第15話 5話(4)
今にして思えば、ただのテロリストたちはシスターが『吸血族』の生き残りであるという情報をどうやって知ったのか。そして、そいつらが
「やっぱり人を殴るってのは最高だな! 日頃からお偉いさんたちにこき使われて、ストレスを晴らすにはこれが一番いいぜ!」
ということを語っていたを思い出した。最初は俺自身が絶体絶命の危機だった影響で対して気に留めていなかったが、シスターの今の話を聞いて『お偉いさん』というのがテロリストを仕切っているテロ組織のボスのことを言っていたのではなく、ベルラティア王国の王族からの命令であれば、ボスやリーダーとではなく、『お偉いさん』という言い方をしたのにも妙に納得がいく。
「聖教会に襲撃してきたテロリストはテロ組織独断ではなく、ベルラティア王国の指示によるもの。その指示を出した黒幕がシスターと同じ『吸血族』なのであれば確かに納得がいきますね」
「それだけではありません。黒幕が王国の兵隊ではなく、テロリストを使ったのも表向きには命令しづらい内容(『世間では存在してはいけない種族とされている『吸血族』の殺害』)だったのも示しがつきます。そして、人間相手の情報収集が得意なイフォバットが中々確信に迫った情報を得ることが出来なかったのは王族の中に潜んでいる『吸血族』が妨害工作を行っていたのであれば、誰が『吸血族』であるかという情報をイフォバットを収集できなかったのも腑に落ちますね」
ベルラティア王国に入国して早々、まさかの敵地に足を踏み入れていたという事実。
それでも、シスターの話を指し示していけば、ベルラティア王国がシスターを『吸血族』の生き残りとして手始めにテロリストを送り込んだのもある得る話だ。
「これで私たちが次に動くべき行動は決まりました。とはいえ、これはローデンのために始めた旅です。私が可能性を提示したのは、あくまでローデンの選択肢を増やすために提案したまでです。どういう選択をしても、それはローデンの旅の記憶となるのですから」
相変わらずというか、シスターは優しいのかずるいのかわからない。
俺をいきなり強引な形で旅を進めてきたのかと思えば、今度は旅の方向性は自分で決めなさいと自由を与えられる。
これがアメと鞭というやつか。
「俺はシスターに拾われていなければ、野垂れ死にしていた身。シスターの言う通り、自分のやりたい事を探すのは当然ですが、同時にシスターが血を引いている『吸血族』についてももっと知りたいです。俺はまだ、シスターのことをほとんど知らないので」
どうせ本音を隠したところで完璧に見抜かれるのはわかっていることだし、しかも今回は人間相手の情報収集を得意としているイフォバットもいるので、正直な心境を語った。
俺自身、なぜシスターがそこまでして『吸血族』の壊滅を目論んでいるのか。自身が『吸血族』であるという秘密を知られたくない理由が何なのかと具体的な理由は正直、挙げればキリがないのだが今回は一括りにまとめておこう。
俺の決断にシスターはフフフと我が子を見守る母親のような笑みで笑顔を浮かべていた。
こんな笑顔を見たのはなんだか久しぶりのような感じである。
「なるほど。ローデンらしいですね。でしたら、ここに閉じこもっているのもあれでしょうし、少し外を見て回りましょうか。せっかくの旅路です。楽しめるものは楽しまないといけませんね」
シスターはゆっくりと立ち上がり、出かける準備を始める。
流石にベルラティア王国に入国して、何も国内の様子を拝見することなく、なおかつ誰が『吸血族』なのかという宛てもない状態で待機するはずがないとは考えていた。
それでも、そういう裏の事情を抜きにすれば、人生で初めて知らない地での探索となるので門をくぐる前よりもずっとワクワクという好奇心が勝っていたのである。
それはある意味、聖教会での生活は良くも悪くも外に出られない平和という鎖に縛り付けられていたということを意味していたのかもしれない。
その後、イフォバットを部屋に待機させた状態で俺とシスターは情報収集も兼ねた王国内の散策を行うことになった。
俺にとっては初めての人の大勢集まる世界の探索。
果たして、ベルラティア王国にはどのような冒険が待っているのだろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます