第38話 15話(3)
炎血のインフェルティエ。
それこそが本来の名前であり、吸血族としての姿。
正体を明かした直後、辺りに死んでいた兵士の死体から流れ出ていた血が、ガソリンに火が引火したかのように突然かつ一気に燃えだしている。
そしてそこまでの時間を空けることなく、今度は兵士の死体も一斉に燃え始めた。
ついさっき、頭を使ってベルクラウスを倒したのが可愛く思えてしまうほど、インフェルティエの実力が突き抜けている。
俺も含めた3人全員がインフェルティエには絶対に勝てないということを本能的に悟ってしまうほどの圧倒的な風格を醸し出している。
「本当なら、本性を明かすのは本命に出会うまで隠すつもりだったけどこうなった以上はこの国が燃やして灰にしてしちゃお。せっかく吸血族としてじゃなく、わざわざ人間のフリして国を乗っ取ってからあいつをぶっ殺そうと思ったのに」
インフェルティエの語る本命とあいつと言うのはおそらく同一人物のことを指していて、その人物がシスターのことを言っていることは察しが付く。
問題はなぜ、自分からではなく、わざわざ国内部に潜入して国を乗っ取るという遠回りなやり方をしたのか。
「インフェルティエ。お前が目的のためになんでここまで回りくどいやり方をする必要があったんだ? さっきまでの実力を見ていれば、わざわざ国を乗っ取るなんて真似をする必要はあったのか?」
俺の質問に対し、インフェルティエは余裕と意味深な笑みを浮かべながら語り始める。
「普通の人間を殺すためならここまでする必要はないね。でも、あいつを殺すとなるとただ真正面から殺しに行くだけじゃ不可能。だから、私にとって都合のいい国を乗っ取って、自分が権力を持つことであいつの情報を探りつつ、他の国の侵略も同時並行で進めて最終的にあいつが生き残っていくための住処を奪う。言わば、規模を拡大した兵糧攻めと言ってもいい」
なるほど。
だからベルクラウスにシスターを殺害するように吹きかけたのもインフェルティエの仕業というわけか。
ベルクラウス自身の手によるベラルティア王国の支配を強固にするために国内部を統制していたのに、なぜか吸血族であるシスターを殺すように言われていたのは血を分け与えたインフェルティエからの指示。言い換えれば、偽物のホムラ令嬢が実は全ての騒動の裏を引いていたとも間接的に言える。
「それにしても、わざわざ国内部に潜入するためにこの国の令嬢を殺し、そこから外部から派遣されてきた今は亡き灰人を使って王族内部の地位を上げつつ、灰人が一定の地位になった後は時折奴の手を下すことに協力させながら、機が熟したタイミングで切り捨てるつもりだったんだけど……まさかそこすらたどり着かないとはね。自分の見る目のなさを嘆くと同時に人間は所詮、吸血族に食われる存在でしかないということを再認識したわ」
インフェルティエの言葉は人間に対するえげつない見下しと自らがベルクラウスを操っていたことを認めたに近いもの。
この一連の話を聞いて、リデルもサラディア思わずそれぞれの気持ちをぶつけずにはいられなくなる。
「おい。インフェルティエって言ったか? あんたの発言が本当だとすればこれまで裏で殺し屋たちを操っていたのもベルクラウスではなく、実はあんたが裏で操っていた事か?」
「その話に私は便乗させてもらうけど、その元々私がいた組織の人間が隠しルートも含めてどこにも見当たらないんだけど。それどころか、あなたはベルクラウスに狙われてもおかしくない存在。どうやって暗殺を逃れたの?」
前半のリデル、後半のサラディアの言葉。
どちらも、自分たちに関係のある話題ということもあって真剣な面持ちを崩さない。
ついさっきまでのベルクラウス撃破直後の雰囲気を考えると、落差が激しすぎるくらいである
そんな二人からの質問攻めにあっても、特に感情を崩したりもすることなく、むしろ寛容に近い様子で語り始めた。
「何を聞いてくると思えばそんなことね。まぁせっかく何も知らずに灰になるのもさみしい話だし教えてあげる。まず、私がベルクラウスやテロ組織を操っていたという話。これは、半分正解、半分不正解。確かに私は力を欲していたベルクラウスに近づいて、血と力を分け与えたのは事実。でもそれは、あくまで私がインフェルティエとして接触した時の話。偽物のホムラ令嬢としては直接接触することはなかったし、むしろ力を与えてあげた私を何も知らずに殺そうとした。だから私はこの国でおこった事件には基本的には干渉していない。むしろ、ベルクラウスが自滅するタイミングをずっと狙っていたのだからわざわざ私から手を下すことはしてこなかった。この日まではね」
リデルの質問に対する回答をようやくすると、インフェルティエとしてベルクラウスに接触して力を与えたことは認めた一方で、リデルの両親殺害、ヴァンロード聖教会の襲撃を含めた一連の事件には関与していないという内容。
確かに偽物に成りすましていたとはいえ、王族の中でも最上位クラスに君臨している上、ベルクラウスがかなり独裁主義に近いやり方をしていたこともあって、表立って動かなかったという事実は真実に近いものと見ていいのかもしれない。
タイミングを見計らってベルクラウスを潰そうとしていたところを見ても、リデルの両親殺害に関して言えば、間接的に関わっていることは捨てきれなくても、直接関与していたという可能性はかなり低い。
だからこそ、半分正解で半分不正解という結論を先に述べたのだろう。
その質問に対して、リデルはインフェルティエが嘘を言っていないことを悟ったのかこれ以上に何かに言及することはなかった。
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