第38話
「私はレオン様が眠っている間、何も出来ませんでした」
その言葉にオレはハッとする。
「……」
「ですから……レオン様のために、あそこまで尽くせるノワールが羨ましかったのです」
ノワールは、オレを守ろうと一睡もせず力を使い続けてくれていた。
その反動で彼女は今もオレのベッドで寝ている。
だから、オレはこうして外に出た訳だけど……。
「きっと……それはエリシアも同じ気持ちだったと思います」
「エリシアも……そうか」
「はい。彼女もレオン様のことが好きですから。何も出来ない自分に、歯がゆさを感じていたはずですわ」
エリシアは勇者より、オレを選んでついて来てくれた。
「……ノワールもエリシアも、ヴェルゼリアも」
オレは、ゆっくりと目を閉じる。
自分が思っている以上に、彼女たちはオレのことを考えてくれている。
「レオン様、お願いしてもよろしいですか?」
「ん?」
「……もっと、私のことを気にかけてくださいませんか?」
その問いかけに、レオンの鼓動が跳ねる。
――ヴェルゼリアは、本気だった。
彼女は、すべてを捨ててでも自分と一緒にいる道を選んだ。
それなのに、自分は彼女の気持ちをちゃんと理解できていたのだろうか?
オレは、何か言おうとして……不意に口を閉じた。
「……レオン様?」
ヴェルゼリアが、小首を傾げる。
その仕草が、あまりにも可憐だった。
「……そうだよな」
膝枕してもらって、こんな事を言われて気にならない訳がない。
意識するなっていう方が難しい。
オレは短く息を吐きながら答える。
「ちゃんと気にかける……いや、気にかけてたつもりだった……もっと、意識するようにする、よ」
「……ふふ」
ヴェルゼリアの唇が、ゆるやかに微笑を形作る。
「少しだけ安心しました。私も女として見て頂けるんですね」
「え、いや。初めから……女としては、見てたけど、うん……」
夜風が、ふわりと吹き抜ける。
「うれしいです……」
ヴェルゼリアの柔らかな声が、静かな夜に溶けていく。
甘く、心地よい沈黙が流れ――。
「ちょおおおっと待ったぁぁぁぁぁ!!!」
その静寂をぶち破るような、元気いっぱいの声が響き渡った。
「――っ!? うわっ!」
突然の大声に驚いたオレは、思わず体を起こしかけたが、ヴェルゼリアの膝に頭を預けたままだったせいで、バランスを崩してぐらりと揺れる。
「きゃっ……!?」
ヴェルゼリアの膝枕から半ば転げ落ちるようになったが、すぐに体勢を立て直す。
顔を上げるとそこには――。
金髪ツインテールを揺らすエリシアが、頬を膨らませて仁王立ちしていた。
「ちょっと! 2人きりで何やってんのよ!」
ツカツカとこちらに歩み寄り、腰に手を当ててオレを睨む。
「……見ての通り、膝枕?」
「言い方ぁぁぁ!! もっと罪悪感持って言いなさいよ!!」
オレの冷静すぎる返答に、エリシアがさらに頬を膨らませる。
「いえ、別に罪悪感を持つことではありませんわ。私はレオン様に膝枕をしたかったから、したまでのこと」
ヴェルゼリアは至って優雅に、涼しげな表情で言い放つ。
「~~っ!! そういうことじゃなくて!!」
バッとオレの前に立ちはだかり、エリシアがぷんすかと怒る。
「私だってレオンと話したいんだから! ずるい!」
「えぇ……?」
「えぇ、じゃない! ノワールは疲れて寝てるんだから、今がチャンスなのよ! なのに……ヴェルゼリアばっかり独占するのはダメでしょ!?」
「まあ、それは確かに」
「素直に納得しないで! もっと抵抗しなさいよ!!」
「えっと……何を?」
「なんかこう、『ダメだ、ヴェルゼリアの膝枕が最高すぎて離れられない!』みたいなことを言えばいいの!」
「なんだよそれ! お前、オレに何させたいんだよ……」
ヴェルゼリアは、エリシアとオレのやり取りを見ながら、小さくくすくすと笑った。
「ふふ……エリシアは、本当にレオン様のことが大好きなのですね」
「べっ、別にそういうわけじゃ……っ!!」
「エリシア……」
「ちょ、レオン、その顔やめて!! ニヤニヤしないで!!」
ツインテールをぶんぶん振り回す。
エリシアがジタバタしながら抗議する。
「……まぁ、そんなに言うなら、エリシアも座ったらどうだ?」
「……え?」
「話したいんだろ? だったら座って話せばいいじゃないか」
「……う、うん」
普通のことを言ったはずなのに、なぜか少しだけ拍子抜けした顔をするエリシア。
しばらくすると「ムムム……」と唇を尖らせる。
「なんか……素直に受け入れられると、それはそれで悔しい……!」
「めんどくさいな、お前」
「めんどくさくないもん! もういい、座る!」
バサッと草むらに腰を下ろし、腕を組んでそっぽを向くエリシア。
オレが苦笑すると、ヴェルゼリアが微笑を浮かべながら、優雅に髪をかき上げた。
「ふふ……とても楽しい夜になりましたわ」
「……まあ、悪くはない、か」
こうして、オレの穏やかな夜はエリシアの乱入によって少しだけ騒がしく、そしていつも通りにぎやかなものとなったのだった。
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