第6話 好奇心
自然な流れでユックリと顔が近付き軽く口唇が触れる。私はそれを受け入れていた。
「嫌じゃ…ないの?」
「嫌じゃ…ないよ?」
私の拒絶反応が無い事で再び伊野さんは口唇を重ねる。今度は長めに触れ、それを何度か繰り返した。徐々にしっかりと触れ合う口唇に理性が麻痺し貪欲になる。
貪欲になると…特別感が欲しくなるのは何故なんだろう。もっと求められたい欲求が強くなる。
「名前…呼んで…くれる?」
「聡…介…さん?」
「呼び捨てで」
ちょっと甘えた感じで私を見てくる伊野さんが、かなり可愛く見えた。
「聡介…?」
「っ!」
私に元カノが重なったのだろうか。先程とは比べものにならないくらい強く抱きしめてきた。
名前を呼ぶ事で伊野さんは完全にスイッチが入ったのだろう。
「聡…介…っん…」
触れるだけのキスではない深く絡めるタイプのキスを与えられる。激しく甘いキスに私は悦びを感じてしまっていた。
「聡介…いいよ…もっと…シテ…」
私も彼に愛されたい…その気持ちが強くなる。きっと恋愛に離れていたから欲求不満だったのかもしれない。
ーーーーーーーーーー
甘くて官能的な時間は全てがどうでも良く思えた。
出会って間もない、よく知りもしない異性と欲情に流されるまま獣の様に求め合う。
破廉恥だと言われたとしても私は彼の元カノへの愛情を知りたかったんだ。私は…まともな恋愛を経験できていないから、羨ましかったのかもしれない。
名前さえ呼べば彼への魔法がかかる。甘く愛しい感情で呼べば呼ぶ程、効果は強くなる。
今までにこんなにも行為が終わらないで欲しいと思った程の経験したことなかった。
呼吸が上がり意識が朦朧とする…心地よい倦怠感に満たされウトウトしてくる。伊野さんに包まれている温もりが久しぶりの安らぎを感じさせてくれていた。
「あのさ桜…なんか、ごめん」
「…謝らないで良いから」
謝られたら惨めになってしまう。もういい大人なんだし割り切って自分が望んだ事なんだし、それに私は別に
伊野さんは起き上がると脱ぎ捨てていた服をかき集め身にまとった。私はそれをボンヤリと眺め現実が戻ってきたんだと冷静さを取り戻していた。
私達の関係は何だろうか…。友達でも恋人でもない今はまだ知り合い段階だけど、もしここで連絡先を交換したら…どういう関係に落ち着くのか…正直わからない。
恋をしているワケではないから恋人になるのも変だし、そもそも互いを知らなさすぎる。友達になるとしてもこの悦を知ってしまっては体を求めたくなるのは目に見えている。
正常な流れに戻すならば、これ以上は関わらない方が良いのだと思った。亜依達の結婚式付近まできっと関わる事はないだろうから。
多分、彼もそう思っているだろうと感じた。
だから連絡先は交換しない。
「終電ギリギリ間に合うから…行くよ」
「気をつけて…」
伊野さんはジッと私を見て何かを迷っている様だった。私はそれを察してニコリと笑顔を見せた。
「大丈夫だよ。何かあれば亜依を通じて連絡するから」
「え…あ、うん…お願いするよ。じゃあ…」
私はベッドから手を振った。その先までは見送らない…後ろ髪が引かれそうだから。
玄関が閉まる音を聞いて、やっと立ち上がり鍵を締めに進んだ。
そしてそのままシャワーに向かう。
鏡の中の自分をジッと確認してしまう。そんなにも似てる元カノって…どんな女性なんだろうと妬けてきた。
ふと気が付くと鎖骨付近と腹部の2ヵ所にキスマークがつけられていた。私はそっと腹部に触れる。本当なら朝一で婦人科に行こうと思っていた。1度だけだとしても可能性が全くないワケではないのだからアフターピルを処方してもらって、無かったことにした方が良いと思ったから。
でも…キスマークを残されている事で錯覚してしまう。まるで望んでいるみたいじゃないかと。…正直これは賭けだ。
シャワーを浴びてベッドに戻ると、ふんわり彼の匂いがした。
頭から離れない色んな表情が愛しくて恋しい。
やはり連絡先を交換しておけば良かったと後悔する。どんな関係になってもかまわない、ただもっと知りたいんだ伊野さんの事を。
「好きに…なっちゃった…のかな…私」
ただ、伊野さんが見ているのは私ではないから…不毛すぎる恋はしない方がいいんだ。
連絡手段も亜依を
この賭け次第で気持ちを整理する方向にシフトする事になると思う。
私の中で色々な気持ちが葛藤して落ち着かない。こんなに乱されるなんて…。
「賭けに勝ちたいって思っても良いのかなぁ…」
私が賭けに勝ったら伊野さんはどうするんだろうか。そもそも…ウッカリだろうし、きっと中絶の選択肢を言われるかもしれない。
そうなるなら、最初からアフターピルの方が良いに決まっているのだが。ただ…私の望みが叶う最後のチャンスでもある。
ずっと亜依が羨ましかったから。
まともな恋愛にならない私には結婚なんて憧れだし、子供が好きなのに望めないのは辛い。
最悪、伊野さんに許可だけ貰ってシングルで出産するのも有りだと思っている。
「ダメだな…私」
虚しすぎて笑ってしまう。
「もっと堪能しておけば良かったかな?…いや、あれ以上は…」
きっと私の中で今日は楽しかったのかもしれない。フワフワして挙動不審すぎた。
これはきっと眠れそうにない。
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