第33話
それは、封印の短剣のはずだった。
だが、今は違う。
放たれた光が、まるで刀身を形成するかのように伸び、一振りの光り輝く長剣へと変貌していた。
「これは……剣?」
オレは剣を構える。
「これなら……戦える!!」
刀身は白銀に輝き、淡く発光している。
まるで神聖な力が込められているようだった。
――お願い。無事に戻ってきて――。
剣から意思のような、願いを感じた。
……今のは、まさか、ノワール??
戸惑うオレを、ユリウスは忌々しげに睨む。
「……光の剣か。レオン、貴様……古の勇者の真似事などを」
古の勇者か……。言い伝えだと、光の剣を使うんだってけな。
面白いじゃないか。
『古の勇者』対『闇落ち勇者』。
オレは深く息を吸い、剣を握り直す。
武器は手に入った。
もう逃げるのはやめだ。
ここからは反撃の時間だ。
「ユリウス……待たせたな。ようやく準備オッケーだ。相手してやるよ」
オレはユリウスを倒し、この夢を抜け出す。
必ず彼女たちの元へ戻る。
そう、決めたんだ……。
「フン……異物が偉そうに。即刻排除してやろう!」
ユリウスが鋭く叫び、地を蹴る。
風が巻き起こり、砂埃が舞う。
オレは咄嗟に剣を振るい、その一撃を正面から受け止めた。
光の剣と黒剣が交差し、激しく火花を散らす。
夜の市街地に、金属がぶつかる甲高い音が響いた。
鼻を刺す鉄の匂いと、緊張感のせいか、わずかに血の味が口の中に広がる。
「ほう……貴様、なかなかやるな。あの女が警戒するわけだ」
ユリウスが忌々しげに目を細める。
その瞳には、予想外の敵を前にした驚きが浮かんでいた。
「あの女?」
「気になるか? だが、貴様はここで死ぬのだ。知る必要はない」
その瞳が愉悦に染まる。
「貴様を排除したら、連れの女どもは私が貰ってやろう。村人の貴様には過ぎた器量の者たちだ。勇者のもとにいるのが正しい姿であろう?」
「何を言ってる……ただ嫉妬してるだけか、お前?」
「特にノワール。彼女は私にこそ、相応しい」
「ノワールは、ユリウスが気に入らないって言ってたぞ」
「フッ、可愛いものだ。素直になれないのだろう。何、心配するな。ちゃんと愛でてやろうではないか。貴様の代わりにな」
ユリウスの狂気に満ちた瞳に、胸糞が悪くなる。
「そうかよ、お前に負けられない理由がもう1つ出来たな……」
「お前が死ぬのは確定事項だ。レオン、貴様には死ぬ前に私の剣技を見せてやろう」
宣言とともに、ユリウスが一歩踏み込む。
大気が震え、嫌な静電気が肌を刺した。
「光栄に思うが良い!!」
――くる!
ユリウスの剣が雷を帯び、周囲の空気がバチバチと弾けた。
「――雷光覇斬!!」
雷をまとった剣閃が、夜闇を切り裂くように奔る。
オレの皮膚に電撃が近づく予感が走る。瞬間――。
「――裏剣技・雷影穿斬!!」
光剣が閃き、雷光の軌跡を切り裂いた。
まるで、相手の技を潰す事を目的としたような剣技。
雷光の剣閃は相殺され、夜の闇に掻き消える。
「なに……!?」
ユリウスの表情が凍りついた。
目を見開き、信じられないものを見たような顔をしている。
「今のは……私の渾身の剣技だぞ? なぜ生きている? なんだ、今の剣技は……」
「知らないのか? 返し技だよ」
オレは余裕を演出するために、剣を軽く回しながら答えた。
「裏剣技ともいうけどな」
「裏剣技だと……? 聞いたこともない」
「大体の剣技には、対応する返し技が開発されているんだ。普通の剣技よりも相当難しいけどな」
ユリウスの眉間に深い皺が刻まれる。
「戯言を……まぐれの間違いだろう! ――鬼哭斬!!」
ユリウスが横薙ぎに黒剣を振る。
空間を震わせるほどの剛撃。
「――裏剣技・双影鬼哭!!」
ユリウスとオレは対照的な軌道で斬撃を描いた。
その姿はまるで、鏡に映る双子の影。
光と影の剣が交差し、ユリウスの剣閃を弾き飛ばす。
「くっ……!」
ユリウスの動きが一瞬止まる。
それでも奴は怯まなかった。
「こんな、バカなことがあるか……ただの村人風情が調子にのるなよ! 私は勇者だぞ……!!」
「オレは剣技にプラスαして、さらに威力を乗せてるからな。システム通りのお手本みたいなお前の剣技は、通らないぞ」
オレは偉そうに言ったが、実はそこまで余裕はない。
ユリウスの身体能力がオレの想定より高い。
剣技を返すので精一杯だったりする。
ゲームで培った経験がなければ、オレは一撃目に死んでいる。
「異物がほざくな!! ならば……この剣技で終わらせる!!」
ユリウスが大きく踏み込み、剣を振り上げた。
突風が巻き起こり、辺りの瓦礫が舞い上がる。
「――旋風裂斬!!」
轟音とともに、ユリウスが動く。
強烈な二連撃の剣技。
だが……迎え撃つ!
オレは剣を構え、力を込めた。
「――裏剣技・烈風鏡閃!!」
放たれた連撃を、鏡のように反転させる。
オレの斬撃が競り勝ち、ユリウスへ向かう!
「ちぃ……!」
奴は間一髪で避けるも、鎧に傷が入る。
「貴様……ゆるせん。神の力を得た、この私を超えるなど……あってはならぬこと」
睨みつけるユリウスの目に、確かな焦りが混じる。
だが、奴はまだ諦めていない。
「レオン。貴様は世界の異物だ……」
ユリウスが剣に力を込める。
漆黒の剣身に再び雷光が走る。
「神は調和を望んでいる!」
雷が収束する!
――くる。
「異物は排除する――雷光覇斬!!」
さっきよりも威力が増した剣技が、オレを両断しようと雷と共に迫る。
「オレは負けられないんだよ!!」
剣に力を込めて握り直す。
「――超裏剣技・逆光雷穿!!」
光の剣がユリウスの剣技を超える閃光を放つ。
2つの雷が激突し、夜の街に空気を裂く轟音が響く。
「な、なんだと!!」
ユリウスの黒鎧がオレの斬撃を受け、砕け散った。
「今のは裏剣技の中でも最強の返し技だ。もう分かっただろ? お前の剣技はオレには通じない。諦めろ」
「ふ……ふははは! 調子に乗るなよ。神から授かりし、私の奥義を見せてやろう。貴様の死は確定したのだ、レオン」
ユリウスが腰を落とし、今までとは違う構えをとる。
……この構えは!?
最終奥義『神速天滅斬』か?
目にも留まらぬ速さで12連撃を放つ、最強の技。
それだけに習得も難しい。
長剣の熟練度を最高まで上げないと覚えない最終技だ。
ユリウス、神の力でそこまでレベルを引き上げられたのか……。
この最強の剣技には、対応する受け技が無い。
つまり、こちらも同じ剣技で迎え撃つしかない。
もう、さっきまでのように余裕はない。
タイミングを間違えたら……おそらく、死ぬ。
ユリウスとオレは肉体的な能力も剣の技量も違う。
相手は勇者。
しかも神によって強化されている。
対するオレはただの村人。修行を積んだとはいえ、肉体的な能力は埋めようがない。
筋力と敏捷性は圧倒的にユリウスの方が上だ。
オレは剣の技量だけで何とか凌いでいるにすぎない。
単発や、2発目なら合わせられるが、12連撃ともなると……。
どうしてもズレが生じてくる。
どこまで合わせられるか――。
いや、超えられるか。
オレもユリウスと同じ構えをとる。
……受けきってやる、全て。
そして、押し切る。
「その構え、まさか、貴様も……?」
「どうだろうな……?」
「つくづく気に入らない男だ、レオン」
「気に入られようなんて、思っちゃいないさ」
「「神速天滅斬!!」」
最強の剣技。神速の12連撃が交錯する。
閃光のような速さで剣がぶつかり、火花が弾け飛ぶ。
轟音とともに衝撃が迸り、地面が揺れる。
一撃、二撃、三撃――剣と剣が重なり合い、轟く音が空間を震わせる。
四撃、五撃、六撃――タイミングがズレ始める! 互いの刃が肉をかすめ、鮮血が舞う。
「っおおおお!!」
七撃、八撃、九撃――全身を走る痛みを無視し、ただ本能で剣を振るう。
「うぁぁぁ!!!」
十撃、十一撃、そして最後の一撃。
――ガキィンッ!!
互いの剣が吹き飛び、地面に突き刺さった。
「ハァ……ハァ……」
「クソ……!」
オレたちは肩で息をしていた。
お互いに満身創痍。
ユリウスの額には汗が滲み、オレも全身が痺れていた。
「どうだ。受けきってやったぜ、ユリウス」
「レオン。貴様……『神速天滅斬』まで使いこなすとはな。正面からぶつかるなとは言われたが。まさかこれほどまでの実力を……」
オレとユリウスは荒い息を吐きながら、睨み合う。
腕は痺れ、全身に刻まれた斬撃の痛みが脈打つように響く。
たが、それはユリウスも似たような状況。
奴も立っているのがやっとのはずだ。
それでも、終わらない。まだ、終わらせる気はない。
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