40:見えて来たものは ③/進むべき道

 『WF城塞』の探索は熾烈を極めた。


 俺の懸念通り、騎士甲冑の迷獣モンスターは一体一体襲って来るなんて律儀な真似はしてくれない。すぐに、剣やらモーニングスターやら金棒やら盾やら、思い思いの武器防具を携えた騎士甲冑達が徒党を組んで襲い掛かって来た。……武器にバリエーションがあるのかよ。まぁ、同種の迷獣モンスターにバリエーションがあるのなんて他にも枚挙に暇がないが……。

 しかも連中、コンビネーションもしっかりしている。大振りの金棒の隙を突こうとしても剣がちらつき、間合いを測ろうとするとモーニングスターが飛んでくる。しかも、最初の戦闘を盗み見て学んでいるのか、俺が触れた地面は罠を警戒して避けて通る始末だ。まぁ、これについては警戒が素直すぎるので、あえて地面を触れて警戒させるブラフが面白いように通ったが。

 幸いだったのは、騎士甲冑の移動速度自体は、連中の巨体を加味しても速いとは言えない点か。探索者の膂力と敏捷を以てすれば、接近戦で間合いを潜り抜けるのは難しくとも、相手の間合いに入らないように逃げ回るだけなら不可能ではなかった。



「クロ! クロっ! もうヤバイですよ! 爆弾使いましょう! 使っていいですよね!?」


「出し惜しめ! まだ余裕はあるだろ! こっちに追いつけない程度の足の迷獣モンスターが何体襲ってこようが本質的に関係ない! 逃げることに集中しろ!」



 厳密には、連中が武器を投擲してくる可能性とか、遠距離武器を携えた新手が前方から現れる可能性とか、逃げるだけではそういう危険を潰すことはできないのだが、そこはあえて言わない。

 爆破でしか対処できない迷獣モンスターに追われるという経験は、なんだかんだド素人に毛が生えた程度の力量しかないナツカにとってはかなりプレッシャーだからだ。変に情報を流し込んで勝手な判断をされてしまっては困る。ナツカが保持している六セットの『爆弾』は、もうどうしようもないというタイミングで使う秘密兵器なのだから。



「それに……連中の弱点も少し分かって来た」



 廊下をナツカと共に走り回って騎士甲冑から距離を取りつつ、俺はナツカに囁いた。

 といっても、此処を攻撃すれば簡単に勝てるというようなウィークポイントではない。それよりは、どちらかというとのような、戦略の傾向といった方が近い。



「弱点!? それは何ですよ! それさえ分かればこっちのものですよ!」


「連中の最優先目標だ。戦闘と一口に言っても、防衛戦だとか殲滅戦だとか捕獲戦だとか、種類は色々ある。攻城戦もな。そして、どうも見たところ、連中の狙いは……『撃退戦』らしい」



 騎士甲冑の攻撃は、一撃で俺達を倒せるような類のものが多い。

 だから最初、俺は単純に探索者を最短で乙らせるような行動方針で動いているのではないかと思った。だが……だとすると、最初の一体が俺達と戦っていた間、他の個体が様子見を決め込んでいたのがおかしい。

 連中は明らかに、集団で統制をとって俺達を襲ってきていた。すると、集団の癖というのも自然と見えて来るものだ。



「連中の位置取りは、常に『奥』に背を向けて、俺達を入口の方へ押し返すようだった。攻撃も、基本的には俺達を外へ弾くようなもので、『奥』に引き込むような攻撃パターンは一度もなかった。……気付いていたか?」


「そんなもんあの攻撃を躱しながら考えられる訳ないですよ」



 なんか変なものを見るような目をするんじゃあない!



「つまり、連中は死んでも俺達を『奥』の方へ通したくないんだ。裏を返せば、『奥』へ行こうとすれば騎士甲冑達の攻撃はさらに過激化する。ナツカ下がれ!」



 呼びかけながらバックステップすると、一瞬前までいた場所に金棒がめり込む。明確な隙だが、その隙をカバーするようにして横合いから剣を持った騎士甲冑が俺達目掛けて切り込んでくるのが見えた。いつものコンビネーションだ。これのせいで、隙が生まれた騎士甲冑を始末しようとしてもできないでいるのだ。

 これは、頭数が減ることで俺達に通過されないようにという判断基準によるものだろう。──ただ、やっぱり詰めが甘い。



「ナツカかがめ!!」



「あいあい了解ですよ!」



 俺が指示を出すと、ナツカはその場にしゃがみこんだ。

 俺はそんなナツカを拾い上げると、めり込んだ金棒に足をかけ──


 ──ずに、逆に金棒の陰に隠れた。

 ギシ、と剣を振るっていた騎士甲冑の腕が軋んだのが分かった。金棒の騎士甲冑のフォローの為に剣を振るっていた訳だが、剣の騎士甲冑は金棒の上に俺達がいることを前提にして動きを組んでいた。

 その俺達が急に金棒の陰に隠れてしまったから、咄嗟にその動きを追ってしまい──


 ガギィン!! と、剣と金棒が派手に衝突し、重さに劣る剣の方が大きく弾かれてしまった。金棒は地面にめり込んでいるしな。

 そして、これが俺の狙い。

 これでようやく突破口が開けた……。


 金棒はめり込み、剣は弾かれ、二つの騎士甲冑の間合いは至近のためモーニングスターは振るえず、自由に動けるのは盾のみという状況。

 俺は、ナツカを抱えたまま一目散に走り出す。この状況ならば、剣の騎士甲冑を抜けばそのまま『奥』へと進むことができる。



「おお、これは!?」


「安心するのはまだ早いぞ。武器は無力化したが、そもそも──」



 俺が言い終わるよりも前に、剣を弾かれて上体が揺らいだ剣の騎士甲冑から、破れかぶれの蹴りが飛んで来た。きちんと予測していないと、横を通り抜けようとしていたその全身に足がクリーンヒットして、なすすべもなく乙っていたことだろう。

 まぁ、最初から読めていた蹴りなんか普通に跳躍して躱すだけなのだが……。



「おぉ…………なんかこんな簡単に通り抜けられるなら、さっき無理して倒す必要なんかなかったんじゃないですか?」


「ばーか、逃げるのも手札の一つなんだよ」



 無事に四体の騎士甲冑を置き去りにして『奥』へと進みながら、俺はナツカを下ろして言った。



「さっき俺の探索技能スキルのみで倒したのは、敵に俺の無力さを植え付けるためだ。俺の強さを遠巻きに監視して分析していたのは知っているからな。真っ向勝負でギリギリなら、囲んで叩けば確実に撃退できる。向こうにそう思わせたんだよ」



 知能があるというのは、非常に厄介な個性だ。あるのとないのとだったら、俺はない方が戦いやすい。

 だが、別に知能があるならあるで、引っかけ方なんか星の数ほどあるのが『対人戦』である。何せ俺は、そんな世界で八年もプロをやってるのだし。



「で、意識の外に置いた『逃走』を此処で切る。これで計五体を実質無力化したわけだ」



 もっとも、おそらくこの情報は他の騎士甲冑にも共有されるだろうし、何ならさっき置き去りにした騎士甲冑どもが武装を投擲して遠距離攻撃してきたり、もしくは前方から遠距離武器で攻撃してくる追手が来たりしないとも限らない。

 つまり現状は全然安心できる状況ではないわけだが、それでも『逃走』という札一枚だけで無傷で四体を無視して『奥』へ進むなら儲けものだ。『爆弾』も使わなかったしな。



「…………!」



 と、俺は廊下の先に一瞬光るものを見た。

 武器……これまでの流れからして能力はない、となると遠距離武器? こんな遠くから? ……いや、スケールの大きな……弓あるいはいしゆみならあり得る。

 横を見ると、ナツカも危険は察知したらしい。



「遠くから来そうだぞ! 躱せよ!」



 流石に、この遠距離からでも届くような攻撃をナツカを抱えながら躱すのは厳しそうだ。廊下には障害物も少ないし……そもそも半端な障害物ならまとめてぶち抜かれそうだし。

 幸い、ここまで主体的に立ち回っているのは俺だから、おそらく優先的に狙われるのは俺になりそうだが。


 地面を蹴って壁の方へ移動し、壁から設置型のトーチを生やして掴み、これをさらに足場にして跳躍。

 そうやって移動すると、ちょうど俺が先程までいた位置を矢が高速で通過した。おお、やっぱり俺狙いだったか。ナツカの方は……走りつつわたわたしてる。こりゃアカンな……。



「ジグザグに走れ! 直線だと狙いを定められるぞ!」



 言いながら、俺は跳躍が頂点に達したところで壁を蹴って空中を移動する。一瞬前までいた場所を、またもや矢が通過した。

 ……くっそー、連中に視覚があるかどうか分かれば、炎での目潰しとかも試せたんだけどな。視覚で狙ってきてるか分からないからできない。けっこう余裕ないから、その分で一手無駄にしたら普通に片腕持っていかれそうだしな。

 天井から吊るされた巨大な照明の上に載って、さらに跳躍。照明はけっこういっぱいあるので、これで俺は天井近くを移動して回れるようになった。


 ……超遠距離攻撃ってのは、射線が通っていることが前提だ。照明の上を動き回れば、照明が遮蔽物になってくれる上に明るさで相手の視覚を妨害してくれるから射撃の脅威は半減である。視覚はあるか分からないがな。

 あとは、ナツカが狙われないうちに高速で弓の騎士甲冑に接近して、とっととケリをつけてしまえばいい──のだが、いや、ちょっと待てよ。

 これ、もしかして俺、誘われてないか?

 遠距離攻撃の使い手に対して接近して対処するというのは、定石中の定石だ。向こうだってそれは理解しているはず。だとしたら、照明などというあからさまな弱点が環境にある状況で、距離を詰められる展開を想定していない訳がない。

 ……とすると、超遠距離射撃は囮。距離を詰めて対応しようとしてきた俺を、待ち伏せした他の近距離型の騎士甲冑が叩くのが相手の本命とみるのが妥当か。


 ギィ、と、俺を載せた照明が揺らめき軋む。

 俺は照明を吊るしている鎖を掴みながら、一旦動きを止めた。……どうせ向こうはこちらを正確に狙えない。ナツカはまだ向こう的には攻撃対象になっていないようだ。あるいは、あっちはあっちで囮だと思われているのか。……なら、このタイミングだな。



「ナツカ! 例の鉱石は持ってきてるよな!?」


「もちろん持ってきてますよ! っていうか置いていくタイミングがなかったんですけど」


「ならいい。射程内に入ったらそいつを一個使って、『爆弾』を風圧で飛ばせ! それで弓のやつを吹っ飛ばす! ついでに待ち伏せしてるやつらも怯ませて、そのうちに突破するぞ!」


「えっ待ち伏せとかされてるんですか?」



 ああ、言ってなかったな。



「まぁ合点ですよ! ナツカさんにお任せあれ! タイミングは言ってほしいですよ!」


「無論!」



 短く答えて、俺は照明の上を飛び接近を開始する。

 向こうも申し訳程度にこちらを射て来るが、照明と光を盾にしたお陰で俺には届かない。ナツカのことを狙われるのが怖いのだが……いやほんとにさっきから攻撃してこないな。

 ナツカの危険度は低く見積もられるように動いてはいたけど、でも一発も射られないなんてあり得るか? ちょっとナメすぎでは? 迷獣モンスターらしい割り切りといえばそれまでだが……。

 ……いや、逆か? ナツカがナメられてるんじゃなくて、俺が警戒されすぎてる? …………あり得る。だって、生身で騎士甲冑をベコベコにしてるしな。さっき四体に囲まれたのも、絶対勝てる人数で来られたと思っていたが、実際には相当警戒して囲んで叩く戦法を選んでいたのかもしれない。そう考えると、ナツカには目もくれずに俺だけ狙っているのも何となく納得がいく。


 だが、それならそれで好都合だ。

 接近を続け、いよいよ遠くに弩を構えた騎士甲冑が見えたというタイミングーー。



「ナツカ、行け! 撃ったら全力ダッシュで突っ切るぞ!」


「了解ですよ! ふぁいやー!」



 気の抜ける掛け声と共に、ナツカはナツクロイト鉱石(仮)を接着させ、暴風を生み出す。その風に乗って、ろうそくの『爆弾』が勢いよく吹っ飛ばされた。

 当然だが、『爆弾』は真っ直ぐ飛ばなかった。『爆弾』は斜めに飛んで壁にぶつかるなど散々な軌道をえがいていく──が、そもそもの勢いが強かったお陰で、無事に弩の騎士甲冑の近くまで飛んだ。

 まぁ、あの『爆弾』は破壊が目的ではない。最大威力とはいえ、爆破範囲は広くても直径一メートルが精々だからな。

 目的は、音と光、それと破壊力を敵に印象付けること。そちらに意識を取られている間に、俺達が突っ切ってしまおうという魂胆である。視覚や聴覚があるかは分からないが、戦闘行動をとり警戒できる以上、爆発という分かりやすい破壊力を警戒しない訳はないからな。


 ──直後。


 ゴッゴォォオオオオン!!!! と、凄まじい爆音と爆光が、廊下の先で炸裂した。……あれだけの威力で爆破範囲は直径一メートルかそこらというのだから驚きである。物理法則に反しているにも程がある性能だ。まぁ、そんなの探索技能スキルに言うのは野暮天もいいところだが。



「走れ走れ走れ走れ!」


「うおー!!」



 爆破の煙もまだ晴れないうちに、俺とナツカはそれぞれ照明と廊下の上を爆走する。

 そして、弩の騎士甲冑がいたところを通過──


 ──案の定、弩の騎士甲冑の脇の物陰には剣と金棒の騎士甲冑が控えていた。ただし、連中は爆破による煙に乗じての攻撃を警戒して、その場で武器を振り回して対応している。こちらの接近には気付けていなかった。

 その間に、俺は問題なく包囲網を突破──



「……あっ、しまった。これダメなやつで」



 ──する直前、下を走っていたナツカの声が、俺の耳に入った。


 声が途切れた。ナツカが『ギミック』を見逃した? いや爆煙か! 途切れたということは少なくとも発声不能な状況。即乙? いや違う。状況的に、『振りだしに戻るギミック』か!

 ただし、運動量を突然ゼロにすることはできず──俺はそのまま、爆煙を通過してしまった。


 …………何ともないが?



「……あれ、俺はなんで『ギミック』を食らってないんだ?」



 とりあえず、追撃を食らいたくないのでそこそこに『奥』へと移動しつつ……俺は状況を整理してみる。

 ナツカは一向に煙の中から出て来ない。まぁ乙ったか入口まで戻されたかだろう。ナツカ一人で此処まで来れるとは思えないし、自力の合流は不可能だな……。

 『ギミック』が発動したと仮定して、だが。

 確かヴィヴィアネさんの言によると、『先へ進んでいても、特定の道順を通らないといつの間にか最初の地点に戻ってる』という仕組みだったらしい。道順……俺とナツカは同じ道を通っていたが──と考えかけ、俺は自分でその思考を否定する。

 そうだった。ナツカと俺は明確に別の道を進んでいたじゃないか。つまり、、だが。

 考えてみれば、何もかもが巨大なこの城において、照明の上は一つの階層と呼べるほどしっかりした足場となっていた。登ることさえできれば、誰でも一つのルートとして規定できそうな程には。

 道順といっても、それは二次元よこだけの話ではない。三次元たての道順も、『ギミック』の発動対象になるというわけか。


 …………現在時刻は一九時か。結構長いこと潜ってたな……。……今から入口からスタートするには時間も微妙そうだし、俺が諦めたら今日は探索終了かな。

 となると、あとは行けるところまで行くか、尻尾巻いて帰っちゃうかだが……。……この難易度を考えると、戦闘的にも予習はしておきたいんだよなぁ。次何来るかが分かっていれば、ナツカに対しての指示も明確にできるだろうし。

 であれば、ここは前進あるのみ。


 ………………。



 ……と考えて、俺は足を止めた。

 確かに、攻略のことを考えるならば、此処で先に進んで経験値をためておくのが俺達二人の為にもベスト、なのだが……。



「んん~~…………気が乗らねえ……」



 一人で潜ってもなぁ~……。

 確かに探索的には最適解なのかもしれんが、ナツカが初見なのに俺だけ予習済みっていうのもな。最初のとっつき始めならいいけど(配信的に視聴者説明パートが必要なので)、攻略が本格化した後にそういう差が出るのはあんまり楽しくない。

 というか、別に俺は一人で探索するのが大好きというわけでもないのだ。いくら騎士甲冑攻略が対人戦っぽいからといって、所詮は迷獣モンスター。正直、何度もかち合ってると飽きが来る。

 …………、……こう…………アレが脇にいるから面白いのであって、ね。



「しゃーない。帰るか」



 一人になった俺は、あっさりと撤退を決断した。

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