NTRヒロイン、集結ッ!



大変お待たせして申し訳ございません!





――――――――――――――――――――――――






 あたしはねとつべに流れてきたニュースを見て、思わず二度見してしまった。

 なんでねむのママが総理大臣になってんの……?


 相変わらずなに言ってんのかぜんぜんわかんないけど。

 とにかくねむママがおかしくなっちゃってるのはわかる。


 問題は、それが私たちの身に降りかかってきそうなことだ。

 こんな政策が実行されるとかありえないんだけど!


 まあ、さすがに周りの人たちが止めるでしょ。

 そう思っていたら、ネトスタに大量の由芽さんのコスプレイヤーが溢れかえった。


 ……みんなどうしちゃったの!?

 国家ってこんなに権力強かったっけ?


 世紀末みたいな状況にびくびくしていると、あたしの部屋がノックされる。


「ねえ、チカちゃんにお願いがあるんだけどぉ……! ゆめにマスカラ貸して欲しいの!」

「ママ……!?」


 なんであたしのママまで由芽さんになってるの!?

 どうなってんの!? 洗脳とかされちゃったの!?


 ……あのニュースの演説を聞いたら、こうなっちゃうのかな。

 あたしはねむママと会ったことがあるから、洗脳の効き目が薄いのかもしれない。


 ママにマスカラを貸してから、ネトスタで友達にメッセージを送る。

 まだ手遅れになってない人も多いはず。


 でも、あたしの友達はみんなけっこうSNS見てるから、ほとんど由芽さんになっていた。


 誰か……誰かいない?

 この異常事態で正気を保ててる人!


『どうやら、とんでもないことが起きているようですね……』


 よかった! 撫子はまだ大丈夫みたい!

 お嬢様らしいし、日頃の行いがいいからかな。


『どうなってるの……これ……』


 ……伊万里も大丈夫だったんだ。

 メッセージ送るか迷ったけど、無事ならよかった。


 世の中の興味が薄いおかげで洗脳から逃れられたみたいだ。


『チカちゃん!? だいじょうぶ!?』

『よかった。チカも無事みたいだね』


 かなぽよとあやのんからも返信がきた。

 心配してくれてたみたいだ。ふたりも無事で安心した。


 ……ていうか、みんなあいつの被害者じゃん。

 ここはちょっと、集合してみるのもいいかもしれない。


 みんなに、私の家に来ないかって呼びかけたら、すぐにみんなは集まってくれた。

 きっとみんなも、不安でいっぱいだったんだろう。


「お久しぶりです泊さん。あの時以来ですね……」


 撫子はぴしっとキレイなお辞儀をする。


 さすがのあたしもこの子にはあだ名をつけられなかった。

 和の心を乱しちゃうような気がして……。


「うん。この前はありがとね、撫子」

「いえいえ。当然のことをしたまでですから……」


 撫子には、前にあいつの情報を提供してもらったことがある。

 SNSであいつの危険性を呼び掛けてたら、撫子からメッセージを貰った。


 その人に、私も弄ばれたって――。

 撫子がくれた情報のおかげで、あの人にあいつのヤバさを伝えられたんだよね。


 こんな子にまで手を出すなんて、あいつほんとに許せない。


「……久しぶり」

「うん……」


 もう二度と会うことはないだろうなって思ってたのに、また会うことになるなんてね。


 この子も被害者だし、仲間はひとりでも多いほうがいいよね。


「お邪魔します……よかった。無事な人もいるんだね……!」

「ここがギャルの家か……」


 かなぽよはほっとした表情を浮かべる。

 あやのんはこんな時でもあたしの家に興味津々だ。


 よし……これで全員集まった……。


「で……どうする? この状況。いろんなものが機能してないし、ママとか身近な人にも影響がある以上、正気なあたしたちがなんとかするしかないよ」


 あたしはみんなに座ってもらって、お茶を出してから本題に入った。


「ゆ、由芽ちゃん化政策をやめてほしいっていう署名を集めるとか……?」

「……それが通じる相手じゃないんじゃない?」


「だよね……」


 かなぽよの提案に、伊万里がもっともなことを言う。

 こんなまともなことを言えるようになるなんて……。


「可愛い女の子を差し出すというのはどうですか? 由芽さん以上の人が現れれば、あの方も政策を取り下げるのではないかと」


「それも通じないんじゃないかな……あの人ってもう由芽さんのことしか見えてなさそうだし」


「そうですよね……」


 撫子ってこういう発想もできるんだ。

 ちょっと面白いけど、あの人にはなぁ……。


 みんなでぽつぽつとアイディアを出してはボツになっていく中で、今まで静かに話を聞いていたあやのんが口を開いた。


「撫子の案なんだけどさ……もしかしたら、あいつを差し出したらいけるかもしれない」


「あいつって……まさか」

「うん。名取ねむのことだよ」


 あやのんの言葉に、緊張感が走る。


「なんであいつを……?」

「今の総理は、由芽ちゃんしか見えてない。だから、本物の由芽ちゃんじゃないと総理を止められないわけだけど……本物の由芽ちゃんは半分だけ残ってる。それが名取ねむだよ」


「……あいつが由芽ちゃんとして不十分だったから、あの人はああなったんじゃないの?」


「それはあると思う。でも、今総理を止められる可能性があるとしたら、名取ねむか、暗殺くらいしかない。総理のガードは固いし、暗殺は難しいと思う。それなら、名取ねむに賭けてみる方が分のいい賭けになるんじゃないかな」


「今の名取ねむは、由芽ちゃんの半分程度の力しかない。逆に言えば、半分はあるってこと。もう半分を埋められるだけの何かがあれば、総理も満足するんじゃないかな」


 ……この子。

 とんでもないことを考えるな。


 普通だったら、こんなことせずに署名とかクーデターとかでなんとかしようとするだろう。


「……それ、いいね」


 相手は、普通じゃない。

 だからこういう奇策が、いちばん効果があるんじゃないかな。


 みんなも、こくりと頷いた。


「やってみよう。名取ねむを――探そう」


 あたしたちにしてきたことの分。

 あいつには役に立ってもらうんだから。


「ねえ……みんな。わたし、あいつの家知ってるよ」

「ほんと!? じゃあみんな、行くよ!」


「ええ!」

「行こう!」


「さぁ……作戦開始だよ」

「彩乃、かっこつけてる場合じゃないよ」


 なんで伊万里があいつの家を知っているのかはさておき。

 あたしたちの、日常を取り戻す戦いが始まった。






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