49:空の底を掘って ④/集った人々
「ふー…………ようやく終わった……」
結局、サイン付きナツクロイト鉱石譲渡会兼リスナーとのショートトークショーは、終わるまで三時間もかかってしまった。
途中でサインペンのインクが切れて神座さんに替えのサインペンを用意してもらったり、相当数の探索者達の名刺をもらったりなど、かなりヘヴィなイベントにはなったが……なんとか乗り切って、配信も終えることができた。
「もう一一時かー……。もう
言いながら、俺は改めて『空の底』を見渡す。
なんだかんだで大量の探索者達によってあらかた掘り尽くされた『空の底』は、真っ黒かつ滑らかだった地表が見る影もなく凹凸まみれになっていた。黒々としていた色合いも、今はもう殆どが空色の輝きに包まれていて、ときたま思い出したように黒が散らばる程度だ。
見事なまでの資源枯渇。人類の業を感じさせる光景だったが──
「こんなに掘っても明日には元通りというのだから、凄いですよ」
「人類からしてみれば、願ったり叶ったりだわな」
『
『大空洞』を除く
『
ちなみに、この際『
当然、異界物質で構成された肉体を持つ探索者も『
「うー……流石のナツカさんも疲れましたよ。生身の身体だったら絶対腱鞘炎でしたよ」
「探索者の身体でよかったな」
実際、ナツカはよく頑張っていた。今回ばかりは素直に労ってやるか。
しかしナツカは疲れを隠そうともせずにさらに続けて、
「最後の方とか、ナツカさん達が掘ったやつは全部なくなっちゃったから、自分達で掘ったやつにサインをお願いしてきたりもしましたし」
「でも、おすそ分けだってくれたのも結構あるじゃん。収支はプラスじゃね?」
「今は重いものを持つ方が嫌ですよ」
そう。俺達が用意したナツクロイト鉱石はあっさり完売してしまったのだが、此処に来た連中はもともと大々的にナツクロイト鉱石を採集しようとしていた猛者たちである。おすそ分けという名の残弾補充が適宜行われたことにより、俺達は当初自分達で確保した量よりも遥かに多いナツクロイト鉱石を手に入れたのだった。
……まぁ、その分荷物も増えたので、俺だけでなくナツカもでっかい袋を背に負うことになっているのだが。でも仕方ないじゃん。分けて管理しないとめっちゃ風が吹いてまともに持ち運びできないんだし。
「それに、結構な探索者と知り合えたしなあ~」
やはり、一番の収穫はそこである。
『調査』、『マイニング』、『
ナツクロちゃんねるの企画を考えるようになってから改めて痛感してるが、やっぱり俺達だけでできる企画ってたかが知れてるんだよ。誰かに依頼して色々準備してやる企画は、手間がかかってるだけあって面白い。
まだまだ収益化も決まっていないので、チャンネルとして予算を組める段階にもないが、そういうのをこなせたら、此処で得た人脈を使って色々と面白い企画をしてみたい。
「何にせよ今日は疲れましたよ。明日は色々休憩したいですけど……
ナツカはそう言って、鬱憤を晴らす様に天を仰いだ。
気持ちは分からないでもない。俺も、このあとキララとして配信しないといけないからな。
「明日以降は、ナツクロイト鉱石関連で時間を取られることはないから安心しろ。基本、イベント運営は迷宮省任せだしな」
「そうは言っても、ヴィヴィアネさんの居所なんか、手掛かりゼロになっちゃったですよ」
気楽に言う俺に、ナツカは心配そうにしながら呟く。
確かに、ヴィヴィアネさんの居場所は現時点で分かっていない。ナツクロイト鉱石の採集イベントを迷宮省任せにしたことで、WF城塞にヴィヴィアネさんが留まる動機がなくなっちゃったからな。
お陰でヴィヴィアネさんは姿を晦ましてしまっている。今回のイベントには協力すると言っていたので、イベント期間中にTAL空域で出会える可能性もあるが……今日の感じから察するに、イベント中にヴィヴィアネさんの居場所を掴んで根城まで尾行したりするのは、ほぼ不可能だ。
ただし──。
「心配要らん。それについては、俺の方で腹案があるからな。多少日数はかかると思うが……ほぼ確実に、ヴィヴィアネさんをおびき寄せることはできる」
「……ふむ? いったいどんなトリックを使うんですよ?」
「トリックってほど大層なもんじゃない」
首を傾げるナツカに対し、俺は不敵な笑みを浮かべつつこう答えた。
「お前の手管を参考にしたってところかな。単なるお礼状を送るだけだよ」
◆ ◆ ◆
「いやー! 久々にやるけどランクマ、楽しいねえ~☆」
ナツカと潜る
日々色んな刺激の連続だし、これまで自分がしてこなかった分野への挑戦は、失敗も多いがそれだけ成功したときの喜びも大きい。本当に、この日常をこれからも続けていくためならどんな努力だってできると思えるほどだ。
ただし。
だからといって、俺が今まで続けて来た
数日ぶりのランクマだったのだが、俺は数か月ぶりくらいの気持ちで新鮮にランクマを楽しんでいた。
コメント欄もこころなしかうきうきしているようである。
『配信久々だけど、やっぱ弟子関連?』
『すごい発見してたね』
「ん~まぁね。色々相談に乗ってあげたり~? って言っても、殆ど何も言ってあげられなかったケド。あの二人はもういっぱしのダイバーなので~す☆」
一応師匠ということになっているので、それっぽく師匠ヅラをしてみたりしつつ、俺は配信場所──病院の待合室の長椅子に寝転んだ。
天井付近に配置したカメラドローンを見上げながら、可愛らしい寝姿を披露しつつ、
「そうそう、ナツクロイト鉱石。使い切れなかったからって師弟サービスで幾つかもらってね。『ブラスミ』系の人いたらちょっと作ってほしいオモチャがあるんだけどな~」
スカートの中身が見えないギリギリのラインを見極めながら長椅子の上で足を組みつつ、俺はコメント欄を見て呟く。
『ブラスミ』というのは、『
読んで字のごとく異界物質から装備を作り出すことを楽しむスタイルだが、今は作り出す装備も多様化していて、ざっくりと『異界物質で小物を作り出す人達』の総称と化している。
工業化が進んでいる現代
ちなみにカーマシア砂漠に行くときにつけていた若葉マークのネックレスも、『ブラスミ』系の人が作って売っていたものを買ったりしていた。結構身近なのである。
『俺ブラスミ』
『キララが異界装備欲しがるなんて珍しい』
『D-1グランプリ参加してほしい』
『俺もブラスミだよ』
『
「ランクマで使う訳ないでしょ~? プライベートで、ちょ~っとね☆」
意味深に微笑むと、コメント欄では残念がる声が多く流れて来た。まぁ、今話題の異界物質だしなぁ。手に入らない人もそれなりにいるだろうし、配信上ででも見たいって人はそれなりにいると思う。
……ん~、とはいえ、キララとして普通の探索配信はしたくないしな。そこは切り分けておきたいというか。あと、多分コイツらナツクロイト鉱石の仕様良く分かってないからパンチラ期待してそうだし。さっきから旋風のエゴサにパンチラ待機の連中が一定数引っかかるくらいだからな。中身はスパッツだというのに浅ましい男どもめ。
「
そんなことをぶつくさ言っていると、ちょうど端末ドローンからアラーム音が鳴り響いた。
お、もう次の試合の時間か。
『ブラスミ』のアテについては、それなりに確保できそうな雰囲気だし、これで俺の『策』の準備は完全に整った。
あとは後顧の憂いなく、思う存分
「さて、次の対戦と行きますか☆」
跳ね上がるように起きて、俺は次の対戦の場へと進んで行く。
今日の戦場は廃病院。電気系統は使えないが、手術器具や薬品といった環境利用が戦況を左右する面白いステージである。
ここ最近まともにランクマもできていなかったし、今日は気合入れて
…………結局、『
なお、翌日は精神的疲労により、ナツカともども
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