第44話 17話(2)

「あの人は、し、知り合いなんですか? シスター」

あの口ぶりで知り合いじゃないという方がおかしい話なのだが、思わず俺の方から質問したくなるほど気になって仕方がない。

こんな張り詰めた緊張感を切らすことすらできないひりついた空気の中でも、シスターは意外にも嫌な顔せずに答えてくれた。

「左にいる黒い闇で覆われた黒髪のクールな男性は黒血のブラーク。右にいる赤いフードをまとった少し陰よりの雰囲気をまとった赤髪の女の子が創血のクリフェイナ。先ほど斬撃を放った紫と白をベースにした女性が、全ての吸血族の中でも最強と言われている天血のリンデンベアル。かつては私と共に世界を戦慄の恐怖に陥らせた一人」

3人全員が吸血族。

いずれも名前を聞くだけで間違いなくインフェルティエに匹敵する強さだと感じ取れるくらいの強者のオーラを感じさせる。

その中でもシスターが自分と同じくらいの強さかそれ以上だと言っていた天血のリンデンベアルは恐怖という言葉ですら軽く感じてしまうほどの言葉で言い表せない威圧感があった。

「そこで話している男の子が、最近シスターと一緒にいると噂の混血の適合者ね。まだ手合わせしてないけど、何となくあのシスタルシアが連れて行こうと思える素質はありそうじゃな~。早く対戦してみたいものじゃ~」

「リンデンどころか、吸血族相手だとまだ足元にも及ばないですよ。素質があるのは事実ですけど、まだまだ勉強の日々です」

出会って間もないのに俺がシスターからの混血に適合した人間であることを見抜き、その素質を買っているという点はシスターと共通している。

一見仲が良さそうに見える会話も、互いの中に秘めている抑えきれない殺意のぶつかり合いによってとてもそうは見えない。

「な、何しに来た? わざわざあんたほどの吸血族がここに来るなんてよほどのことだろ?」

インフェルティエすらも予想していなかったのか、驚きと困惑の入り混じった声と表情で話す。

それに対しリンデンベアルはブラークに何か指示をさせると、ブラークは無言で満身創痍のインフェルティエに近づき、そこから自分の肩を貸し、ブラークはインフェルティエを持ち上げる。

「な、何をする! 私はまだ完全に負けたわけじゃ」

ブラークに肩を貸してもらうことにインフェルティエが拒否反応を示そうとするもそれを封殺するようにリンデンベアルが持っていた刀を喉元へと突き立てる。

「インフェルティエ。これはうちからの命令じゃ。もはやこの国を利用するだけの価値もないし、今ここで無理にシスタルシアを殺そうとしたところで返り討ちにされるだけじゃ」

「私一人は無理でもあんたと協力すれば不可能じゃ……」

「言うことをきかぬならそなたの命をここで終わらせてもいいのじゃぞ?」

リンデンベアルのはっきりとした殺意の混ざった脅しによって手助けされることに拒否していたインフェルティエも無言で抵抗をやめざる終えなかった。

その殺意は俺やシスターも含めた全員に伝わっており、何も攻撃をしていないのに恐怖で足をピクリとも動かすことが出来なかった。

「ブラーク、クリフェイナ。インフェルティエを連れて先に戻っておけ。わしは少しばかりシスターと世間話に花を咲かせてからいく。安心せい。シスタルシアにわしは殺せないのじゃから」

リンデンベアルはパチンと指を鳴らし、背後に最上級レベルの転移魔法陣を瞬時に展開する。

その転移魔法陣にクリフェイナとブラーク、そしてボロボロ状態のインフェルティエが足を触れたのを確認すると、魔法陣を起動させる。

後一歩で殺せそうだったインフェルティエを逃してはいけないと言わんばかりにシスターが技を仕掛けようとするも、それを完璧についばむようにリンデンベアルが威圧感をかけてくる。いつもであれば、相手の脅しにも一切屈しないシスターがリンデンベアルを相手だと、いつもよりも心なしか弱気に見える。

実際、何も攻撃を加えることが出来ないままクリフェイナたちはあっという間にこの場から姿を消した。




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