────先輩

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